第1章 あの日見たものは 女の裸体だった。
初めて長編連載に挑戦します。
◆SF/現代ドラマ/少しハードボイルド
◆未来から来たアサシン × 古物商の男
◆非日常と日常のギャップ
◆戦闘力MAXの女 × 庶民的な男
◆“救われない未来”から漂着した女が、生まれ直す物語
この作品は「派手な戦闘」よりも、
ふたりの距離が近づいていく感情の動きと、
現代の日常に混ざる非日常を楽しんでいただければ幸いです。
投稿はゆっくりペースになるかもしれませんが、
最後まで大切に書きたいと思っています。
どうぞよろしくお願いします。
俺はまどろみながらベッドに横たわり寝入る態勢になっていた。
掛け布団を自分にかけ、ふと天井を眺める。
何かが浮かんでいる。
そういえば昔住んでいた借家は板でできた天井だった。
その天井を見上げて木の節の模様を眺めていたら
人間の顔に見えてそれが不気味なものに感じたことがあった。
そういうことを心理学では「パレイドリア現象」とかいううんだよな。
などとぼぅと思いながら天井をながめた
今の部屋の内装にはベージュのビニールグロスが張られている
新築マンションには不気味な模様もシミもなく。無地の内装。
——そのはずだった。
今夜この天井を眺めていたら。
そこには臀部。
そこには、白い肌の“尻”が、天井の表面を押し破るみたいに隆起していた。
皮膚の質感までわかるほどぬめっと光っている。
ほどなくそれはあらわになり、
腰の形と背中や肩のたおやかな形が浮かび上がった
「こりゃ。俺もいくところまでいってしまったようだ」
俺は普段から確かに妄想癖がある。
白昼夢のような状態になることもごくたまにある。
だからって寝る前に夢をみることなんてありえないだろう。
もう一度天井を見る
今度ははっきりと女性の裸体の右半身が天井の水面に浮かんだ。
俺はビックリし過ぎて声すら上げられずそれを見ていたが
次の瞬間、それは人形のように天井から吐き出され俺の上に落ちた。
ドサッ、と重みを感じる間もなく。俺はぐはっと呻いて
落ちて来たものを避けてベッドの横に落とした。
みぞおちを落ちたモノに打たれてその場で動けず
打たれたあたりをさする。
落ち着いたころ落ちたモノをみた。
「死体か!?」
直感的に思った俺は、部屋の明かりをつけてそれを確認した。
女性の裸体がそこにあった。
黒髪は肩のあたりで整えられていた。
顔は穏やかな寝顔になっていた。これは死顔なのか?
確かに顔や体は白く美しい。と、言っていいほどの女性の体。
血が通った肌の色がやっと確認できる。
「これは生きている」
そう思えた。
俺は今自分に起きた出来事を脳内で処理しきれず、女を見て呆然としていた。
それは「うぅうん」と呻いた。目覚めようとしている。
「裸の女が俺の部屋にいるっ!?」
理性が(逃げろ)と命令したが体が動かない。
俺はベッドの向こう側落ちたモノとは逆の壁にへばりついていた。
女が怖かったのではなく。
この女性が俺を見た反応が悲惨なものに想像しえた
喚き散らし。あらゆる呪いの言葉を発しながら黄色い声を上げ
俺の部屋の物を掴んでは俺に投げつける。
そんなことになるだろ。
女は眼を開け一瞬この部屋の照明にまぶしそうに反応して表情を変える。
俺を見てホッとした顔をしたと思いきや険しい表情を浮かべ・・・
(ほら来たぞ!どうするんだ?)刹那に俺は思ったが、
次の瞬間。彼女は目にもとまらぬ早業で俺に飛びかかってきた。
俺の四肢を自らの左腕と両足で拘束し、空いた右手で容赦なく
俺の喉を締め上げた。
その一連の行動は激情にかられた普通の女性が男に飛びかかる。
という動作ではなく。
非常に訓練された実戦的な動きに感じた。
俺は呻くことも動くこともできなくなっていた。
女の力のそれだと思えないほどの怪力で締め上げられた。
俺の表情が恐怖に引きつり、何もできないことを覚ったようになったことを確認すると彼女は表情を激情から冷徹に変化させ
「今は何年の何月何日?。答えなさい。
答えるなら手は緩めてやる。
勝手に動けばあなたを殺さなければならない。
だから今は大人しくして。」
と言った。
俺は恐怖と憤怒に顔を強張らせながらも呻きつつ頷いて見せた。
女は俺の仕草を確認すると右手の力を少々弱めた
「さぁ答えて。何年何月の何日?」
女が再び冷静に、そして威圧的にそう尋ねてきた。
「今日。今日は西暦の2025年3月28日
これでいいか?ちょっと手を緩めてくれ!
