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第40話:それは誕生の瞬間



 このバトルの映像は2077年。三年前の春季セミファイナル。


「チーフ、ファイナルの映像も見せて下さい」


 チーフは首を横に振った。

「今見ているセミファイナルで1830戦……全勝、無敗。この記録を残して以降、ミリア・ルクスフローはログインしていないんだよ」


 1830戦も戦って引き分けもなく、一度も負けていない。

 この無敗プレイヤーがどれだけ特異なのかが分かる。


 莉佳は人差し指の背を鼻先に当てた。

 2077年……。

「もしかしてこのプレイヤーは、あの大災害で犠牲に……」


 チーフが片手を前に出し、莉佳の言葉を遮る。

「断定はできない。あくまで被災者の可能性があるというだけだよ。怪我を負っただけであれば、傷が癒えれば復帰してくる可能性もある」


 とはいえ三年も経っている。不確かなものに、何故そこまで神経質になっているのか。


 莉佳はその日から約一ヶ月をかけ、それ以前の戦闘データも徹底的に分析した。

 どの試合を見ても、どんな状況下においても、ミリア・ルクスフローは圧倒的に強い。

 レベルが違うという話ではなく、まるで次元が違う。


 しかも、近年主流になっている、より直感的に操作できるコントローラーさえ使用せず、キーボードのみで操作してるというAIの分析結果。


 そのキーボード設定にしても、全てのキーが押し込んでいる時間で変化するように設定してある。


 長押しと短押しではなく、0.2秒毎に変化するよう設定してるのよ。

 そこまで細かく設定されたキーボードなんて、私だって操作できない。


 ……これでは、チーターを野放しにしてると思われても仕方がない。スタッフがこのプレイヤーに対して神経質になるのも納得できる。


「それにしてもこの企画は……」


 莉佳が見ているのは『無敗の王者、ミリア・ルクスフローに挑戦しよう!』という企画書だ。


 チーフが莉佳のデスクにコーヒーを置いた。

「総務部が口を出してこないのをいいことに、営業部と運営事業部が手を組んで、本人や保護者の同意もなくこんな企画を始めてしまったんだ……ところで、コーヒーはブラックでよかったかい?」


