第3章 驚くべき ユキコの身体能力。
◆SF/現代ドラマ/少しハードボイルド
◆未来から来たアサシン × 古物商の男
◆非日常と日常のギャップ
◆戦闘力MAXの女 × 庶民的な男
◆“救われない未来”から漂着した女が、生まれ直す物語
この作品は「派手な戦闘」よりも、
ふたりの距離が近づいていく感情の動きと、
現代の日常に混ざる非日常を楽しんでいただければ幸いです。
投稿はゆっくりペースになるかもしれませんが、
最後まで大切に書きたいと思っています。
どうぞよろしくお願いします。
ネットやショッピングモールで買い物をすることにした。
ユキコはまだ自分の衣服がない。下着すらないのだ。未来の世界から文字通り裸一貫で俺たちの時代に来た。
「スエット一着では困るだろ?何かほしいものはあるかい。」
おれはPCの電源を入れて通販サイトを彼女に見せてみた。
ユキコは画面を見てあっけに取られている。
「・・・・この時代のサイトは色が鮮やかすぎるわね目がチカチカする」
「えぇ?そうかい?普通だろ。」
ユキコは俺がマウスを使って画面を操作するのを見て使い方が分かったようで
俺の手からマウスを奪って画面の操作をして商品を見ていく。
しばらくサイトを閲覧していくと
「派手な色が多いわね。こんなものなの?」
「女性の服と言えば好みにもよるけど綺麗な色や柄があるものが人気だよ」
「……このひらひらは何で付いてるの?」ペチコートのひらひらがあるスカートを見て怪訝な表情を浮かべなが俺に聞いた。
「俺。自分より若い女の子と話してるつもりだけど。
ユキコと話してると男の子と話してる感覚になる。」
ユキコは俺の言葉を聞き流して
「動きやすいパンツ系と機能的なジャケットがいい。ないの?」
と、言った。
俺はユキコには女性っぽい服がに合うと思い「エヌナチュ」あたりのサイトを見せてみたが彼女の頭には?が沢山湧いたようだ。
「ジャケットやパンツならここかな」と言いながらマウスを奪い
ZARAのサイトを見せた。すこしユキコの顔が明るくなった。
ジャケットやパンツ類を品定めしていく。気に入ったものはクリックして購入かごに放り込む。
「アンダーはどこ?」
「下着か」俺はちょっと考えた。ユキコはどうやら女らしい物よりも機能的で動きやすい物が好みらしいのでナイキなどのスポーツ用品のサイトを見せた。
「・・・・ふむ」
ユキコはそう言ってサイズを確認する。スポブラとショーツを適当に選ばせ何枚かセットで購入かごに突っ込んだ。
さっきのジャケットとパンツもいくつか選んでいいよ。
彼女の好みの服は見事にカーキやグレー系所謂アースカラー系一択だった。
ショーツやスポブラまで白かグレーだった。
もしかしたらユキコは元の世界では女として育つより
職業的な資質をのばすのが大事なところで生活してたんだろうかと俺は思っていた。
女性らしい感覚が欠落しているように思えた。
彼女の感じを考えると20代前半。それより若いのかもしれない。
そんな女性としては花盛りの年代なのにファッションを楽しむゆとりがなく
その考えすらないことは同情に絶えない。
彼女のいた未来とはどんなところなんだろうと俺は考えを巡らせていた。
「終わったわ。出費をさせるわね。」
「ん?もういいのかい?他は」
「とりあえずは動ける衣服は揃えてるから。今回はこれでいい。」
「後でまたほしいものがあったらいつでも言ってくれ。できるだけ対応させてもらう。」
「ありがとう。ヨシヒコ。」
俺は購入の手続きをしてサイトを閉じた。
「通販が来るのが少し時間がかかる。
女性用品と下着くらいはすぐに買った方がいいか?」
ユキコにスウェットから上に
俺の大きめのレザージャケットを着させ
外へ買い物に連れて行こうと思った
ユキコの履物がないので俺のスニーカーを貸す。
少し大きくてユキコが気にする。
「履物も今日買おう。」
俺とユキコは連れだってマンションを出た。
もうすっかり春の陽気になる3月の末の昼下がり。
マンションは国道に通ずる支道に面していてここの通りは裏通りになっている。
国道からはだいぶ奥に入り込んでいるので人通りがすくない。
その道を国道に向かって歩く。
国道に近づくと人通りが多くなりいろいろな人が行きかう。
ユキコがあたりを見渡しながら少し驚いているようだった。
「人が多いのね。この時代の東京はこんなに人が外を歩いているのね。」
ユキコが少々感動しながらそう言った。
「ユキコ。君のいた時代の東京って人が外を歩かないのかい?」
「人はあるいている。だけどこんなに無造作にばらばらに歩かない。」
「人は自由に歩くものだろ?君の時代はそうじゃないの?」
ユキコはコクリと頷いた
それについては言いたくないようでそれ以降は黙っていた。
もしかしたら過剰な監視社会なのか。
人権を大切にする社会なら等しく「人が自由に移動する権利」が保証されているはず。
基本、人間は立ち入りが禁止されてるとこ以外は歩行自由だ。
ユキコにとっては自由な雰囲気の街並みを見るのは初めてなのかもしれない。
彼女の反応からそんなことが読み取れてしまう。
身の上を想像するたびに重くなっていく。
「何か軽く食べようか。買い物の用事が済んだら」
俺は自分のそんな不確かな考えを振り払うように明るく笑ってそう言った。
二人でここらへんで一番大きなショッピングモールに向かった。
モールの婦人服売り場にむかう。
