4.魔法石
魔法が普及したこの世界では、魔道具と、その燃料となる魔法石が生活には欠かせない。
火を起こしたければ、赤の魔法石を。水を出すには青を、風を起こすには緑の魔法石をーーといった具合だ。魔法の属性によって、魔法石の色は決まっている。
魔法石の元になるのは、魔物を倒した際に手に入る「魔石」である。ただの魔石には属性はなが、人の魔力を込めても単なるエネルギーの塊にしかならない。そこで、精霊の力を借り、その力を宿してはじめて「魔法石」と呼べるものになる。
魔石は魔法の力がなくなっても、再び魔法を込めれば魔法石として再利用できる。ただし、繰り返すうちに劣化するため、消耗品として扱われている。
もっとも、プリシラは魔石を自分で調達できる上、精霊の力を込めることも容易いので、この魔法石はいくらでも使い放題なのだ。
この家の水道も魔法石を使って水を出している。町中でも普通に使われている仕組みだ。
ちなみに、この家は通常よりも小さい魔法石でしっかりと動くので、魔法石の消費が少なくて済む…らしい。
プリシラの魔道具の師匠でもある父様が、家で快適に過ごせるようにと色々な改造をしてくれたと聞いた。
その一つが温水が出るこのお風呂用水道だ。
最初の頃は、水を出した後に別の魔道具を起動させて温めていた。
だが、移し替えに手間がかかるので、冬以外は水で済ませていた。
そこで、母様の事が大好きな父様が、いつでも暖かい湯で体を洗えるようにと作ったのがこの水道だ。
正直、母であればお湯くらい簡単に作り出せると思うのだが、そこは男女の機微がどうとかと言っていた。
……あまり興味がないので詳しくは聞いていなかったが。
水道の両サイドの小さい蓋を開けて、その中に赤と青の魔法石を一つづつ入れる。
(さて、入ろう。)
お風呂場から脱衣所に戻り、メガネを外して油染みのついた服を脱ぐ。服は足元に置いているカゴに放り込んだ。
お風呂場に入ってボサボサ頭をお湯で軽く流す。
そこにいたのは目を見張るほどの美少女ーーーと言いたいところだが、至って普通の少女がいた。
この国では成人となる18才を迎えてもまだ幼さがわずかに残る顔立ちは、人混みに紛れたら見失うような平凡な顔をしている。
ただ、瞳の色だけは際立っていた。エメラルドグリーンに輝く瞳はキラキラと輝き、まるで宝石のような不思議な虹彩を放っている。
この瞳だけ唯一母様から受け継いだと胸を張って言える部分だ。
スッキリしてお風呂から上がって髪を乾かそうと思ったが、先ほどの治癒魔法の影響でまだ魔力が十分回復していない。仕方なくタオルで拭くだけにした。
頭をガシガシと拭きながら、いつも通り自分の寝室に入ろうとしてーーーふと隣に並んだ扉に目が止まる。
もし男が目を覚ました時にプリシラが自分の寝室にいたら困るだろうか?流石に女性の寝室を勝手に開けたりはしないだろうから、プリシラが起きるまで待つかもしれない。
そう思うと何となくかわいそうな気がして、リビングのソファに向かう。
ここだったら、男が目を覚ました時に気がつけるだろう。
朝、ガチャリとドアが開く音で目が覚めた。
体を起こし、ソファの背もたれ越しに視線を向けると、男がそっと部屋の中を伺いながら出てきた。
「おはよう」
あくび混じりに声をかけると、男もプリシラに気がついた。
その瞬間、目が合った。
澄んだ空の色をそのまま閉じ込めたような、淡く清らかなスカイブルーの瞳。窓から差し込む朝の光を受けてきらめき、思わず息を呑んだ。
「ああ、おはよう。昨日は世話になった」
綺麗な瞳に見惚れてしまい、少しだけ返事が遅れた。
「……どういたしまして。というかもう動いて大丈夫なの?」
正直、一日足らずで動けるような傷には見えなかった。いくら治癒魔法をかけたとはいえ、プリシラの力では大きな回復は見込めないはずだ。
「普段から鍛えているからな」
……鍛えていても傷の治りは早くないだろう。脳筋か。
「もし食べられそうなら朝ご飯つくるけど、どうする?」
「気遣いはありがたいが、それよりも治癒薬について教えて欲しい。それはすぐに手に入るのだろうか?というかそもそもいただけるものだろうか?もちろん、言い値で代金は支払う」
男はまくし立てるように言った。何だか昨日のやりとりを思い出して、軽いデジャブを覚える。
その時、ーーーぐぅ、とお腹がなった。
プリシラ、ではなく男の方だ。
そちらを見ると、男は顔を赤くして、照れたような、気まずいような表情でこちらを見返していた。
「……とりあえず、朝ご飯にする?」
男は小さな声で「すまない……」と答えた。




