表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘力ゼロで追放された俺、 最強じゃないのに周囲が勝手に従い始める  作者: 山奥たける


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/35

第22話 選ばないための条件

 谷に、朝の空気が戻ってきていた。


 だが、人の配置は戻っていない。


 焚き火はいくつかに分かれ、

 声は低く、短くなった。


 誰も争っていない。

 誰も追い出していない。


 それでも――

 ここは、もう同じ場所ではなかった。


 ***


 アルトは、谷の中央に立った。


 珍しいことだった。


 誰かを集めたわけでもない。

 呼びかけたわけでもない。


 それでも、人は気づく。


 「何かがある」と。


 少しずつ、視線が集まっていく。


「……決まりを、作るんですか?」


 誰かが、警戒するように言った。


 アルトは、すぐに首を振る。


「いいえ」


 はっきりした否定だった。


「命令もしません。

 罰も、評価もありません」


 ざわめき。


 それなら、何をするというのか。


「ただ――」


 アルトは、一度、息を吸った。


 ここから先は、逃げられない。


「条件を、一つだけ提示します」


 沈黙。


 言葉を選ぶ時間は、もう終わっている。


「この谷にいる間、

 誰かの成果を、当然のものだと思わないでください」


 すぐには、意味が伝わらなかった。


「狩りに行く人。

 薪を集める人。

 何もしない人」


 ゆっくりと、続ける。


「それぞれが、

 それぞれの事情で選んでいます」


 視線が、揺れる。


「だから、

 “もらって当然”も、

 “与えて当然”も、ありません」


 誰かが、口を開こうとして、閉じた。


「……それって」


 若い男が、恐る恐る言う。


「結局、

 分けるか分けないかは、

 各自の判断ってことですか?」


「はい」


 アルトは、頷いた。


「ただし」


 声が、少しだけ低くなる。


「判断した結果は、

 自分で引き受けてください」


 それは、罰ではない。


 だが、無関係ではいられない宣言だった。


 ***


 沈黙が、流れる。


 誰かが、笑った。


「……それ、

 今までと何が違うんだ?」


 アルトは、答える。


「今までは、

 “何もしなくても、誰かが何とかしてくれる”

 という空気がありました」


 胸の奥が、少し痛む。


「それを、

 ここで終わらせます」


 誰も、反論できなかった。


 正論ではない。

 だが、逃げ場もない。


 ***


 その日の昼。


 変化は、すぐに現れた。


 狩り組が、食料を分ける前に言う。


「今日は、これだけだ」


「全部は、回らない」


 責める声は、上がらない。


 代わりに。


「……じゃあ、

 明日は一緒に行く」


 そんな声が、聞こえた。


 義務ではない。

 命令でもない。


 選択だ。


 ***


 一方で。


 谷の外れでは、荷をまとめる者がいた。


「……ここ、

 思ったより楽じゃなかったな」


 誰も止めない。


 止める理由が、ない。


 ***


 夜。


 焚き火の前で、アルトは深く息を吐いた。


「……これで、よかったんでしょうか」


 ドレイクが、短く答える。


「少なくとも、

 逃げなかった」


 アルトは、頷いた。


 胸の奥に、重さがある。


 それは、後悔ではない。


 責任だ。


 評価はしない。

 命令もしない。


 だが、

 場を放置もしない。


「……これが」


 アルトは、焚き火を見つめた。


「俺にできる、

 一番遠回りなやり方ですね」


 ドレイクは、少しだけ笑った。


「向いてるぞ」


 谷は、まだ不安定だ。


 だが。


 誰も、

 “当然”の顔をしなくなった。


 それだけで、

 崩壊は一歩、遠のいた。


 ただし――


 このやり方は、

 必ず誰かに嫌われる。


 その時、

 アルトがどう選ぶのか。


 それが、

 第2部の本当の山場になる。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