表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

8.衛兵団団長 バルド(フィラルド視点)

街に着いたら、宿代わりにしている衛兵の宿舎で降ろしてもらった。


基本的にフィラルドは個人で動いている。

王弟が単独行動と言うのは誉められたものではないのだが、現在の複雑な立場と、騎士として鍛えた強さがあるため、例外として認めてもらっていた。

ただし、フィラルドの身分を知っているのは、領主や衛兵団の上層部のみなので、一般兵たちには一騎士として扱ってもらっている。


王都アルーラの騎士団ーーーそこに所属する者たちは、各々がその騎士たるに相応しい実力と誇りを持っている。そして、その力を陛下と国のために捧げることを誓った者たちでもある。

王都を離れられない陛下の代わりに、陛下の目となり耳となり、王国内を巡回することも騎士の任務であった。まぁ、基本的には少数で回るため、フィラルドのように単独で動く騎士は本来いないのだが…。


そういった関係で騎士たちは、地方を巡る際に領地の衛兵の宿舎や領主館を宿代わりにさせてもらう事が多かった。

ちなみに、快く騎士を受け入れることで、「やましい事はないぞ」というアピールにもなる。




「フィラルド様、戻られたんですね。お帰りなさい。団長が探していましたよ」


通信具で連絡するため足早に宿舎に戻ろうとしていたフィラルドに、駐屯所の入り口に立っていた衛兵が気さくに声をかけてきた。

衛兵の宿舎と駐屯所は隣り合っていて、入り口も近いため、宿舎に向かうフィラルドに気がついたのだろう。

この街に来て3週間、少しずつ兵たちとも打ち解けて気軽に声をかけれられる間柄になってきた。王都にいた時は立場上どうしても周りと距離が空いていたので、今の環境は気楽で良い。



今朝、カイゼルから連絡を受けた後、急いでロンドのところに向かったからすっかり忘れてたが、最近増えた魔物の被害について相談したいと衛兵団長から言われていたのだった。

カイゼルにすぐにでも連絡を取りたい気持ちはあるが、この時間はまだ勤務中でカイゼルも通信具は使えないかもしれない。

今自分にできることは、通常通りに過ごすこと。ーーそう言い聞かせてはやる気持ちを抑えた。


「分かった。すぐに向かおう」


「はい。今の時間は駐屯所の食堂で昼飯食べてると思います」


兵に礼を言ってから、宿舎へ向かっていた足を駐屯所に変える。

駐屯所は2階建ての建物で、1階に受付や相談のためのスペース、食堂などがあり、2階には衛兵の休憩室と犯罪者を一時的に捕らえるための部屋などがある作りになっている。

そして駐屯所の食堂は、衛兵だけでなく一般人や出入りする業者も使えるように一般開放している。市民が気軽に相談できるようにとの取り計らいだと聞いた。


小さい火種でも、そこから大きな事件が起きたりする。日頃から市民といい関係を築いておくことも重要な事らしい。


駐屯所内の食堂と言うこともあって、広さはあまりなのですぐに目当ての人物を見つけた。


スキンヘッドの厳つい顔つきの初老の男性で、初めて会う人は身構える雰囲気を醸し出している。フィラルドは師匠の顔で慣れているので平気だったが。


「おっ!フィラルド殿!探しておりましたぞ!」


こちらに気がついた衛兵団団長、バルドが笑顔で声をかけてきた。見た目は怖いが、話すと気さくな人物なのだ。ただし、訓練中は見た目通りの怖さだった…。


「バルド殿、急用で外に出ていた。遅くなってすまない」


「いやいや、気になさるな!もし良ければ食事を一緒にいかがですかな?」


バルドが座るテーブルを見ると、まだ食べ始めたばかりのようだった。


「そうだな、いただこう」


そう言って、食堂のカウンターに向かう。この食堂は食べたいメニューをカウンターで注文するシステムだ。

体力仕事の兵たちが利用するだけあって、量の多さが売りらしい。


少し悩んで、分厚いカツとスープがついたセットを選ぶ。パンとスープは大盛りにしてもらった。


(気持ちが落ち込んでいる時こそ、しっかりと食べるべし。)


剣の師匠であるカイゼルからの教えだ。腹が減ると碌な考えが浮かばないと言っていた。


食事を受け取ってバルドの元へ向かい、前の席に座った。


「そういえば、噴水広場の近くにお菓子の店ができたのをご存知ですかな?」


魔物の相談は、と思ったが、ここは一般にも開放されている場所だ。もし聞かれた場合を考えると、街の住人を不安にさせる話題は良くないだろ。


「いや、知らないな。話題になっているのか?」


「そりゃぁもう!最近孫娘から冷たくされていたんですがね、そこのお菓子を買ってご機嫌伺に行ったら、もう喜んで喜んで!久しぶりの「じぃ大好き」をもらえて儂は感動しましたわい!」


