6.報せ(フィラルド視点)
予定より早く書き上がったので、本日投稿。フィラルドさんの説明回になってます…。
ーーー陛下が毒で倒れた。
その報せが届いたのは、一週間ほど前のことだった。
その時フィラルドは、ルーロ伯爵領にある国境沿いの大きな街アルロッパに滞在していた。
王宮内での政権争いが少しずつ激化しており、ほとぼりが冷めるまでは各地を転々としていた。
そして、ここしばらくは母方の親戚であるルーロ伯爵領で、騎士として駐在していたのだ。
* * *
フィラルドはエルベスト王国の第二王子として生を受けた。
ただし、母は力の弱い地方貴族であり、フィラルドはあくまで兄のスペアとして存在してた。
王太子アルバートと、そのスペアとして育てられたフィラルドだったが、幼い頃からよく遊び、共に育った二人の仲は良好だった。
自分の立ち位置を十分に自覚した上で、フィラルドは騎士として国のために尽くすことに、何の不満もなかったのだ。
フィラルドは模範的な騎士である。
剣の腕に加えて、魔法の才にも恵まれた。それでも、努力を怠ることなく常に研鑽しているフィラルドは、国でも屈指の実力を誇るまでになった。
弱気を助け、不正を許さず、常に冷静である事を心がけていた。
その功績が認められ、三年前、わずか二十一歳という若さで、王都アルーラの騎士団第一隊長を任されたのだ。
ーーーだが、それだけだった。
王位継承権を持ちながらも、このエルベスト王国という巨大な国を背負って王として立つことは、己には不可能だと分かっていた。
剣の腕があっても、人の裏を見抜くことはできなかった。実直な性格で人望こそあったが、周囲に対する細かい気配りが不得意だった。深く考えずに行動する癖があり、慎重な判断が苦手であった。
騎士となるべく生まれたようなフィラルドは、どうしても王たる資質が欠けていたのだ。
ーーーだが、それだからこそ、兄であるアルバートを騎士として支えることに全力を注いできた。
そうする事で、王国の地盤は盤石だと考えていたのだ。
だが近年、フィラルドを王に担ぎ上げようとする貴族たちが勢いを増してきた。
アルバートの母は他国出身の姫であり、その後ろ盾も強力だ。アルバート本人の力量もあって、国内の情勢は安定していた。
それに対してフィラルドの母は地方貴族であるため後ろ盾が弱い。
だからこそ、一部の貴族がフィラルドを傀儡として王に据えることで、自分たちが自由に動けるように利用しようと画策し始めたのだ。
五年前、先王の死とアルバートの即位によって一度は動きが沈静化していたのだか、ここ二、三年でまた動きが活発化してきていた。
そこで、フィラルドはアルバートと相談して王都から離れることにした。
フィラルド自身が勢力争いの武器にされないようにするため、そして王都の外から貴族を監視するためだ。
表向きは、王位簒奪の可能性があるフィラルドを疎んだ兄王による左遷という形をとった。
この数年で、少しずつ不仲説を流しながら距離をとっていったこともあり、フィラルドが王都から離れることを不審がるものはいなかった。
それから騎士団に籍は残したまま、隊長は当時の副隊長に任せて、地方視察を主な任務として、地方を巡るようになったのだ。
この三年ほどは地方と王都を行き来しつつ、不審な貴族の監視や、地方を守る衛兵では手に負えない、強力な魔物の討伐などを行っていた。
アルバートとは密かに連絡をとりながら。
* * *
アルバートが倒れたと言う一報をくれたのは、剣の師匠であり騎士団団長でもあるカイゼルだった。
カイゼルは、フィラルドとアルバートの伯父に当たる人物で、これまで兄弟を支えてきてくれた存在でもある。
フィラルドとアルバート、そしてカイゼルは特別な魔道具を使って連絡を取り合っている。
二年ほど前にルーロ伯爵令息で魔道具マニアの従兄弟から譲ってもらったものだ。懇意にしている魔道具屋から買い取ったもので、魔道具屋はこれを”通信具”と呼んでいたらしい。
手のひらほどの筒状で、先端に筒を塞ぐように魔石が嵌め込まれている。
これが三つでセットになっており、魔石に魔力を込めながら筒に向かって話すと、残りの二つに届く仕組みだ。
主な通信手段として手紙を用いるこの世界では、画期的な発明である。
だが、大きな欠点が2つあった。
ひとつは膨大な魔力を消費すること。国内では上位の魔力量を持つフィラルドでも、一度の通信でほとんどの魔力を消費する。
もうひとつ、これが大きな理由なのだが、この通信具はなぜか使う人間を選ぶのだ。
従兄弟も試したのだが、反応しなかったらしい。
通常の魔道具とは違い、魔石に魔法ではなく、ただ魔力を込めるため、「魔力の質などが関係しているのかもしれない」と従兄弟は言っていた。
幸い、三人ともこの通信具を使う事ができたので、密かに連絡を取り合えるものの、魔力の回復を考えると頻繁には使えない。
すぐにでもアルバートの下に駆けつけたかったが、カイゼルからは「絶対に戻ってくるな」とも付け加えられていた。
<今の状況で王宮に戻ると、お前を担ぎ上げる連中が動き出す。すぐに生死に関わるような状態ではないから、情報規制している。お前は周りに悟られないように普段通り過ごせ。>
そう言われてしまうと、政治的駆け引きが苦手な自覚があるフィラルドは強く出られなかった。
だから、この一週間は周りに悟られないように通常通り過ごしながら、アルバートの無事を祈っていた。
ーーーだが、早朝、カイゼルから再び届いたのは、事態の悪化を伝えるものだった。
<アルバートの容態が回復しない。医者も初めて見る症状らしく、手探り状態らしい。毒に関して何か分からないか、調べてくれ。>
そう言って伝えてくれた兄の症状には、フィラルドも心当たりがなかった。
フィラルドは情報を集めるために、すぐにルーロ伯爵邸に向かった。
しばらくフィラルド視点が続きます。