その道筋彼女は眼をパチクリさせながら女たちをみて言った。
「みんなあんな薄い服を着てスカートの丈もどうしてあんな短いの
みんな平気なの?足をあんなに無防備に。」
ちょっと感情的になったのかこれまでより大きな声だ。
俺は口に人差し指を立てて当てる仕草をした。
「この時代の女性なら普通のことさ。
今日みたいに陽気がいいと服装を軽くして
自分を美しく見せておしゃれを楽しむんだ。それがこの時代の普通。」
ユキコは開放感あふれているモールアーケードを見渡しながら考え込んでいる。
彼女にはカルチャーショックなのかもしれない。俺はそれ以上は何も言わずに婦人服のコーナーにユキコと入った。
「みな。ひらひらが好きなのね。生地が無駄なような気が」
下着をつけたマネキンの前に来てそう言った。
「生地をゆったりぜいたくに使うからおしゃれなんだよ飾って楽しんでいるんだ。」
ユキコは納得いかない様子で見ていた。
こう言う売り場に来てさえ下着の好みはスポブラとシンプルなショーツで。
ユキコはそれらを無造作に選んで俺の持っているカゴに入れた。
靴売り場に行ってもヒールやパンプスをみて「これじゃ走れない。何に使うんだ」といって首を振った。俺はたまらず笑った。
「走るの前提なの?」
「当り前じゃない。」
「当り前ねぇ‥‥」
彼女にファッションの何たるかを説明するのは早いみたいだ。
ここはシューズ売り場に変えた方がいいなと思いそっちへ移動した。
「まともな靴がようやくあったわ。これがいい。」
うわミリタリーブーツ。女性用の軽めの奴だけど
到底ユキコのような見た目華奢な女の子が
履くようなシロモンじゃない。
だけどユキコが気に入ったようなので余計なことを言わず買うことにした
彼女のサイズがわかったのでこっそり女性用のスニーカーを忍ばせた。
茶の落ち着いたやつだ。普段はサンダルかこれを履かせればいい。そう思った。
買い物を一通り済ませてモール内のカフェで飲み物とハンバーガーを二人で所望することにした。
ユキコは「これは知ってる。私の時代でも同じようなものはあったわ」
そう言ってハンバーガーを頬張った。
俺はユキコのそんな仕草を見てようやく普通な女性を見た気がした。
少しほっとして微笑んでしまった。
「・・・・何を笑ってるの?」
「こうやって誰かと食事をするのはいいもんだと思ってね。
今まで独りで食事をするのが常だったから。」
「そう。」
素っ気なく言うと手に持ったハンバーガーに夢中で食らいついた。
軽い食事をとった後少し施設の周りを歩こうということになって春の休日の人がにぎわう広場を二人でぶらぶらと歩き始める。
「人がみんな笑ってる。」
彼女が呟いた。
決して全員が全員笑っているわけではないが春の陽だまりで明るい施設の公園内には訪れた人たちはみな余暇を思い思いに楽しんでいるのを見て彼女がいっているのがわかった。
「休日の穏やかな午後だよ。みんな楽しんでいるのさ。」
彼女は思い出したように暗い顔をした。
「どうした?」
「何でもない。気にしないで。」
何かを思い出して浮かない顔をしたのは確かだった。
もしかしたら目的のことだろうか。まあ。気にするなと言われたので今は聞かないことにする。
ちょっと喉が渇いたので自販でかった缶コーヒーを飲もうとした瞬間
キャッ!と短い悲鳴が聞こえた。俺は何だ?とそちらの方へ眼を向けた。
結構離れた距離だが老婆が男に突き飛ばされ転んでいた。悲鳴をあげたのは付き添っていた若い女性だった。「スリよ!だれかっ!」女性は走って逃げる男を大急ぎで追いかけている。スリをしているような奴は大抵足が滅茶苦茶速い。
その逃げ足に自信があるからスリをやる。
腕のいい奴はすられたことが分からないようにできるらしいが。
ユキコがおもむろに俺の缶コーヒーを取り上げて渾身の力で今まさに逃げていく男めがけて缶を投げつけていた。缶コーヒーの缶は弧を描き男が走る未来位置を正確につかんでそこに向かって飛んでいく。
缶が男の頭にガツンとあたると男は横に吹っ飛んでそこに倒れた。
俺はその光景を愕然として眺めていた。
ユキコは走り出すと男の元に行き胸元。ズボンのポケットを探ると財布をとりだして
突き飛ばされた老婆の元に駆け寄った。
「大丈夫?怪我はない?」ユキコは老婆を助け起こすとベンチに座らせた。
「これ。あなたのですか?」と男から奪い返したビーズでできた財布を手渡した。
「ありがとうね。本当にたすかったわぁ」
丁度そこへ男を追いかけていた女性が戻ってくる。
「あなた足が速いのね。でもおかげで助かったわ。ありがとう」
ユキコはニコリと笑うと俺の方に戻ってきた。
その一連の出来事を俺は驚きの顔でその場に立ち尽くしてみていた。
「終わったわよ。ここにいたら面倒なんじゃない?」
俺はその言葉を聞いて我に返り。
「そ‥‥そうだなっ!」と言いこの凄腕の投擲の達人の手を引いて
午後の日差しが満たされる公園を後にした。
未来から来たアサシンが、
最初に覚える文化は“通販”だったり、
スカートの意味がわからなかったり、
ハンバーガーの味に微笑んだり。
そんな小さな日常の積み重ねの中で、
ユキコという人物の傷や、迷い、そして未来への不安が
少しずつ読者にも伝われば嬉しいです。
ここから先は、
ユキコの任務に関わる“非日常”が色濃くなっていきます。
ここまでお読みくださり本当にありがとうございます。
次回もどうぞおたのしみに。




