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13.魔道具

「まずは、魔物だけを狙うように相手を識別する魔法が必要ね。あとは、そこに水弾を当てるようにする。魔物の識別は結界魔法の応用か、探知魔法の応用でいけると思うのよね……」


<勝手に水撒きくん一号>を机の上に置いて、その横に空の魔石を並べる。


結界魔法は光属性、探知魔法は風属性となる。汎用性を考えるのであれば、使える人が多い探知魔法を使いたい。だけど、魔物への反応という点では、結界魔法の方が優位。


(とりあえず、両方の魔法石を作るか)


結界魔法にはいくつか種類が存在する。

魔物にだけ反応するもの。全ての侵入を拒むもの。魔力を通さないもの。など。

今回使うのは、魔物にだけ反応する結界だ。手のひらに空の魔石を乗せて、精霊に呼びかける。

「結界魔法を込めて。魔物にだけ反応するやつでお願い」

普通の魔法使いが聞いたら卒倒しそうな方法で、魔石に魔法を込めていく。


次は探知魔法。探知魔法は魔法使いの力量によって、探知できる内容と範囲が変わる。高位の魔法使いであれば山一つの範囲にいる魔物の種類と数まで分かるらしいが、今回はそこまでは必要ない。

「畑一つ分の範囲で、魔物がいるか分かる探知魔法をお願い。種類と数は分からなくていいわ」


探知魔法の精度を上げると、それだけ扱える人がいなくなる。プリシラ以外の人でも使えるようでなければ魔道具として使えない。これは父様から魔道具作りを教わる時に、最初に言われたことだ。


あとは、魔法が魔物を感知した時の発動に対して、魔道具をどう動かすか…。<勝手に水撒きくん一号>との組み合わせをどうするか…。



* * *


ーーー「……い。……シラ。プリシラ!!」

「えっ!!?」

耳元で大声が響き、プリシラの肩がびくりと跳ね上がった。慌てて後ろを振り向くと、困ったような顔をしたフィラルドが立っていた。

「驚かせてしまってすまない。昨日から何度か声をかけたんだが、ほとんど反応がなくて。流石にそろそろ休まないと体に悪いと思って…」

言われて窓に目をやると、朝の光が差し込んでいた。

いつの間にか夜が明けてしまっていたらしい。


「…あ、ごめんなさい。夢中になるとつい時間を忘れちゃって」

「勝手をするのもどうかと思ったのだが、朝食を用意した。良ければ一緒に食べないか?」

プリシラは口を半開きにしたまま、フィラルドを見上げた。つい先程まで完全に自分の世界に入っていたから、今どんな状況なのかをすぐに把握できない。


「え、えーっと…朝ごはん?」

「そうだ。それと、畑の野菜をいただいたのだが構わなかっただろうか。あなたに声をかけたら、小さく頷いていたから、少しだけ使わせてもらった」

「それは…別に良いけど…」

「それは良かった。では、家に戻ろう」


頭がうまく回らない。雲の上を歩くようなふわふわした感覚のまま、フィラルドの背を追った。


フィラルドに促されて手を洗い、席につく。そして、目の前の光景に思わず目を疑った。


テーブルの上に並んでいたのは、香ばしい香りを漂わせる焼きたてのパン。まだ湯気を立てている表面は、指先で触れればぱりりと音を立てそうだ。隣には、プリシラの畑で摘んだであろう野菜を盛り合わせたサラダ。食べやすいように一口サイズに切られたキリラは鮮やかで、雫をはじくようにきらきらと光っている。そして、木の器に注がれたスープからは優しい匂いが鼻をくすぐり、空腹を誘った。


「簡単なものだが、どうだろう。口に合えばいいんだが」

フィラルドが何か言っているが、ほとんど頭に入ってこない。

「…これ、食べて良いの…?」

フィラルドの方をゆっくりと見ると、こちらを見るスカイブルーの瞳と目が合った。優しげに細められた眼差しに、心臓がどきりと跳ね上がる。


「もちろん、冷めないうちに食べよう」

「え、えぇそうね」


プリシラはまず、焼きたてのパンに手を伸ばした。昨日持ってきてくれたお高いやつだ。ぱくりと大きくかじりつく。外は香ばしく、中はふんわりと柔らかい。その素朴な甘みと温かさが口いっぱいに広がり、思わず頬が緩む。

