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戦闘力ゼロで追放された俺、 最強じゃないのに周囲が勝手に従い始める  作者: 山奥たける


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第15話 正論が正論を壊す

 帝国軍・中央評価局。


 朝から、報告が止まらなかった。


「移動対象者、予定の一・三倍」

「再評価請求、処理不能」

「登録拒否による空白データ、急増」


 書類が机に積み上がり、

 評価官たちの顔色は、確実に悪くなっていた。


「……おかしい」


 白髪の将官が、低く唸る。


「評価対象を広げたはずだ。

 なぜ、数字が安定しない」


 イリス・フェルディナは、沈黙したまま資料を見ていた。


 分かっている。

 理由は、明白だ。


「評価を広げれば広げるほど、

 “評価されない行動”が増えています」


 若い評価官が、恐る恐る口を開いた。


「……どういう意味だ」


「登録しない。

 申告しない。

 判断を曖昧にする」


 彼は、唾を飲み込む。


「人々が、“評価されない方法”を学び始めています」


 その瞬間、室内が凍りついた。


 ――評価制度が、

 “回避対象”になり始めている。


「……愚かだ」


 将官が、吐き捨てる。


「評価は、秩序だぞ」


「はい」


 イリスが、静かに答えた。


「だからこそ――

 避けられるようになった」


 秩序は、強制した瞬間、

 人の知恵を引き出す。


 それは、制度設計の基本だ。


「……強制力を、上げる」


 官僚の一人が、言った。


「登録拒否者への罰則を追加する」


 その言葉に、イリスの心臓が、強く打った。


「それは、悪手です」


 即座に言う。


「恐怖で動かせば、

 数字は短期的に整います。

 でも――」


「長期的には?」


「制度が、信頼を失います」


 沈黙。


 将官は、ゆっくりとイリスを見た。


「信頼は、数値化できるか?」


 その一言で、

 すべてが決まった。


「……できません」


 イリスは、認めた。


「だから、優先順位は低い」


 官僚が、淡々と結論づける。


「罰則を導入する。

 評価拒否は、反逆とみなす」


 その判断は、

 制度上、完全に正しかった。


 ――そして、完全に致命的だった。


 ***


 同日、前線。


「通達が出た」


 帝国官吏が、紙を読み上げる。


「評価登録を拒否した者は、

 移動対象を超え、

 監視対象とする」


 人々の顔から、色が消えた。


 抵抗は、起きなかった。


 だが。


 翌日、数字が跳ねた。


「……生産量、急落?」


「住民が、最低限しか動いていません」


 評価を下げないため、

 動かない。


 働けば評価される。

 評価されれば、管理される。


 だから、動かない。


 その選択は、

 あまりにも合理的だった。


 ***


 魔王軍領。


「帝国の補給が、滞っている」


 ドレイクが、報告を受ける。


「戦闘はない。

 だが、兵が動かない」


 アルトは、焚き火の前で、静かに聞いていた。


「……評価が、人を縛りすぎた」


 ドレイクが、低く言う。


「縛れば、逃げ道を探す」


 アルトは、拳を握った。


 ――これが、ざまぁの形か。


 誰も罰していない。

 誰も勝ち誇っていない。


 それでも。


「制度が、自分で自分を壊している」


 ドレイクが、頷く。


「強さを数値化した結果、

 誰も強く動けなくなった」


 ***


 夜。


 中央評価局。


 イリスは、一人、机に向かっていた。


 罰則導入後の数値推移。

 世界安定指数――さらに低下。


「……予測通り」


 だが、胸は重い。


 これは、勝利ではない。

 敗北ですらない。


「制度の自己崩壊」


 誰も、責任を取らない。

 誰も、止められない。


 イリスは、目を閉じた。


 あの追放者の顔が、脳裏をよぎる。


 彼は、壊したのではない。

 壊れる構造を、照らしただけだ。


「……次は、誰が止める?」


 答えは、分かっている。


 だが、それを認めるには、

 帝国はまだ、遠すぎた。


 嵐の音が、遠くで続いている。


 まだ、雷は落ちていない。


 だが――

 落ちる場所は、もう決まっていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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