デレデレと言うのはこういう表情なのだな、と妙に感心しながら話を聞く。子どもが息子ばかりだった事もあって、8歳になる孫娘のことを溺愛している、と兵たちが話していた。


「そうか、それは良かった。今度時間ができた時にでも行ってみよう」


フィラルドは甘いものが特別好きなわけではないが、八歳の少女を虜にする美味しさを試してみるのも悪くない。



世間話をしながら食事を終えると、そのまま2階にあるバルドの執務室へ向かった。


駐屯所の2階へ行く階段は一つしかない。一番手前に衛兵の休憩室があり、その隣がバルドの執務室になっている。

ちなみに一番奥は犯罪者を取り調べたり勾留するための部屋だ。たとえ犯罪者が逃げ出しても、簡単には建物の外には出られないような構造になっている。


バルドの執務室は中央にソファとローテーブルがあり、その奥に執務用の机がある。機能重視の室内は無骨さを感じるものの、きちんと整理されていた。意外と几帳面な性格なのだろう。


ソファに向かい合って腰掛けると、バルドが口を開いた。


「まず、不躾で申し訳ないのだが、フィラルド殿は土魔法などは使えるだろうか?」


「いや、私は土魔法は不得手だ。小さい土人形くらいなら作れるかもしれないが、実戦で使うレベルのものは難しい」


ーーー魔法には適性がある。精霊も各属性で性格が違うのか、属性ごとで精霊との相性が違うのだ。

フィラルドは風の精霊との相性は、とても良い。大規模な魔法から繊細なものまで数多く使う事ができる。

だが、そのほかの魔法はほとんど使う事ができない。

言い換えれば、風の精霊からは愛されているが、そのほかの属性の精霊からはあまり愛されていない、という事だ。


「そうですか…。いえ、相談事とは魔物の被害が増えている件なのですが、今のところ魔物の被害で一番困っているのが農作物なのですよ」


バルドは綺麗に光る頭を撫でながら、困ったように話を続ける。


「もちろん、兵を送って魔物の駆除は行なっているんですが、どうにも数が多くて。もういっそのこと、畑の周りにぐるりと罠を仕掛けてはどうかという話が出たんです。堀でも作って、その中に魔物を落としてしまおうと。でも、人の手だと一体どれだけかかるか…。そこで、魔法使いでもあるフィラルド殿であれば土魔法ではどうにかできないか、と思ったんですが…」


「兵の中に、土属性の魔法使いはいないのか?」


「それがなかなか…。仕方がなく衛兵になった奴も多い。もし大きな魔法が使えたら、他にいくらでも仕事がありますからのぉ」


魔法は適性さえあれば、貴族も平民も区別なく使う事ができる。もちろん、個人差による力量はあるが。

魔法使いの要素のうち、魔力は遺伝する事がわかっている。だが、精霊との適性は全く規則性がわかっていない。実際に貴族の中には、魔力が通常より多くても魔法使いになれなかった者がいる。


大抵の人は適性があるため大なり小なり魔法を使えるのだが、やはり適性がない者も一定数いる。

ある程度の魔法が使えれば、働き口には困らないのだが、それ以外の者は選択肢が限られてしまう。

衛兵団は、魔法が使えない者や、役に立つレベルの魔法が使えない者の受け皿としての役割も持っていた。


「うちの中で唯一実戦で使えるレベルの魔法使いが副団長なんですが、火属性をメインで使うやつでして。畑周りで火を使った罠なんか仕掛けたら、そいつで辺り一面が焼け野原になっちまうでしょう」


「それは確かに…。魔物が増えている原因は分かっているのか?」


「しっかりとした原因は分からないんですが、魔の森から出てきている魔物が多くなっているという報告は受けとります」


「魔の森……」


魔の森は、この大陸の北に位置しており、東西に長く伸びる巨大な森林だ。

エルベスト王国と隣国、二つの国と接しているのだが、一応エルベスト王国の領土となっている。


なぜ「一応」なのかと言うと、魔の森は強大な魔物が多く棲んでいて、その危険性からまったく開墾ができない、まさに未開の地だからである。


少し考えてフィラルドは答えた。

「では、私が一度魔の森まで出向いて様子を見てこよう。魔物が増えている原因を調べてみる」


「おぉ!それは助かります!フィラルド殿であれば安心ですな」


バルドはホッと安心したように笑いながら言った。


「だが、急いで済ませないといけない用事ができた。魔の森へ行くのは、その後でも良いだろうか?用事は数日で済ませよう」


「もちろん!魔物が増えていると言っても、今のところは弱い奴らばかりです。うちの連中でも対処できるので、数日くらいであれば大丈夫でしょう」


数日で済ませる。

それまでアルバートを助ける手立てを見つけなければ、間に合わないかもしれないのだから…。

まだまだフィラルドさん視点が続きます。

主人公…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