第11話 噛み合わない正解
同じ日、同じ時間。
それぞれの場所で、誰もが「正しい判断」を下していた。
***
魔王軍第一軍団の野営地。
「配置を変える。前進はしない」
ドレイク=バルガの命令に、部下たちは即座に動いた。
「だが、敵は――」
「敵は来ない」
断言だった。
「来たとしても、
ここで剣を抜けば、守るべきものが消える」
部下は一瞬迷い、だが頷いた。
理由は、理解できなくてもいい。
結果が出ている。
それが、今の魔王軍だった。
***
一方、帝国軍・前線指揮所。
「……魔王軍が、動かない?」
若い将校が地図を睨む。
「はい。防衛線を引いたまま、交戦を避けています」
「意味が分からん」
だが、強行突破は選ばれなかった。
「損耗が増える。評価が下がる」
判断は、合理的だった。
――正しい。
だが、その正しさが、
戦線を奇妙に停滞させていた。
***
街道沿いの町。
「兵を通すな、とは言っていない」
町長は、困った顔で言った。
「ただ、夜営は町の外で頼む、と」
帝国兵は、渋い顔をする。
「それは……補給効率が……」
「分かっています。でも――」
町長は、言葉を選んだ。
「無理に通して、
後で揉めるより、ましでしょう」
その判断は、誰にも責められない。
だが、街道は少しずつ“通れなく”なっていく。
***
廃村の焚き火。
アルトは、薪を足しながら考えていた。
――広がっている。
自分が何かをした、という感覚はない。
それでも、確実に。
「……これ、良い方向なのか?」
ドレイクが、低く答える。
「短期的にはな」
「長期的には?」
「……分からん」
珍しく、彼は即答しなかった。
「戦わずに済む時間が増えれば、
戦う理由も、溜まる」
アルトは、息を詰めた。
それは、否定できない。
「俺は、止めたつもりはないんです」
「分かっている」
ドレイクは、アルトを見た。
「だが、お前が通った後、
皆が“考える”ようになった」
それは、祝福にも呪いにもなり得る。
***
帝国・中央評価局。
イリス・フェルディナは、報告を読み続けていた。
どれも、正しい。
どれも、規則通り。
それなのに。
「……停滞率が、上がっている」
戦闘は減っている。
損耗も少ない。
だが、進展もない。
「戦争が……“詰まり”始めている」
評価制度は、進むためのものだ。
勝つか、負けるか。
止まる、という選択肢はない。
「これは――」
彼女は、ペンを置いた。
「制度の想定外」
戦争が、
“戦争でなくなりつつある”。
その原因が、
戦闘力ゼロの追放者だとしたら。
「……危険なのは、彼じゃない」
イリスは、独りごちた。
「この状況を、
どう扱えばいいか分からない、私たちだ」
***
夜。
アルトは、焚き火の前で、珍しく眠れずにいた。
胸の奥に、ざらつく感覚がある。
――誰も、間違っていない。
――でも、全員が噛み合っていない。
「……これ以上、広がったら」
言葉にできない不安。
そのとき、遠くで雷鳴が鳴った。
雨の前触れだ。
ドレイクが、空を見上げる。
「嵐が来るな」
「ええ」
アルトは、焚き火を見つめた。
火は、静かに燃えている。
今はまだ。
だが、風向きが変われば――
一気に燃え広がる。
この世界は、今。
正しさが同時に存在しすぎて、
どこにも進めなくなっていた。
それが、何を意味するのか。
答えは、もうすぐ出る。
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