第35話 変わった世界
街道は、以前より賑やかだった。
人の数が増えたわけではない。
行き交う理由が、変わっただけだ。
***
「……登録は、任意です」
街の入口で、若い役人がそう告げる。
「評価も、受けても受けなくても構いません」
穏やかな口調。
拒否される前提の言い方だ。
それでも、
列は自然と二つに分かれていた。
登録する者。
しない者。
どちらも、咎められない。
だが。
登録した者は、
宿と食料の案内を受ける。
登録しない者は、
「自己判断区域」へ通される。
***
「……選択の自由、ですか」
アルトは、少し離れた場所からそれを見ていた。
ドレイクが、低く答える。
「表向きはな」
自己判断区域には、
看板が立っている。
※この区域では、
支援・仲裁・補償は行われません。
文字は丁寧だ。
脅しではない。
事実の告知だ。
***
区域の中。
焚き火はある。
人もいる。
だが、誰も声を張らない。
助けを求める相手が、
いないからだ。
「……谷より、
ずっと整ってますね」
アルトが言う。
「整えすぎだ」
ドレイクは即答した。
谷には、
境界がなかった。
ここには、
境界が制度として存在する。
***
街を出る途中。
小さな掲示板が、目に入った。
評価免除区域:北街区
半評価区域:中央街区
完全評価区域:南街区
誰も、強制されていない。
だが。
選ばされている。
***
「……戻れませんね」
アルトは、歩きながら呟いた。
「何に?」
「前の世界に」
評価一択の世界にも、
評価なき谷にも。
もう、戻れない。
***
夜。
宿ではなく、
自己判断区域の端で火を起こす。
誰も、声をかけてこない。
それが、この区域の“安全”だ。
アルトは、炎を見つめながら思う。
これは、
谷の続きではない。
だが、
谷がなければ生まれなかった。
「……使われ始めましたね」
ドレイクが言う。
「ああ」
アルトは、頷く。
評価を壊した結果、
評価は“選択肢”になった。
それは、
自由に見える。
だが。
自由が、
商品になった。
***
遠くで、鐘が鳴る。
登録区域の合図だ。
自己判断区域では、
何も鳴らない。
それが、
この世界の新しい音だった。
アルトは、火を消す。
「……ここからですね」
「ああ」
ドレイクが答える。
思想は、
もう守られていない。
だからこそ。
ここから先は、
使われる。
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