苦しい、痛いよ。何もしないから勘弁してくれ」
俺は早く楽になりたかった。とにかく締め付けを解いてもらいたかった。
女に締め上げられて情けない声を上げるとは・・・。
彼女はちょっと考えて、俺の顔を見ると、すまなそうな顔になり
「ありがとう。突然のことで混乱しているだろうけど、私に協力してほしい。」
そう言った。
既に力は抜かれていて俺は自由になっていた。
「うわぁっ!」俺は素っ頓狂な声を上げて彼女から離れた。
彼女を刺激したかもしれない。と思い枕を自分の顔に当てていた。
俺の行動を見て笑うとも叫ぶともなく冷静にその場に座っていた。
「言ってくれた年月日は正確みたいね。」
壁にかけられたカレンダーを見てそう言った。
「おっ。お前は誰だ!なんで俺の部屋にいる!どっから入ってきた?」
俺がやっとの思いで自分の中にあるだけの疑問を
冷静に部屋の中を見渡している美しい裸の女になげかける。
「そうね。説明しなければあなたも納得しないでしょう。
あなたの名前は『大槻義彦』
2025年現在年齢32歳。誕生日は1993年。1月14日。」
彼女は俺の生年月日を間髪いれずに言い当てた。
「ん!なぁっ?!」俺はあっけに取られて彼女を見た。
「あなたのデータはここにちゃんと入っている。」
そういうと自分の頭を指さした。
「私は2077年の世界から来たのよ。・・・信じてもらえる?」
俺の驚愕した顔を見ると初めて頬をゆるませた。
「・・・・未来人が俺に何の用なんですかっ!」
俺はまだ彼女が怖くてたまらなかった。
本当は逃げ出したかったが先ほどの俊敏な動きを見せる彼女を搔い潜り
部屋を抜け出し外へ助けを呼ぶほどの体力と俊敏さを俺はもっていない。
体力も並以下で運動神経もそれほどでもない。
瞬発の力も彼女の力には遠く及ばない。
どうしてよいかその時の俺は頭の中で考えていたがいい考えが及ばずいた。
(何か話をしないと落ち着かない)
そう思ったので彼女にそう質問した。
「先ほども言った通り。協力してほしい。
私はこの時代ではなんの力もない。だから協力してほしいの。」
「きっ協力だって?!あんなことされて素直にそんなこと聞けるかっ!ふざけるな!」
俺が怒鳴ると彼女がまた申し訳なさそうな、悲しげな顔をした。
その表情が俺にもわかった。
彼女は不本意ながら俺を拘束し話を聞いてもらおうと、
そういう行動をしたのだった。
「喚きたいのはわかる。でもお願い。あまり興奮しないで。
あなたを傷つけたりしたくない。
あなたに協力してもらわなければ私は・・・死ぬしかなくなります。」
彼女はそういうと少し悲しげな表情を浮かべた。
「し・・・死ぬっ!?」
俺はまたもや素っ頓狂な声を上げて彼女の答えに驚いた。
「私はこの時代よりも未来から来ました。ある目的で。
ですからこの時代には存在しない人間です。
そして見ての通りの裸です。何も持っていない。
たとえあなたを殺してあなたから財産を奪ったとしても
一人では生きていけない。
先ほど殺すと脅したのは話を聞いてもらうために言った狂言です。
この任務には協力者がどうしても必要で。
もしあなたが協力してくれない時は・・・・」
「できない時は」
俺はその先の言葉を想像して呻くようにそう言った。
「本当に死ぬしかない。この時代の常識もわからないから。
ホームレスになっても生きていけるか」
「なぜ俺なんだよ。どうして?」
彼女は俯き加減で自分の膝頭を見ていた。
「元の時代のコンピュータでいろいろな人選がなされました。
年収・職業。生い立ち。生活環境。性格。
その中から私自身のパーソナリティーと任務の内容に相性の良い人が
あなただけだったんです。」
(まるで結婚斡旋のデータセンターだな。)
「大体論理的には理解できたが未来から来たというのは眉唾だな」
俺はここまで話す彼女が真摯に身の上を話してくれているのが
見て取れたので少しは安心した。
「でしたら‥‥」
「いや。まだだ。俺は君のことをほとんどわからない。
最低限。君をどう呼べばわからないと気持ちが晴れない。」
彼女は俺の言葉にそれもそうだと冠をふった。
「私はユキコと言います。これは本名です。」
「ユキコ。日本的な名前だね。親近感がわく。」
「ユキコと呼んで差し支えないよね。」
「それでいいわ」
ユキコはそう言うと頬を緩めて答えた。
「とりあえず何か着ようか。俺のスウェットでいいか?」
ユキコは俺の言葉を聞いて初めて自分の腕で自分の体を隠す仕草をした。
自然にそういう行動をする。見られてもあまり気にはしないが
常識的に手を動かす感じで慌てるそぶりではない。
俺はクローゼットからスウェットを出してユキコに渡した。
ユキコはスウェットを着終えるとその場に立っていた。
「今日は俺はいろいろなことがあり過ぎて脳みその限界だ。君はここに寝てくれ」
俺はユキコにそう言って俺のベッドに寝るよう指示した。
「このベッドで一緒に?」
とこれまた冷静にユキコが返す。
「違う違う。君だけ。ベッドでいいよ
俺は隣のリビングのソファーで寝るから。」
「悪いわ。私がリビングでも構わないのに。
なんなら一緒に寝ても私は気にならない。」
義彦は顔を強張らせてぶるんぶるんと首を振り
「この時代に来て何も力がないなら。この時代の人間に従って。
これも常識」
とひっくり返そうな声を抑えて言った。
彼女は顎を少し突き出して不服そうにでも僅かに笑ったように見えた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
本作の序盤は
「義彦とユキコの日常」に重点を置いています。
未来から来たアサシンが、
最初に覚える文化は“通販”だったり、
スカートの意味がわからなかったり、
ハンバーガーの味に微笑んだり。
そんな小さな日常の積み重ねの中で、
ユキコという人物の傷や、迷い、そして未来への不安が
少しずつ読者にも伝われば嬉しいです。
ここから先は、
ユキコの任務に関わる“非日常”が色濃くなっていきます。
引き続きよろしくお願いします。




