表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘力ゼロで追放された俺、 最強じゃないのに周囲が勝手に従い始める  作者: 山奥たける


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/35

第10話 正しさは、使われる

 帝国軍・中央評価局の会議室は、無駄に広かった。


 円卓を囲むのは、将官、文官、評価官。

 全員が“正しい側”の人間だ。


 イリス・フェルディナは、壁際に立っていた。

 発言権はあるが、決定権はない。

 それが彼女の立場だ。


「結論は明確だ」


 白髪の将官が、低い声で言った。


「戦闘力ゼロの追放者――アルト・レイン。

 彼を回収する」


 会議室に、ざわめきが走る。


「回収、とは?」


「帝国の管理下に置く、という意味だ」


 別の官僚が続ける。


「彼の存在は、戦争を抑制している。

 ならば、それを意図的に使うべきだ」


 イリスは、奥歯を噛んだ。


 ――来た。


「監査官」


 将官が、イリスを見た。


「君の分析では、彼は危険か?」


 一瞬の沈黙。


 イリスは、慎重に答えた。


「……危険です」


 ざわめきが強まる。


「理由は?」


「彼は、命令に従いません」


 その一言で、場が静まった。


「評価制度の外で動く存在は、

 制御できない」


「だが、今は結果を出している」


「偶然です」


 イリスは、はっきり言った。


「彼の力は、再現性がない。

 使えば、必ず歪みます」


 将官は、少しだけ笑った。


「歪みは、管理すればいい」


 その言葉に、イリスの胸が冷える。


 ――それは、父が死んだときと同じ論理だ。


「命令書を用意しろ」


 将官が、事務官に指示する。


「“協力要請”という形でな」


 イリスは、思わず声を上げた。


「それは、強制です」


「いいや」


 官僚が、淡々と答える。


「彼には選択肢を与える。

 帝国に協力するか、

 追放者として生きるか」


 それは、選択ではない。


 イリスは、視線を落とした。


 ***


 同じ頃。


 街道沿いの廃村で、アルトは焚き火を起こしていた。


 ドレイクは、少し離れた場所で見張りに立っている。


「……帝国の動きが早いな」


 アルトは、呟いた。


「感じるか」


「ええ。

 空気が、変わりました」


 説明はできない。

 だが、分かる。


 ――こちらを“理解しよう”とする気配ではない。

 ――“道具として扱おう”とする気配だ。


 焚き火の向こうから、足音がした。


 帝国軍の使者。

 武装は最小限。白旗を掲げている。


「アルト・レイン殿」


 使者は、礼儀正しく頭を下げた。


「帝国より、協力要請をお持ちしました」


 羊皮紙が差し出される。


 アルトは、受け取らなかった。


「内容は?」


「あなたの存在が、戦争を抑制している。

 よって、帝国管理下で活動していただきたい」


「管理下、というのは」


「行動範囲の指定、接触相手の記録、

 必要に応じた配置転換――」


 ドレイクの殺気が、一瞬だけ漏れた。


 アルトは、静かに言った。


「それは、命令ですね」


「協力です」


 使者は、即答する。


「帝国は、あなたを評価しています」


 アルトは、焚き火を見つめた。


 評価。


 その言葉が、ひどく遠く感じる。


「……一つ、聞かせてください」


「何でしょう」


「俺が、帝国の命令で人を動かしたら――

 彼らは、本当に“選んだ”と言えるんでしょうか」


 使者は、答えなかった。


 答えられなかった、が正しい。


「俺は、命令できません」


 アルトは、はっきり言った。


「それをした瞬間、

 俺のやってきたことは、全部壊れます」


 使者の顔が、強張る。


「拒否、ということですか」


「はい」


 短い沈黙のあと、使者は頭を下げた。


「……承りました」


 立ち去る背中を見送りながら、ドレイクが言う。


「敵に回すぞ」


「ええ」


 アルトは、否定しなかった。


「でも――」


 焚き火の火が、揺れる。


「利用されるくらいなら、

 嫌われた方が、まだましです」


 その言葉は、静かだった。


 だが。


 帝国にとって、それは

 最も理解しがたい拒絶だった。


 ***


 夜。


 イリスは、報告を受けていた。


「……拒否?」


「はい。明確に」


 彼女は、目を閉じた。


 胸の奥で、何かが音を立てて崩れる。


「……そう」


 予想通り。

 それでも、安堵があった。


「彼は、正しい」


 ぽつりと、そう呟いてしまう。


 補佐官が、驚いてこちらを見る。


 イリスは、すぐに言い直した。


「――厄介だ、という意味よ」


 だが、心は知っている。


 評価制度では測れないものが、

 確かに存在する。


 そして。


 それを道具にしようとした瞬間、

 帝国は一線を越えた。


 イリスは、静かに立ち上がった。


「監視を続けるわ。

 ただし――」


 窓のない部屋で、彼女は前を見据える。


「彼を壊す判断には、私は加担しない」


 その決意が、

 どれほど重い意味を持つか。


 まだ、誰も知らない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