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16.出発

「私、今とっっっても機嫌が悪いのよ。邪魔しないでくれる?」

プリシラは不機嫌そうに眉を寄せて、苛立ちを隠そうともせず眼下の魔物たちを睨みつけた。


あぁ、腹が立つ。こんなに苛ついたのは初めてだ。この苛立ちは元凶にぶつけるべきだろう。


「全部、燃やし尽くして」


右手に魔力を集中させると、その怒りに応じるように火の精霊が幾つもの巨大な火球を生む。熱で髪がうねり、空気が揺らめいて視界が歪む。次の瞬間、振り下ろした手に従い、業火が魔物を呑み込んだ。


「これは……現実か……?」

炎にのまれていく魔物たちを前に、衛兵たちはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。





ーーー1週間前


ソファでうたた寝していたプリシラは、結界が反応する音に目を覚まし、はっと飛び起きた。

(フィラルドだわ!)

玄関まで駆け出し、勢いよく扉を開け放つと、表札がカンカンと甲高い音を立てた。



庭の方に目を向けると、プリシラの予想通り結界を超えてきたのはフィラルドだった。


「久しぶりだな。元気にしていただろうか?」


「元気よ!<畑を守くん一号>はどうだった?!」


この数日はずっと魔道具の事が気になっていた。というのも、改良できそうな部分が何箇所か見つかったのに、実際に使う状況が詳しくわからないと手がつけられなかったのだ。


もういっそのことプリシラが町まで行こうかと思っていたけれど、フィラルドと入れ違いになったら困るので、はやる気持ちを抑えて家で待っていた。そんな時に現れたフィラルドだ。挨拶もそこそこに<畑を守くん一号>について問い詰めてしまったのも仕方がない。


「元気そうで何よりだ」

フィラルドは苦笑しながら答えると、持っていた袋を掲げて、プリシラに見せてくれた。


「約束通りお菓子を持ってきたんだ。まずは家にお邪魔しても良いだろうか?」


その言葉に間髪入れずに頷いた。



* * *



「前の紅茶より美味しいわ!ミルクを入れるだけで全然違うのね」


前回の反省を活かしたフィラルドは、今回なんとティーポットまで持参していた。それと、ミルクとお砂糖も。ミルクなんてと思ったけれど、入れてみると驚くほどまろやかになった。お菓子との相性も抜群で、自然と頬が緩む。


「これは、幸せの味ね」


真面目な顔でマフィンとミルクティーを味わうプリシラを面白いものを見るような顔でフィラルドが見ている。



「喜んでもらえたようで何よりだ」


柔らかい声音に、少しだけ気恥ずかしくなる。こんなに美味しいお菓子が悪いんだ。


一通りお菓子を味わって、幸せ時間を満喫したところで、プリシラの様子を見ていたフィラルドが口を開いた。


「ところで、魔道具のことだが…」


「はっ!そうよ!<畑を守くん一号>について聞きたい事があったのよ!」


危ない。お菓子のせいですっかり忘れるところだった。


「アルロッパの街の近くの畑に設置して様子を見たのだが、効果はあった。魔道具を設置した周囲の畑だけ魔物が荒らした形跡もなく無事だったんだ」


「そうなのね!ちゃんと作動して安心したわ」


理論上はうまく行ったのだが、実際に使うとなるとまだ不安が残っていたから、無事に動いてほっとした。


「それで、その魔道具を原型にして大量生産するために、アルロッパの魔道具屋と話を進めていたんだが、少し問題が起きていてな」

「もうそんなところまで話が進んでいるのね!」


今までは趣味で作った魔道具ばかりだったから、魔道具屋が買い取ってくれなくて、いまだに工房に眠っている物も多い。でも今回は違う。自分の魔道具がたくさんの人に使ってもらえると思うと、胸が高鳴った。ぜひともたくさん作って欲しい。


「実は、<畑を守くん一号>の内部が複雑すぎて、今の形だと大量に作るのは難しいのではないかと言われてな。それで、製作者であるあなたに話を聞きたいと言われているんだ」


なるほど。いままで同じ魔道具をたくさん作る、と言う視点で考えた事がなかったから、その問題は想定していなかった。


少しだけ悩んで答える。


「分かった。アルロッパへ行くわ。私も実際に使っているところ見てみたいし」

プリシラがそう答えると、フィラルドは目を開いて驚いた。


「良いのか?」

驚きながら問いかけるフィラルドに、プリシラは戸惑う。


「えっ?なんで?」


「いや、あまりここから出たくないようだったから、何か事情があるのかと…」


フィラルドなりに、気を使ってプリシラに言わなかっただけで、しっかりと引きこもり認定されていたらしい。

でも、プリシラの答えはとっても単純なものだ。


「面倒だったからよ」


「それだけ……?」


「そうよ。だって遠いもの。歩きたくないし、なんだったら出かける準備もしたくない」


もうこれに限るのだ。出かける準備をしないといけないと思うだけで疲れるし、なかなかやる気が出てこない。出かける準備をしなければ、と思っている間に夜になっていることもあるくらいだ。大体、家から出なくても特に不便がない状態で町まで行って、一体何をするというのか。そんな暇があるなら魔道具を作っていたい。


「……そうか。では、一緒にアルロッパまで行ってくれるだろうか?」


「もちろんよ!私も聞きたいことたくさんあったからちょうど良いわ。準備してくるから待っててね」


言うが早いか、プリシラは椅子を倒す勢いで立ち上がってそのまま工房へと向かった。



* * *



「さて、歩いて行っても良いのだけれど、ここはやっぱり飛行魔法を使うべきでしょう」


腰に手を当てて空を見上げる。今日は快晴。飛行日和だ。


「それは異論ないのだが、もしかしてその荷物は全部持っていくのか?」


プリシラは背中が隠れてしまうほどの大きなリュックを背負っていた。その中には入りきれなくて、一部はみ出ている。


「もちろんよ。必要な道具を入れたらこうなっちゃったんだけど、まぁなんとかなるでしょう」


少し引き攣った顔でこちらを見ているフィラルドは無視するとして、ここ最近練習していた飛行魔法の成果を発揮するためにまずは周囲の精霊にしっかりと言い含める。


「いい?まずは安全第一よ。私だけじゃなくて荷物もしっかりと運んでね。絶対にスピードは出さないこと。絶対によ?」


風の精霊は楽しい事が大好きな性格で、悪気がなくてもやりすぎてしまう事が多い。念には念を入れて、しっかりと言い聞かせる。


フィラルドは、空中に向かってぶつぶつと話すプリシラを怪訝そうに見ていたが、口出しせずに見守ってくれた。風の精霊へしっかりと注意事項を伝えたプリシラが満足そうに頷くと、フィラルドも自分の荷物を抱えなおした。


「じゃあ、行きましょうか」


プリシラの言葉に頷いたフィラルドは、ネックレスに触れて魔力を込め、それと同時に風魔法の呪文を唱えて飛行の準備をする。


2人でゆっくりと屋根の高さ程まで浮上してお互いの顔を見合わせた。問題なさそうなことを確認して、プリシラが元気よく手を上げて声を出した。


「それでは、しゅっぱーつ!」

ビュンッ!


次の瞬間、プリシラと大量の荷物だけが風に乗って吹っ飛び、フィラルドは空に取り残された。


「……えっ?」

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