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『誓約のそら―烏の飛翔編 第ニ部―』2-7

7


 明かりのついていない暗い部屋の床に、布団が一枚敷かれている。一見、誰も寝ていないようだが、よく見れば小さなこんもりとした盛り上がりがある。

 そしてさらによく見ると、その盛り上がりの正体はふわふわの毛の塊であり、すやすやと小さく寝息まで立てている。

 小虎三兄妹の末っ子、マイニーである。


 マイニーは眠っている。夢も見ずにぐっすりと。このまま目覚めなくても、もしかしたら本人は気にもしないかもしれない。いや、目覚めないことこそが唯一の望みなのかもしれない――マイニーの穏やかな寝姿を見る第三者は、うっかりそう錯覚してしまいそうだ。

 だが、この眠りはマイニーの意思をはるかに超えた存在によってコントロールされている。その証拠に今、寝息と共に小さく波打つマイニーの首筋あたりから、黒い煙が周囲をうかがうように漏れ出している。辺りに誰もいないことを確認したからか、その煙は徐々に大きく大胆に噴出し出すと、ぼんやりとした輪郭から、いつしかマイニーの身体とほぼ同じくらいの大きさの黒い塊になっている。

 その塊は、もはや元の宿主などどうでもよいとばかりに見向きもせず、布団から滑るように抜け出すと、まだ少し警戒しているようにおどおどと床を這い、部屋の壁に沿ってゆっくりと出口を探す。


 それはかなり時間をかけて部屋の扉にまで到達すると、扉の下のすきまから煙となって外へと出ていく。

 部屋の外は灯りのない真っ暗な廊下で、その暗さと人気のなさはそれにとって好都合だ。それはどちらに進むか一瞬迷いを見せるが、すぐに右側へと進路を決めて壁に沿って音もなく這っていく。


 廊下は一本道が続くが、それは時々止まっては周囲をうかがう。そしてまた進む。これを何度も何度も繰り返していると、やがて右手に別の廊下が現れる。

 それは二手に分かれた道をどう進むか思案し、結局は右手の新たなほうへと進むことにする。それは先ほどよりも慎重に這うが、やはり周囲に人気はない。それは若干安心したように歩みを早めて進み、やがて左右に道が分かれた突き当りに出合う。

 それは今度は迷うことなく右側へと進路を変えると、どんどんと進んでいく。そしてある扉を見つける。それは扉の下のすきまから中へと入る。

 部屋の中もまた暗く、誰もいない。それほど大きな部屋ではなく、書き物机と椅子が置かれ、書物が並ぶ棚が壁面を取り囲んでいる。どうやら誰かの書斎のようである。


 それは部屋の隅にうずくまったままでなにかの気配を探るような、もしくはニオイを嗅ぐような動きをすると、目当てのものを見つけたかのようにそろそろと床を這いだす。

 そして一気に書き物机の下をくぐり抜け、その先にある本棚の一番下の段の小ぶりな扉の前で止まる。それは周囲を警戒するように息をひそめているが、やがて誰も来ないと確信し、その扉にすきまがわずかでもないかと探り出す。

 そしてそれはゆっくりゆっくりとだが、扉の中へと入っていく。


 静寂が訪れる。


 やがて、ひとりの人物が部屋に入ってくる。その人物は、切れ長の鋭い目と大きく紅い唇が特徴的――巨門である。

 巨門は迷うことなく、「それ」が入っていった小さな扉の前に立つと、しゃがみ込んで扉の前に片手の平をかざす。すると手の平全体から黄色みがかった光が発せられ、それに呼応して、大小の円が組み合わさった幾何学模様を描く光が扉の表面に浮かび上がる。

 そして、まったくの音もなく扉が開く。


 扉の奥には、淡い水色の卵がひとつ、直立している。


 巨門はそれを手に取ると、耳元に持っていき、軽く振って何かを確認する。

 それからわずかに――光でさえも静止したままのほんのほんの一瞬間――口元をほころばせてから、また無表情に戻り、それを手にしたまま部屋から出ていく。


 部屋にまた静寂が訪れた。

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