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戦闘力ゼロで追放された俺、 最強じゃないのに周囲が勝手に従い始める  作者: 山奥たける


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第12話 戦争は、起きていた

 最初に異変が観測されたのは、戦場ではなかった。


 帝国軍・中央評価局。

 深夜の分析室で、イリス・フェルディナは記録板を睨んでいた。


「……おかしい」


 戦闘件数は、減っている。

 損耗率も、下がっている。

 前線は停滞し、衝突は回避され続けている。


 ――平和に近づいている。


 本来なら、そう結論づけるべき数値だ。


 だが。


「世界安定指数が、下がっている……?」


 補佐官が、息を呑んだ。


「あり得ません。戦闘は減っているんですよ?」


「だからよ」


 イリスの声は、低かった。


「戦争は、“戦闘”だけで起きているわけじゃない」


 彼女は、古い記録を引き寄せた。

 過去の大戦。

 異常事例として封印されていた資料。


 そこに、同じ傾向があった。


 ――戦闘減少。

 ――損耗低下。

 ――世界安定指数、急落。


「……まさか」


 評価官の一人が、声を震わせる。


「戦争そのものが……」


 イリスは、ゆっくり頷いた。


「ええ。

 戦争は、止まっていない」


 ***


 同時刻。


 魔王軍第一軍団の野営地でも、異変は起きていた。


「報告!」


 伝令が駆け込む。


「後方の補給路で、地盤崩落が発生!

 戦闘はないのに、被害が……!」


 ドレイクが、即座に立ち上がる。


「原因は?」


「不明です。

 ただ……」


 伝令は、言いづらそうに続けた。


「最近、同様の“事故”が増えています」


 落雷。

 橋の崩落。

 作物の急激な不作。


 どれも、戦争とは無関係に見える。


 だが。


「……アルト」


 ドレイクは、焚き火のそばにいる男を見た。


 アルトは、すでに立ち上がっていた。


「始まっていますね」


「何がだ」


「戦争です」


 その言葉に、周囲が凍りつく。


「剣も、銃も使っていない。

 でも――」


 アルトは、地面にしゃがみ、土を掴んだ。


「人が選ぶ余地がなくなり始めている」


 ドレイクの眉が、深く寄る。


「……説明しろ」


「戦争は、意思の衝突です」


 アルトは、土を離した。


「それが剣で起きることもある。

 評価で起きることもある。

 そして今は――」


 空を見上げる。


「選択肢が消える形で、起きている」


 ***


 帝国各地で、同時多発的に問題が起き始めた。


住民同士の衝突


評価を巡る暴動


理由なき不安と焦燥


 戦闘はない。

 敵も見えない。


 それでも、人は追い詰められていく。


 ***


 中央評価局。


「世界安定指数、危険域に突入!」


 警告灯が、赤く点灯する。


「原因は!?」


「……特定できません」


 イリスは、唇を噛んだ。


 違う。

 特定できないんじゃない。


「認めていないだけよ」


 彼女は、はっきり言った。


「評価制度は、戦争を“制御”するために作られた。

 でも――」


 拳を握る。


「制御できない戦争が、存在することを

 私たちは前提にしていなかった」


 誰かが、呟いた。


「……じゃあ、今起きているこれは……」


「評価による戦争」


 イリスの声は、震えていなかった。


「人が考え、選び、迷う余地を奪うことで起きる戦争」


 静まり返る室内。


 誰も、反論できなかった。


 ***


 夜。


 アルトは、焚き火の前で、深く息を吐いていた。


「……俺のせいですか」


 ドレイクが、即答する。


「違う」


 だが、否定しきれない沈黙があった。


「お前がやったのは、“止めた”ことだ。

 だが――」


「止められないものが、溜まった」


 アルトが、続きを言った。


「はい」


 戦争は、止まらない。

 形を変えるだけだ。


 剣がなければ、数字になる。

 命令がなければ、空気になる。


「……どうすればいい」


 ドレイクの問いは、重かった。


 アルトは、しばらく考え、答えた。


「戦争を、終わらせることはできません」


 その言葉に、絶望が走る。


「でも――」


 アルトは、焚き火を見つめた。


「戦争が起きる場所を、選べるようにはできます」


 ドレイクは、息を呑んだ。


 ***


 同じ夜。


 イリス・フェルディナは、一人、窓のない部屋で立ち尽くしていた。


「……彼は」


 戦闘力ゼロの追放者。


 その存在が、

 戦争を止めたのではなく――


「戦争の形を、暴いた」


 それが、真実だった。


 評価制度は、間違っていない。

 だが、十分ではなかった。


 イリスは、静かに目を閉じる。


 帝国は、選ばなければならない。


 彼を排除するか。

 彼の示した現実を、受け入れるか。


 そして――

 アルト自身もまた、選ばなければならない。


 この世界で、何を“受け皿”にするのかを。


 雷鳴が、遠くで轟いた。


 嵐は、もう始まっている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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