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戦闘力ゼロで追放された俺、 最強じゃないのに周囲が勝手に従い始める  作者: 山奥たける


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第1話 戦闘力ゼロ、追放

この物語には、

派手な必殺技も、

一瞬で敵をなぎ倒す無双も、

ほとんど出てきません。


代わりに出てくるのは、

数値で人を測る世界と、

その中で「役に立たない」と判断された主人公です。


もしあなたが、


評価されることに疲れたことがある


正しさが息苦しいと感じたことがある


強くない自分にも、居場所がほしいと思ったことがある


なら、この物語は少しだけ刺さるかもしれません。


戦闘力ゼロの追放者が、

戦わずに世界を変えてしまうまでの話を、

どうぞ、最後まで見届けてください。

 帝国軍・第七演習場。

 石畳の中央に据えられた水晶盤が、朝の光を受けて冷たく輝いていた。


 ――評価水晶アセスメント・クリスタル


 兵の価値を数値化し、戦場の席順から配給の量、宿舎の場所まで決める。帝国が誇る“合理”の心臓だ。

 そして今日、その心臓が俺――アルト・レインの存在価値を断罪するらしい。


「次、アルト・レイン。前へ」


 呼ばれた瞬間、視線が刺さった。

 同情じゃない。好奇心と期待だ。――誰かが落ちる瞬間を見たいという、あの目。


 俺は一歩踏み出し、水晶盤の前に立つ。

 両手を水晶に添え、深く息を吸った。


 心のどこかで、まだ祈っていたのかもしれない。

 ――“ゼロ”だけは勘弁してくれ、と。


 水晶が淡く光り、数値が浮かぶ。


 【戦闘力:0】


 一瞬、演習場が無音になった。

 次の瞬間、笑いが爆ぜた。


「ははっ、冗談だろ!」

「ゼロって……訓練兵の子どもでも一は出るぞ」

「そもそも生きてるのか?」


 笑いの中、指揮官席から乾いた声が落ちてくる。


「静粛に。……アルト・レイン、戦闘力ゼロ。規定により、帝国軍より追放する」


 言い慣れた文言だった。

 帝国は情では動かない。数値が低い者は資源の無駄。合理がそう言う。


 俺の喉はからからに乾いた。

 言い返したい言葉は山ほどある。

 訓練で倒れた仲間を背負って戻ったこと。

 兵站の計算が苦手な班長の代わりに、夜通し帳簿を整えたこと。

 揉め事が起きれば仲裁に走り、罰を受けたこともある。


 でも――この水晶は、そんなものを測らない。


「……承知しました」


 声が思ったより平らで、自分でも驚いた。


「おいおい、素直だな、ゼロ!」

「泣けよ。土下座でもしたら、一日は伸びるかもな?」


 笑い声が、耳の奥で歪む。


 指揮官――レオス・ハインツ中将が立ち上がり、演習場を見下ろした。

 鎧の装飾が光る。肩の徽章が、価値の証明書みたいにぎらついていた。


「帝国軍は戦場だ。戦えぬ者に居場所はない。――以上」


 言葉が終わった瞬間、衛兵が俺の両脇についた。

 連行される罪人の扱いだ。


「少し待ってください」


 口をついて出たのは反論ではなく、別のことだった。


 衛兵が怪訝そうに眉をひそめる。レオス中将が面倒そうに顎をしゃくった。


「……手短に言え」


「荷物を取りに。あと……この場にいる皆さんへ、謝りたい」


「は?」


 笑いが止まり、今度は困惑が走った。

 俺は視線を落とし、言葉を選ぶ。


「俺がここにいるせいで、班の評価が落ちたことがありました。戦闘訓練で足を引っ張ったこともある。……迷惑をかけた人がいるなら、すみません」


 喉の奥が熱くなる。

 惨めだから謝るんじゃない。

 迷惑をかけたのは事実で、それを放って出て行くのが嫌だった。


 静寂の中、誰かが小さく舌打ちした。


「おい、綺麗事はいい。さっさと消えろ」


 声の主は、同期の槍兵――グラントだ。

 俺は彼を責める気になれなかった。彼は真面目で、評価制度の中で必死に生きている。

 俺みたいな“ゼロ”が隣にいるだけで、隊の数値が下がるのだから。


「悪かった」


 俺はそれだけ言って、荷物置き場へ向かおうとした。


 そのとき。


「待って!」


 甲高い声が、背中に飛んできた。


 小柄な整備兵の少女――ミナが、人垣をかき分けて走ってくる。

 手には布袋。俺の工具袋だ。


「これ! 昨日、あなたが直してくれたやつ! 返せてなかった!」


 彼女は息を切らしながら袋を突き出した。


「……直したのは、たまたまだよ。壊れてたから」


「たまたまで、夜中まで残って直す人はいないって! それに……」


 ミナの声が、少しだけ震えた。


「うちの班、昨日の整備、間に合ったの。あなたがいなかったら、罰点ついて、配給減ってた。……ありがとう」


 演習場の空気が、ほんのわずかに揺れた。

 笑っていた連中が、どこか気まずそうに目を逸らす。


 ――そうだ。

 評価水晶は測らない。

 でも、人は見ている。


 胸の奥に、小さな灯がともる。


 その灯を踏み潰すように、レオス中将の声が落ちた。


「感謝など無意味だ。数値が全てだ。――連行しろ」


 衛兵の手が、俺の腕にかかる。


 俺はミナから工具袋を受け取り、短く頭を下げた。


「こちらこそ。……助かった」


 立ち去りながら、ミナの声が背中を追ってくる。


「アルト! どこ行くの!? 追放って……この先……!」


 どこへ行く。

 そんなの、俺にも分からない。


 ただ一つ確かなのは――帝国は、俺を“ゼロ”として切り捨てたということ。

 そして、この世界では“ゼロ”は、存在しないのと同じ扱いだ。


 門へ向かう廊下は長く、冷たい。

 窓の外には城壁の向こう、荒野が広がっていた。


 その荒野のさらに向こうに、魔王軍の領域がある――と聞く。


 笑える話だ。

 帝国に追放された俺が行ける場所があるとしたら、敵の国くらいしかない。


 でも。


 足を止めた瞬間、胸の奥の灯が、もう一度ぱちりと鳴った。


 ――もし、俺に戦う力がないなら。

 ――戦わずに勝つ道を探せばいい。


 門の鉄扉が軋み、外の風が吹き込んだ。

 乾いた匂いと、遠い雷の気配。

 それは“終わり”じゃなく、“始まり”の匂いがした。


「……行くか」


 俺は工具袋を肩にかけ、城門の外へ一歩踏み出す。


 背後で誰かが笑った気がした。

 でも、もう振り返らない。


 戦闘力ゼロ。追放。


 そのはずだった。


 ――俺の“価値”が、ここから増えていくなんて。

 この時は、誰も知らない。


ここまでご覧いただきありがとうございます。


当面の間は、一日に3話を投稿予定です。


ブックマークをして、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
第一話すごく面白かったです! 読んでいると帝国の場面や、訓練場で訕笑する兵士たちの姿が頭に浮かびました。 でもミナの人情味ある行動が、数字では測れない人の温かさを感じさせてくれて良かったです…
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