表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/45

第43話:病んでる



 リードアンドアイムは現在、

 本社に在籍する野原さんを除いた、15人の元ギルドマスターが代表を務める企業で構成されたグループ企業だ。


 どれも好調な業績を上げているが、中でも際立っているのは、工学分野で博士号を取得している尾崎さんが代表を務める会社。

 それと、情報技術分野で博士号を取得している元第6ギルドマスターの田所さんが代表を務める会社。


 この二社が共同で手がける、

「DNAスキャンデバイスの開発」

「DNA認証システムの開発」

「量子CPUセキュリティシステムの開発」

 この3つだ。



 うむ。ちょっと難しい話をするぞ。


 おいおい、ホログラム通話を切ろうとすんなよ田中。これからがいいところなんだぞ。

 ん? カプチーノのおかわりを入れただけか。

 よしよし、続きといこうか。



 量子コンピュータの発展に伴い、そのセキュリティは大きな課題となっていたが、量子CPUセキュリティシステムの開発により、瞬時にスキャンできるデバイスを使うDNA認証システムと組み合わせることで、量子コンピュータの脆弱性を徹底的に防ぎ、データの安全性を飛躍的に向上させることができた。


 結果としてだな。

 社会の安全性とプライバシーはかつてないほど強化された。


 これにより、世界中の企業や政府機関は、今まで以上に安心して量子CPUを活用できるようになり、新たな技術革新が次々と生まれる時代になった訳だ。


 さて、一段落付いたところで、話をオンファイアへと戻そうか。



 ◇ ◆



 場面は、薄紫の空気に包まれた特殊な空間『カオスアリーナ』


 俺はグローブ型ガントレットの肉球を眺めながら、頭の中を整理していく。


 高くジャンプ出来た時、足にも付いてる肉球の感触から咄嗟に思いついたとはいえ、規格外だと思える反発力を、このガントレットは備えている。お陰でアスドフに勝つことが出来た。


 それと、もしも宿屋で転んでいなければ、ガチャカプセルが壊れない仕様だと気付かず、これを撃ち出すなんて戦法も思い付かなかっただろう。


 計らずとも良い方向へ転んでくれたと、俺はようやく胸を撫で下ろした。


 俺の目の前の床には虹色モザイクの血溜まり。その上に大剣を握り締めたまま大の字で横たわるアスドフ。

 見開いた真っ赤な瞳は、空の一点を見つめて動かない。


 背筋がゾワッとしたが、俺は範囲とアイテムを指定し、撃ち出したガチャカプセルを回収した。


 アスドフの周囲の空気が歪み、身体が淡く発光し始める。

 地面から遠い順番で光が拡散していき、それと共にアスドフの身体は、まるで風に流される粒子のように消えていった。


 アスドフが闘技台の対戦開始の位置で復活しないということは、恐らくどこかのポータルで復活するのだろう。

 ギルドハウスを所有しているようだから、そこの専用ポータルに転送された可能性が濃厚だ。


 だが、カオスアリーナのクールタイムは20日。今から480時間は誰も被害を受けることはない。


 俺の耳と視界モニターにメッセージが流れ始めた。

『[システム]カオスバトルの戦利品として、低級HP回復ポーション×3を入手しました』


『[システム]帰還するポータルを選択して下さい』

『転送先候補:[バドポート][キリンポート]』


 ……アスドフがスキルを発動させた地点であるバトルアリーナには戻らないようだ。

 まぁ、カオスアリーナは個人のスキルで出現させる空間だから、登録されてるポータルに帰還するのは当然だな。


 バトルアリーナ自体は次の対戦が始まってるだろうから、そこに戻るのはあり得ない。

 設定がメチャクチャな固有スキルのカオスアリーナとはいえ、流石にその辺りは考慮して作られているのだろう。


 まぁ、そこまで好き勝手出来るスキルなんて、莉佳が作る……いや、認めるわけは無いだろうからな……。


 よし。

「戻るかにゃん」


 ――おっと、にゃん語尾が付いてしまうんだった。今のうちに武器を持ち替えなければ。

 見られて恥ずかしい装備はここで外しておくに限る。安定の……継がれた木の杖にしておこう。


 武器を持ち替えてメイジに戻った俺は、皆が待っているであろうキリンポートは選択せず、あえてバドポートを選択した。


 ◇


 バドポートの広場が視界に映る。ああ、見慣れた風景だ。なんだか安心する。


 人の多いキリンポートになんて戻ったら、

「揉みくちゃにされるにゃん」


 ――あれ……にゃん語尾が取れてない?


 そう気付いた直後、

「――ミリア!」


 声を上げたユキ……と、その横にルイーサが立っている。

 恐らく、ユキは俺がバドポートに戻ると予想し、ルイーサはユキを追ってきたのだろう。


 今度はユキと直接対決する気だろうか?

 不純な動機で戦うのは、お父さん反対だぞ。


 ルイーサは銀髪をサラサラと揺らしながら、俺に駆け寄ってきた。

「――師匠、カオスアリーナでアスドフと戦ってきたんだろ?」


 ……師匠ってなに?


