第41話:ガチャバイト?
「これ、絶対何かの犯罪組織だよね?」
「あー、俺も見たよ。時給3万以上ってバイト求人」
「時給3万とか、怪しすぎてウケる」
「そうだ尾崎、お前バイト探してただろ、これやってみれば?」
……学友と三人でその求人広告を見てたんだけど、俺は思ったんだ。
犯罪組織が、この大学のコミュニティサイトに求人広告を出すんだろうかと。
募集主の身元が保証されていなければ、審査だって通らない。
俺は2077の大災害で両親を失った。それからは飲食店でアルバイトをしながら高校に通い、国内トップといわれる大学を目指した。
高校の成績もトップだった俺は、大学の試験もトップで合格をした。でも、大災害後の法改定により、奨学金は貸し付け以外、認められなくなっていた。
希望としては大学院まで進みたいけど、卒業後は金利まで上がった高額な返済が待ち受けている。
そんな時、このアルバイトの募集広告を目にしたんだ。
危険なバイトだと分かったら辞退すればいい。
今バイトしてる飲食店は学生にはシフトがキツい。中継ぎバイトが時間にルーズで平気で遅刻してくるから、ツケが全部こっちに回ってくる。
違うバイトを探していたところだし――ダメ元だ。
そう考え、募集広告に書かれている「返信メールにて詳細を送ります」というメアド宛に自分のメアドを入力して送信した。
すぐに返信が来た。テンプレートを自動で返信するようにしているのだろう。
俺は早速、返信メールを開いた――。
以下、原文そのまま。
◇
この度はお問い合わせいただき、ありがとうございます。以下、アルバイト内容の詳細をご説明いたします。
(1)業務内容
ハイエンドモデルのゲーミングパソコンを、エアビークルソッコー便で45分以内にお届けいたします。
そのパソコンを使用し、指定したゲームの指定アカウントにログインしていただきます。
そして、アカウントにチャージ済みの500万円分の課金コインを使ってガチャを回す作業を行っていただきます。
・課金コインの残額が100万円分を下回ると、500万円分まで自動的にオートチャージされます。
・ガチャ1回につき100円の報酬が発生します。
(2)費用負担について
・Wi-Fi料金:お送りしたパソコンは、全都市カバーの超高速Wi-Fiに自動で繋がるようセッティングしてあります。いくら使っても料金が発生する事はございません。
・電気代:パソコンの使用により発生した電気代は、前年の電気代の領収書を撮影しメール添付いただければ、増えた分をこちらでお支払いいたします。
・修理費用:パソコンが故障した場合の修理代は、こちらが全額負担します。
※指定のゲーム以外の用途で使用された場合も、修理費用は負担しますのでご安心ください。
(3)パソコンの自由利用
・パソコンは業務以外の使用も可能です。勉学やスキルアップのための利用も歓迎します。
(4)報酬について
・報酬は下記支払日の0時にゲーム内の過去ログを確認し、ガチャを回した回数分を算出します。
・毎月1日と15日の午前10時に指定の銀行口座へ振り込みます。振込手数料は当方が負担します。
(5)追加サポート
・ご住所最寄りの会計事務所をご紹介いたします。費用も当方が負担いたしますのでご安心ください。
・会計事務所へは、ご自身で足をお運びいただきますようお願いいたします。
ご不明点がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。
◇ ◇
……ガチャ1回で100円もらえる――って、ご不明点だらけだよこんなの!
自分でガチャを回した分だけ報酬が発生する……いいのかこんな仕事で報酬を受け取っても……。
毎月1日と15日に支払い……今日は14日――。
うん――ダメ元だ。
学生証のフォトを撮り、登録IDと一緒に送信。
俺は駆け足でアパートに戻った。15分は走っただろうか。
息を落ち着かせ、汗塗れになったシャツを脱ごうとしたらチャイムが鳴った。
「尾崎さーん、エアビークルソッコー便でーす」
「……はい」
カチャッ――
ドアを開けると――配送員が大きな箱を玄関に運び入れた。
表の道路には、黄色と緑の縞模様が鮮やかな、三輪スクータータイプのエアビークルが停まってる。
「ああ、重かった。あ、こちらに受け取りのサインをお願いしまーす」
物凄く高価そうなフルタワーのデスクトップゲーミングパソコンが、超高解像度で超高リフレッシュレート対応のモニター付きで届いた。
……配送員が言ってた通り……けっこう重い。
◇
翌日。
俺の口座に、夕食を摂りがてらニ時間で1000回、カチャを回した金額――
十万円が振り込まれた。
……これって時給3万どころじゃない。海苔風味弁当を食べてる時間や、水圧の弱いシャワーを浴びてた時間を考えると、正味90分といったところだろうか。
なぜ報酬をそこまで払えるのか? どこから資金が出ているのか?
