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17.出発(2)

「もう!本当にダメって言ったでしょう!!」


なんとか無事に着地できたプリシラは、涙目で風の精霊たちに説教していた。もう本当にダメだって言ったのに。気絶する寸前だった。と言うか、途中の記憶がないから本当に気絶していたかもしれない。



「次こんなことしたら2度と飛行魔法なんて使わないから!!」


流石に風の精霊たちも反省したのか、心なしか落ち込んでいる気配がする。肩を落としている姿が見える気がするが、プリシラの怒りはこんなものではないのだ。存分に反省してもらおう。



「良かった。なんとか追いつけた。」

その声で頭上を見ると、フィラルドがゆっくりと降下してくるところだった。


「すごい速さだったなけど、大丈夫……じゃなさそうだな。」


腰が抜けて地面にへたり込んでいるプリシラを見て、聞く前に色々と察してくれたみたいだ。


「なぜあんな速さで飛んだんだ?」

フィラルドが不思議そうに聞いてくるが、プリシラだって知りたい。なぜ風の精霊はすぐに暴走するのか。


「多分楽しくなっちゃったのよ。それで調子に乗って加減をせずに全力を出したせいで、こんな悲惨な目に遭ったの。」

恨めしげに周囲を見渡すと、空気が震えて風の精霊の謝罪が伝わってくる。もうこれだけ言ったのだから、流石に反省したのかもしれない。恨み言はこれくらいにしといてあげよう。


「……ひとつ、聞いても良いだろうか?」


へたり込んでいるプリシラの横にしゃがんで、フィラルドが真面目な顔でこちらを見た。


「どうぞ?」

隠していることなんてそんなに多くない。まぁ何が聞きたいのかはなんとなく予想がつくけれど。


「もしかして、精霊と会話する事ができるのか?」


答えは、否、だ。


「それは無理ね。姿を見たり、会話したりはできないの。」


プリシラが知る限り、それができるのはこの世界に1人だけだ。


「でも、気配を感じたりはできるし、精霊たちは私の言葉を理解しているわ。」


続く言葉を聞いて、フィラルドは納得したように頷いた。


「やはりそうか。」


治癒の聖女の娘ということもあって、すんなりと受け入れてくれた。と思ったのに、すぐに怪訝そうな顔に変わる。


「『言葉を理解できる?』と言ったか?」


「えぇ、私は精霊の言葉が分からないけど、精霊は私の言葉を理解してくれているわ。」


ぽかんと口を開けて固まったフィラルドが面白くてしばらく眺めていたが、自分の中で情報の整理ができたのか、視線を彷徨わせながら少しずつ起動し始めた。


「その、もしかして精霊とは普通私たちの言葉を理解しているのだろうか」


「うーん、多分理解しているんじゃない?精霊にも性格があるから、一概には言えないけれど。でも、人の呼びかけに答えて魔法を使ってくれる精霊は、人に好意を持ってくれているって事だから、こちらの言葉に耳をかたむけてくれるかもしれないわ」


「そうか……。」


フィラルドはゆっくりと周囲を見渡すと、優しい声で「いつもありがとう」と呟いた。


フィラルドの周りの精霊たちが喜んでいる気持ちが伝わってきて微笑ましい。魔法使いは精霊の姿や気配が見えないから、自分の力を過信してしまう人も多いけれど、魔法というのは精霊の協力があるからこそ使えるのだ。そんな中、プリシラの言葉を信じて精霊に感謝の言葉を口にしてくれるフィラルドが、自分のことのように誇らしくなる。こんなところがフィラルドの魅力なのだろう。


「って、違う違う!」

また変な方に思考が持っていかれてしまった。危ない。知らない間に見つめてしまっていたフィラルドから目を逸らして、あくまでこれは一般論だから。と心の中で言い訳を繰り返して平静を取り戻す。


「ところで、……」


フィラルドは、いきなり大声を出したプリシラにびっくりしていたが、すぐに切り替えて話を続けてきた。プリシラの不審な行動に慣れてきたのかもしれない。慣れとは恐ろしいものだ。