 まぁ、アスドフが大声でカオスアリーナを発動させたんだから、俺が引き込まれたことを、ユキとルイーサが知っているのは当然だ。


「アタイに勝った師匠なら、当然アスドフの野郎もあっさり倒しちまったんだろ?」


 だから師匠ってなに? それと、いつものクククッって笑いはどうした?


「師匠、カオスアリーナの映像データをアタイに送ってくれよ! 今後のバトルの参考にすんから」


 師匠とか映像を送ってくれとか、なに言ってんだルイーサ。俺はユキにこのニャンコな姿を見られて、どう誤魔化そうか考えてるところなんだぞ。


 武器を変えても防具(着ぐるみ)はそのままとか、セットの意味ないだろ! って、心の中でツッコミ入れてたとこなんだぞ。


 着ぐるみ着て球にじゃれついてネコパンチしてる姿なんて、息子のユキじゃなくても他人に見せられる訳がないだろ。


「いやですにゃん。見せられませんにゃん」

 ……この、勝手に付くにゃん語尾……。


 ていうか、着替えの防具が見当たらないんだけど。あの地味なワンピースとベストはどこ行ったんだ?


 あ……もしかして……。


 宿屋の客室で、チュートリアル開始でもらった防具を装備した時点では、アイテムボックスの空き枠が、たった10枠しかなかった。


 なので、レア度の低いアイテムを入手したら、自動売却するように設定変更していたのを思い出した。

 あの時点では、課金しまくってゲームマネーを稼ぎ、レアな装備を調える気満々だった訳だし。


 要するに、ホワイトキャッツガントレットSを装備した時点で、防具は白ねこの着ぐるみに変更され、レア度も何もない外した防具は自動で売却されているようだ。


 迂闊だった――どうする俺……。


 こんな格好で父の威厳が保てるのか。いや無理だにゃん。

 ちくしょう、心の声までにゃん語尾だ。あ、これ俺か。


 ――そうだ、個人トークなら大丈夫かも!


「[to:ユキ]……ちょっと聞きたいんだけどにゃん……プレイヤーズマーケットってどこにあるんだにゃん?」


 ――くっ、駄目だ。個人トークまでしっかりにゃん語尾が付く。


『[体調管理システム]警告:極度の空腹状態を検出しました。10分以内にログアウトして食事を取ってください。確認できない場合、強制的にログアウトが実行されます。』


 ――なんてナイスなシステム。


 ユキが俺の肩に手を乗せてきた。

「ルイーサ。ミリアの頭上に空腹マークが付いてるから、カオスアリーナの映像は今度にした方がいいよ」

 そして俺のふわふわな猫毛をナデナデしている。


 上目遣いで俺を見ているルイーサ。

「な、なぁ。師匠ってユキの母親なんだろ? ユキに妹なんか居ねぇって、アタイ知ってんだかんな」


 母親ではなく父親なんだが……どう返答していいのか困った俺が、ユキの方へ顔を向けると、ユキはルイーサに向かって口を開いた。

「ルイーサ、何か勘違いしてるね。ミリアは僕の妹でも父親でもなくて、僕だけのミリアだよ」


 ルイーサの表情が変わった。これは以前の……いつもの表情だ。

 ギロリとユキを睨みつけ、片側の犬歯を剥き出した。


「クククッ――ユキてめぇ、師匠を独り占めしようってんだな。いいぜユキ。バトルアリーナで今すぐ勝負しようぜ――アタイが勝ったら師匠はアタイのもんだ! それともう一つ。てめぇの童(ピー[自動合成音])もアタイに捧げろ……クククッ」


 ――パチーンッ。


 ガントレットは外れてるから素手でのビンタだ。

 痛みは無いというのは分かってる。それと、これが体罰に当たるということも分かってる。

 愛の鞭なんてものは、心が伝わらなければそれは只の暴力だ。


「いくらゲームでもにゃん、汚い言葉を使うのはやめなさいにゃん。ルイーサは可愛くて格好いい女の子なんですからにゃん」


 ……くっ、にゃん語尾のせいで締まらない。


「……ごめんにゃん。ルイーサにゃん」


 ルイーサが瞳に涙を浮かべる。

「師匠……アタイをぶったのか?」


 ユキが口を開く。

「どう? ミリアのお仕置きは温かいでしょ?」


 俺は、ルイーサと初めて会った時のことを思い出した。

 カキツバタという和装の女性を前に、「ママにお仕置きしてもらえる」と言っていた。


 そう……お仕置きの内容がもの凄く気になっていたんだ。


 カキツバタというプレイヤーは、ルイーサの母親なのだろうか?

 少なくともあの時のルイーサの発言は、お仕置きを望んでいるようだった。


 再びしおらしい顔つきになったルイーサ。


「アタイが間違ってたよ師匠。師匠をアタイのものにするんじゃなくて、アタイが師匠のものになればいいんだ……クヒッ……いつでもお仕置きしてもらえる」


 え、なんかヤバい。






「続きが気になる」「面白いかも」と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。


※続きも頑張って書いております。

中々時間が取れず投稿ペースは遅いですが、温かい目で応援の程よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