第34話 選ばれなかった答え
谷は、まだそこにあった。
人は減った。
焚き火も、一つだけ。
だが、火は消えていない。
***
ラグは、朝の空気を吸い込みながら、谷を見回していた。
「……今日は、どうする?」
誰かが、自然に声をかける。
命令ではない。
期待でもない。
ただの、問いだ。
「水路の点検からだな」
ラグは、そう答えた。
即断ではない。
だが、逃げてもいない。
その判断に、誰も拍手しない。
誰も文句も言わない。
それが、今の谷だった。
***
一方、自治官ミルド・ラゼンは、別の地図を見ていた。
赤い印と、青い印。
赤は、管理下に置いた集落。
青は、放置した集落。
谷は、どちらでもない。
「……中途半端だな」
部下が、言う。
ミルドは、否定しなかった。
「だが、
消えていない」
それが、問題でもあり、
希望でもあった。
「評価を完全に戻せば、
反発が起きる」
「放置すれば、
失敗例が増える」
どちらも、正しい。
ミルドは、静かに結論づけた。
「……管理モデルを、
増やすしかない」
谷は、
採用されなかった。
だが、
無視もされなかった。
それが、現実だ。
***
アルトは、別の土地を歩いていた。
成功した話も、
失敗した話も、
どちらも耳に入る。
谷の名は、
少しずつ、違う意味で使われ始めていた。
「……自由の集落」
「……無責任な場所」
「……奇跡の例外」
どれも、正しくない。
どれも、間違っていない。
アルトは、立ち止まる。
「……答えは、
選ばれなかったな」
ドレイクが、頷く。
「だが、
問いは残った」
それで、十分だった。
***
夜。
遠くで、いくつもの火が見える。
管理された火。
放置された火。
偶然残った火。
谷の火は、
そのどれでもない。
ただ、
選び続けている火だ。
アルトは、空を見上げる。
「……広がらない方が、
いいものもありますね」
ドレイクは、短く答える。
「だが、
消えもしない」
***
谷は、理想郷にならなかった。
世界も、変わらなかった。
ただ。
評価されない場所が、
確かに一つ、存在した。
そして、
それを見た者がいる。
次は、
それをどう使うかだ。
選ばれなかった答えは、
静かに、
次の争いの種になる。
火は、揺れている。
消えない。
だが、
増えもしない。
それでいい。
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