次にスープをすくい上げる。湯気とともに漂う香りは優しくて、舌にのせれば体の奥にまで染みわたるような温かさを覚える。小さく刻まれた野菜の甘さに、ほっと息が漏れた。

最後にサラダを口に運ぶ。いつも食べているはずなのに、なぜかいつもよりも瑞々しく感じる。同じ野菜なのに、調理の仕方でこうも違うのか。


プリシラが口を開かないせいか、フィラルドも黙ったまま食事を進めていた。言葉はなくても、不思議と気まずさはなく、穏やかな空気が二人を包んでいる。


食べるたびに幸せを感じながら、ゆっくりと食べ終わると、フィラルドの方を見た。


「…元の生活に戻れなくなりそう…」

「ふはっ!昨日と同じことを言っている…!」

思わずと言ったようにフィラルドが破顔する。フィラルドが思いっきり笑った顔を初めて見た。微笑むこともあったけど、困った顔や戸惑った顔の方が多かったと思う。


握った手のひらで口元を抑えて、くつくつと肩を揺らすフィラルドを見ながら、プリシラは真っ赤になった頬をどうやって隠せるか必死になって考えていた。



* * *



「それでね、これが<勝手に水撒き君一号>改めて、<畑を守くん一号>です!」

これがドヤ顔だという見本のような顔で、プリシラはフィラルドに魔道具を見せていた。


昼下がり。プリシラの畑で、先程完成したばかりの<畑を守くん一号>の説明をしている。朝食を食べたあと、工房で最終調整をして試作機が完成したのだ。


「使う魔法石は三種類。水を作る水魔法。風を起こす風魔法。そして、探知魔法。これを込めた魔法石をセットして、畑の周りに設置するの」


結局、探知魔法を使うことにした。畑の周りに魔物が現れたら、それを魔道具の内部で信号に変えて水弾を標的に発射するという仕組みだ。


「威力はあまり高くないの。魔物を驚かせて畑から遠ざけるのを目的にしているから。それに、もし威力が高すぎると人に当たった時に怪我したら悪いでしょう」

「なるほど。確かに魔獣の討伐ではなく、畑を守るという魔道具であればそれが有効だな」

「本当はこの畑で試してみたいんだけど、魔物が来ないから試験できないのよね」


そう、作ったは良いものの、本当に動くかはまだ分からない。でも、ここでは魔物が現れないので畑に設置したところで何も動くはずがない。


「これ、町に持って行って動かしてもらえない?動作状況や改善点なんか教えてくれると助かるのだけど」

フィラルドの方を伺うと、<畑を守る君一号>を手に取って色々な角度から観察していた。


「分かった。私が責任を持って預かろう。もし魔石が空になったら、私が魔法を込めても良いだろうか?」

「もちろん!難しい魔法は使っていないから、誰が込めても大丈夫よ」

フィラルドが引き受けてくれて良かった。プリシラは、もう少し改良できそうなところがないか、工房で作り込みたかったのだ。


「それと…。これはあなたに」

プリシラはそう言ってフィラルドにネックレス型の魔道具を差し出す。外側は装飾らしい装飾のないケース型で、表面は磨かれたように滑らかだ。

「これは…?」

そう言いながらフィラルドはペンダントを手に取る。


「ちょっと珍しい魔道具で、魔力を込めると魔法が発動するの。これは、体を浮かす魔法よ」

「魔力を込めると体が浮くのか?」

「そうよ。それ、中に魔石が入ってるの。開けてみて」


フィラルドが留め金を外せば、内側に漆黒の魔石が収められている。さらに蓋の裏には細かな紋様が刻まれており、光の角度によって淡く浮かび上がった。

「中に何か模様がある…?」

「魔石はその中に入るサイズならなんでも良いわ。でも魔道具の方は、中の模様が消えたら使えなくなっちゃうから気をつけてね」

「これが、魔道具…?」

