15.魔の森の上で(フィラルド視点)
短いですが、区切りがいいところまでで。
魔の森の上空を飛びながら、フィラルドは先ほどまで一緒に過ごしていた女性――プリシラのことを思い返していた。
魔の森に暮らす、不思議な女性。治癒の聖女様の娘であること。魔道具作りが得意なこと。それ以外はひどく無頓着であること。
フィラルドが知っていることはそれくらいだ。
治癒薬のお礼のために再び訪れたプリシラの家は、やはり魔の森に不釣り合いなほど穏やかな空間だった。
治癒薬の代金の支払いをしたいと思っていたものの、あまり興味がなさそうだったので、ロンドに相談してパンやお菓子も持参したのだが、それが成功したらしい。
差し出したパンを両手で受け取った瞬間、プリシラの顔がぱっと花開くように明るくなった。小さな子供のように目を輝かせ、頬をほころばせて──その笑みに、目が引き寄せられた。
(なんだ、これは……)
もっと喜ばせたい、その笑顔を俺に向けてほしい。そんな想いが込み上げてきて、自分でも驚いた。
これまで女性に対してこんな感情を抱いたことはない。
見た目には無頓着で気を抜いたような仕草ばかりなのに、表情豊かで、感情が真っ直ぐ伝わってくる。その素朴さに、不思議と心を惹きつけられていく。
(プリシラといると、落ち着く……)
『あなたはあなたでしょう』
あの言葉が思い出される。
王弟として、騎士として――常に肩書きと責務を背負ってきた。それが当然で、不満を覚えたことはなかった。
けれどプリシラにそう言われた時、初めて「ただの自分」として肯定されたようで、胸が温かくなった。
――できることなら、もう少し彼女と一緒にいたい。
その思いを振り切るように、視線を前へ向け直す。
(……いや、今は報告が先だ。)
魔道具と治癒の聖女――この二つの件は、すぐにでもアルバートへ報告しなければならない。
プリシラが作った空を”飛ぶ魔道具”が実用化されれば魔法使いの常識が覆る。移動手段としてだけではなく、魔物との戦いにも大いに役立つだろう。
そして、治癒の聖女様の存在。どういう対応を取るにせよ、まずはアルバートに報告しなければいけないだろう。
(これから忙しくなりそうだ。)
報告内容を考えながら、魔の森の上空を駆け抜けた。
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