「ここはどの辺りだろう。アルロッパの方角には飛んできたが、街道から外れるとよく分からないな」


その言葉で周りを見渡してみるが、ひらけた場所ではあるものの、道らしい道は見当たらない。ここは迷子の原因に働いてもらおう。


「ねぇ、私たちアルロッパって街まで行きたいのよ。どこか近くに道がないか調べてきてくれない?」


そう言って風の精霊に魔力を渡すと、プリシラの周りにふわりと風が舞って、茶色の髪をはためかせた。


「あぁ、そう。あっちに行けば道があるのね。分かったわ。ありがとう」


しばらくすると、風の精霊の魔法でプリシラの脳裏に街まで続く道のイメージが浮かびあがる。


「あっちだって。」

そう言って街道の方角を指さしながら振り向くと、フィラルドは頭に手を当てて大きなため息をついていた。



「一応聞くのだが、それは魔法か?飛行魔法の時は気のせいかと思ったが、やはりあなたは詠唱を唱えていないのだな?」


「うーん、詠唱ってね、要は精霊へのお願いを言葉にしただけなの。ずっと昔の人たちが、どう言えば精霊に伝わるかって考えて作った“決まり文句”みたいなものよ。でも、要は気持ちと魔力が通じればいいの。詠唱じゃなくても精霊にどんな魔法を使って欲しいか伝えられたらそれで良いのだから、私は詠唱じゃなくて普通に喋って魔力を渡しているのよ」


「では、もしかして私でもあなたと同じような魔法の使い方ができるのか?」

フィラルドは驚きに目を見開きながら、期待するようにその目を輝かせた。


「どうでしょう?私以外でこの魔法の使い方をしている人を知らないから、分からないわ。やってみたら?」


「そうか。分かった」

そう言って軽く深呼吸をしたフィラルドは、右手に魔力を込めて慎重に言葉を紡ぐ。


「風を起こしてくれ」


……。しばらく待ってみたが、何も変化はなく魔法が起きることはなかった。


「無理だった。」

少し肩を落として残念そうに呟くフィラルドが可哀想だけれど、こればっかりは精霊にしか分からないから、プリシラにもどうしようもない。

肩に手を伸ばしてポンポンと軽く叩く。


「まぁ、多分私が特殊なだけだからあまり落ち込まないで。」

いつまでもこんなところで落ち込んでいたら日が暮れてしまう。話しているうちに足元もしっかりしてきたので、足に力を込めて立ち上がると、フィラルドに手を伸ばして引っ張った。


「ほら、とりあえず街まで行きましょう?」


「そうだな。」

プリシラの手をとって立ち上がったフィラルドとともに、街道の方へ向けて歩き始めた。





意外と街の近くにいたらしく、街道に出たら街が見える距離だった。今までは魔の森と田舎町のルーメルしか知らなかったプリシラにとって、しっかりと城壁で囲まれているアルロッパの街は新鮮だった。


「へぇ、こんなに大きな街があるのね。」

城壁を見上げて感嘆の声を出していると、門の前を守っていた20代くらいの衛兵が声をかけてきた。


「フィラルド様!お帰りなさい。魔の森に行くって言っていましたよね?お早いお戻りですが、途中で引き返してきたんですか?」


人懐っこそうな笑顔を浮かべて、親しげに声をかけるところをみると、フィラルドの知り合いだろう。


「カール、ただいま。実は色々あってもう用事が済んだんだ。こちらの女性はプリシラ。何度かアルロッパに来ることになるかもしれないから、覚えておいてくれ。」

そう言いながらプリシラの背を軽く押して、門番のカールに紹介してくれた。



「こんにちは、カール。よろしくね。」

フィラルドの知り合いみたいだから、一応愛想よく笑っておこう。まぁ分厚いメガネとボサボサ頭で顔が見えるかは分からないけど。


カールは怪訝な顔でプリシラを見た後、何か言いたげな顔でフィラルドの方を見る。


フィラルドがなにも言わないから忘れていたけど、よく考えると今のプリシラの格好は残念な感じだった。いつも通りのよれたシャツとボサボサ頭で、おまけに背中には大きいバックを背負っている。

煌めく鎧を纏った騎士のフィラルドと並ぶと違和感が凄いかもしれない。


普通だったら恥ずかしくなってしまうかもしれないけれど、そこはプリシラ。カールの反応を特に気にすることなく、フィラルドを促して門を潜った。



「わぁ!ここがアルロッパね、凄い人だわ!」


プリシラが今までの人生で出会った人と同じくらいか、それ以上の人が行き来している。

「世の中にはこんなに人がいたのね。」


周りを見渡しながら思わず出た言葉に、フィラルドがかすかに笑った。

「そうだな。でも、王都に行けばこんなもんじゃない。」


「へぇ、凄いのね。こんなに人がいたら名前覚えられないわ。」

ルーメルは小さい田舎町だから、みんなが知り合いみたいなもので、引きこもりのプリシラでも大体の人の名前は分かる。


「この街は隣国とも近いから他国の人間もたくさん行き来しているんだ。珍しい店もあるから、後で案内しよう。でもまずは、魔道具屋だな。」

そうだった。今日の目的は魔道具の改良。


「そうだったわ。早く行きましょう。色々と聞きたいことも多いのよ。」

そう言ってフィラルドの案内で魔道具屋まで並んで歩て向かった。

ちなみに、2人とも色々な意味でとても目立っていたけれど、もちろん全く気にすることなく堂々と歩いて行った。

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