フィラルドは不思議そうな顔をしてペンダントを眺めている。


「まぁとりあえずやってみて。ペンダントを首にかけて、少しずつ魔力を込めるの」

「分かった」

意を決したようにペンダントを首にかけてから、魔力を込める。

すると…、フィラルドの体が僅かに地面から浮いた。


「これは…!」

驚いたフィラルドが魔力を止めると、体は地面についた。

「おぉ!ちゃんと動いたわね!!」


実は、<畑を守る君一号>を作り終わった後にこの魔道具を思い出して、突貫で作ったものだった。父様の使わなくなったペンダントがどこかにあったよなぁ、と棚を漁ったら出てきたので、それを持ちながら風の精霊にお願いしてみたら、拍子抜けするほどすぐに出来てしまった。


「…もしかして、今初めて動かしたのか…?」

フィラルドが疑いの眼差しでプリシラの方を見る。じとっとした目で見られて焦ってしまう。

「いや、違うのよ?ちゃん私は試したのよ?でも、このタイプの魔道具は作り慣れてないから、ちょっと不安で」

フィラルドから目を逸らしたまま、しどろもどろに言い訳をする。

「…いや、ちゃんと聞かなかった私も悪い」

謝られると、それはそれでばつが悪い。早く話題を変えよう。

「えっとね!魔力をたくさん込めると高く浮くし、少しだと下がるの。これは浮かす魔法だけだから、もし移動したいのであれば別の風魔法で体を押して進んでね」


その説明だけでフィラルドは理解できたのか、次は慎重に魔力を込めながら目の高さほどまで浮かび上がり、そのまま風魔法で進む。

「ちゃんと”飛んで”いるわね!」

思った通り、これこそプリシラが考えていた”飛ぶ”だった。


しばらく飛んでいたフィラルドはある程度コツを掴んだのか少しずつスピードや高度を上げて自由に動き始めた。


自由に飛んでいるフィラルドを見ていると、プリシラも自分で試したくなってきた。

人前で魔法を使うのはどうかと思ったが、フィラルドは人に言ったりしないだろう。というか、もう試したくてうずうずするので気にしてられなくなってきた。


近くの精霊の気配を探ると、風の精霊が近くにいるのを感じる。

「ねぇねぇ、私もフィラルドみたいに飛んでみたいわ」

そう言って風の精霊に魔力を渡すと、プリシラの体がふわりと浮き上がる。


「わわわ!ちょっとゆっくり!倒れちゃう!」

フィラルドと同じように飛んでいるはずなのに、バランスを取るのが思った以上に難しい。プリシラは手足を振り回しながら、空中でジタバタともがく。


「大丈夫か?」

すぐ近くまで寄ってきたフィラルドが、プリシラより少し上を飛びながら手を伸ばす。

「ぜ、全然大丈夫じゃない!!」

半ば叫ぶように返しつつ、プリシラは焦ってその手を掴んだ。思った以上に大きな掌に、自分の手がすっぽりと収まる。次の瞬間、ぐっと上へ引き上げられ、体勢はようやく安定した。


「あまり動かない方がいい。それよりも、体の重心を少しだけ前にして」

「わ、分かったから、手を離さないでよ!」


フィラルドの手を支えになんとか浮かんでいる。落ちても怪我をするような高さではないけれど、怖いものは怖い。


一つ息を吐いてから、言われた通りにすると、少しだけ安定する。そのままフィラルドの手を少しずつ離して、自力で飛んでみる。

「良いぞ。そのまま、少しだけ前に。重心を意識して」

フィラルドの落ち着いた声を聞きながら、言われた通りにゆっくりと進む。

「できたわ!!」

「…本当に初めて使うんだな」

「…ちょっと今は話しかけないで!!」

空中で楽しくおしゃべりする余裕は、プリシラにはなかった。

ブックマークありがとうございます!!

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