狐につままれてるような気分だけど……どこにも犯罪要素は見当たらない。
ゲームにログインしてガチャを回すだけの真っ当な仕事だ。
そうなると、雇用主は何者なのか……。
個人なのか、それとも企業なのか。お金を湯水のように使える理由が、どうしても想像できない。
うん……時間は有限。無駄にするわけにいかない。とりあえず、ガチャを回しながら考えることにした。
そもそも、こんな事をして誰が得をするのか。
……このゲームを運営してるエイツプレイスは得をしているのは確かだけど……。
うん、ガチャバイトの俺も得をしている。損をしているのは雇用主だけ……。
ふと思った――もしかして……雇用主は神様みたいな存在なんじゃないか?
俺は確かに、希望のない世界で何か救いを求めていた。
◇
それから数日後。
このゲームは素人の俺から見ても、ゲームとして成り立っていないんじゃないかと思えるくらいバランスが悪い。いや、システム自体が酷いんだ。
仮に俺がこのゲームを自分でやっていたとするなら、初心者クエストの時点で辞めていただろう。
初心者クエストは専用武器で行うようだけど、その武器さえ課金ガチャからしか出ないんだ。
だけど、それを俺たちガチャバイトの配布班が、無料で配ってるんだよ。だから同時接続数はけっこう多い。
プレイヤーたちはログインしたら、俺たちのギルド、または配布班の所に直行をし、配布してる課金アイテムをもらうのが日課にさえなっている。
それをプレイヤースマーケットで転売する者はいない。
ガチャバイトの配布班が、プレイヤーズマーケットでも、設定できる最低額でガチャアイテムなどの課金アイテムを出品しているからだ。
更に数日後。
今日は支払い日――480万円が振り込まれてた。
――なんだこれは!? 苦学生の俺からしてみれば物凄い金額だ。
こんな簡単な仕事でこんなに稼げるなんて……。
会計事務所なんて大袈裟だと思ってたけど、夏季休暇などで収入が更に増えることを考えれば、決して大袈裟ではなさそうだ。
その日の正午過ぎ。
俺の中では神様のような雇用主からメールが届いた。
『配布拠点となるギルド増設にともない、尾崎様の使用されてるアカウントを8時間の3交代ではなく、24時間いつでも自由に使える専用アカウントとし、第2ギルドのマスターを尾崎様に努めて頂きたいと考えております。
・ギルドマスター手当てとしまして、ガチャ単価を200円に増額いたします。
ご都合の悪い場合、お早めにご連絡ください。』
好きな時間にガチャが回せるとなれば……単純計算でも――富裕層並みの所得!?
なんだか頭が混乱しそうだけど……それだけのお金があれば、大学院で好きなだけ学べる。好きなだけ研究もできる。
だけど、俺なんかが……
――メールの着信音が鳴った。
『 追記:
午前11時~深夜2時までの間でしたら、私はメインキャラクター「ミリア・ルクスフロー」でログインしておりますので、お気軽に個人チャットを飛ばしてください。
そちらのアカウントのフレンド欄に登録してあります。
※食事あるいは入浴など、離席中は第7セクターのセントラルロビーでダンスをしておりますが、ログは残りますので戻り次第、折り返し個人チャットを入れます。
質問以外の雑談も大歓迎です。』
……内容から判断すると、雇用主は明らかに個人だ。
俺はすぐさまゲームにログインし、第7セクターのセントラルロビーへと向かった――。
――居た!
ロビーのど真ん中で、神楽舞とヒッポホップをミックスしたようなダンスを踊っている。
――ミニ丈の巫女服を着たミリア・ルクスフロー。
その姿は――どこか人知を超えた存在のように、とても神々しく見えた。
色々な疑念が全て晴れた――。
「神様……」
――未来への希望が――ああ、夢が叶えられる――。
俺は、大災害で歪んでしまったこの世界に……青空が無くなってしまったこの大地に――幾筋もの光が射し込んでくる景色を見た気がした。
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