 総務部が差し入れてきたマカロンを食べていた莉佳。

「有難うございます。チーフも良ければマカロン食べますか?」

「いや、私は甘いものはちょっと……」


「ここのマカロンほんと美味しいんですよ。社長が総務部のスタッフを使って、毎日差し入れしてくるので遠慮なくどうぞ」


「ははは、私は今年で定年退職だ。退職後の余生を糖尿病で過ごしたくはないからね。遠慮しておくよ……いや、折角だから頂こうかな」


 莉佳がマカロンの入ったトレイを差し出す。

「総務部は営業部に弱味でも握られてるのかしら。あんな営業部のトップがゲームディレクターなんて、チーフも苦労してるんですね」


「君の洞察力には感心するよ……あ、これは美味しいね」


「なになになに、どれが美味しいですって? 莉佳、何で先輩の私を差し置いてチーフにマカロン勧めてんのよ。真奈美さんもどうぞーって声かけるのが普通でしょ」


「先輩、マカロンを食べに来たんですか?」

「……あ、いいえ。大事なことを伝えに来たのよ。教えてほしかったら、教えて下さい真奈美さんって言って」


「チーフ、ピンク色のもどうぞ」

「何で! 私には?」

「欲しいんですか?」


 そこへ別のスタッフが駆け込んでくる――。

「チーフ、大変です! 無敗プレイヤーがログインしてきました!」

「――それ今、私が言おうとして――」


「――高野君、すぐに中央監視モニターの電源を入れて皆んなを集めてくれ!」

「了解ですチーフ」


 莉佳はマカロンをトレイごと真奈美に渡すと、チーフに続いて中央モニターへと向かった。


 ――三年ぶりの復帰――無敗の王者、ミリア・ルクスフローの帰還だ。


 スタッフ一同に緊張が走る。


 チーフが声を上げる。

「高野君、サブモニターをバトルアリーナのカメラ映像に切り替えて中央モニターに寄せてくれ!」

 先程までの雰囲気と違い、とても若々しく見える。


「了解ですチーフ」


 チーフは続けて右側で控えているスタッフに指示を出す。

「井上君、どのジョブと武器を選んでくるか、ステータス確認を頼む!」

「了解ですチーフ」


 チーフが莉佳に顔を向ける。

「皆でルクスフローの復帰戦を見たあと、君の主導でミーティングを行うつもりだが、いいかい?」


 莉佳は深く頷いた――


 ステータスを確認していた井上が声を上げる。

「スパークコインの購入を確認! 現在10万円分の――いえ……まだまだ課金額が増えてます!」


 信じられないといった表情のチーフ――。

「井上君、中央モニターをステータス表示に切り替えてくれ!」

「了解ですチーフ!」


「「「「「なにぃぃぃ!」」」」」


 中央モニターに映し出された百万というスパークコインの額に、莉佳以外のスタッフ全員が声を上げた。


 そしてチーフが呟く……。

「あれほど厳しい条件の中でも、くじけることなく何年も無課金を貫いてきたのに……バトルアリーナに直行しないで……課金してると……いう……のか……」


 井上が声を上げる――。

「今度は課金ブーストアイテムを上限まで購入しました!」


 高野が口を開く。

「ブーストアイテムを使ってバトルするつもりでしょうか?」


 莉佳がチーフに顔を向けるとチーフも顔を向けていた。

「チーフ、私はあの強さでブーストアイテムを使うなんて信じられません」

「ああ、私も同意見だよ莉佳君」


 再び井上。

「アイテムボックスを上限まで……それと個人倉庫も上限まで拡張しました!」


 チーフが声を上げる。

「高野君、サブモニターをルクスフローの追従カメラに切り替えてくれ!」

「了解ですチーフ」


「「「「「えええええええ」」」」」


 ――ミリア・ルクスフローがミニ丈の巫女服を着ている。


 続けて高野。

「ガチャで出たアイテムをプレイヤーズマーケットに出品し始めました。――えっ――全ての出品額が――設定最低額の100エリプスです!」


 そして井上。

「今度はスパークコインのオートチャージ設定をしています……えっ――残コイン額が100万を切ったら上限の500万までチャージするよう設定しています!」


 中央のデスクにダァンッ! と手を叩きつけるチーフ。

「無敗の王者は――どこに行ったんだ!」



 莉佳がリアルタイムで目にしたのは、無敗伝説のミリア・ルクスフローではなく、ガチャの神様ミリア・ルクスフローが誕生する瞬間だった。


 ◇



 それから一年と四ヶ月後。


 老朽化が進んだオフィスビルの三階にある、エイツプレイス本社の第一会議室。


 会長や社長を差し置いて、一番奥の椅子で踏ん反り返る脂ぎった男。


「営業部の私がゲームディレクターをやったのが正解だったという事ですよ。はっはっはっはっ、開発部がいかに能無しの集まりか、これで分かったでしょ、会長、社長!」


 今度は下座にいる莉佳に向かって、ゲームディレクターの矢々野は脂ぎったドヤ顔で続ける。


「これはこれはプログラミングの世界チャンピオン。良かったら私の直属の部下として迎え入れてやってもいいぞ。私は懐が深いから、はっはっはっはっ……」


 鼻に人差し指の背をあてる莉佳。

「確かに客単価は上がっています。ですが、主に課金をしている180のアカウントだけをピックアップすると、課金額の平均が30億円に登るのですが、この数字を異常だと思わないのですか?」


「あぁ、チャンピオン君。誰も意見を述べろとは言ってないよ。開発部のスタッフは言われた通り、際どいコスチュームがセンシティブ判定を受けないよう調整してりゃいいんだ。胸の揺れ具合をな。はっはっはっはっ」


 莉佳は立ち上がると、後ろの壁に埋め込まれている大型モニターの電源を入れた。


「こちらをご覧ください。これはスパークスで公式に表記してある、課金ガチャのドロップレートテーブルをグラフで表したものです」


 矢々野が顔をしかめる。

「なんだね君は。収支報告会議はとうに済んでるんだ。今回の議題は自社ビルをどこに建設するかだろ。的外れな事を――」


 会長が矢々野に声を掛ける。

「私が許可しました。莉佳さん、続けてください」


「ありがとう会長。次に、ここ数ヶ月の課金ガチャのドロップレートテーブルのグラフを右側に貼るので比較してみてください」


 それを見た社長が口を開く。

「――何だこれは……レアアイテムの排出率が半分になってるじゃないか……」


 莉佳が矢々野に顔を向ける。

「さて、ゲームディレクターさん。貴方の意見を伺いましょうか?」


「いやいや、これはデタラメなグラフですよ。そ、そうだ、証拠があるならそれを提示してくれないかね」


 莉佳が涼し気な顔を見せる。


「こちらのメモリに、180のアカウントのログデータが入っています。これは180のアカウントを作って、5860億円分の課金をした、本人から頂いた間違いのないデータです」


 矢々野が立ち上がる――。

「――き、君は……ガチャの神、本人と接触したというのか?」


 白い歯を見せる莉佳。

「ええ、先日お会いしました」


「わ、私は何も知らんぞ、入力したのは開発部の人間だ!」

「でも、命令したのは貴方ですよね?」


 莉佳は手の平を矢々野に向け、ボイスレコーダーの再生を開始した。


『真奈美さんって呼んでくれたら教えてあげる』

『教えて下さい真奈美大先輩』


『だ、大先輩だなんて……あのね、ゲームディレクターの矢々野がこの数値にしろって……』


 ――立ち上がった下座の連中を押しのけ、矢々野がドアに向かって突進を始めた――。


 会議室から逃亡した矢々野。後を追ったのは数名の矢々野の部下。


 莉佳は社長と会長に微笑む。

 排除は完了という意味を込めて。


「さて皆さん、スパークスの後継となる、VRMMORPGを製作する企画についての会議を始めましょうか」



 ええ、今日の私は張り切ってる。


 だってこのあと、ミリア様とのデートがあるから。







「続きが気になる」「面白いかも」と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。


※続きも頑張って書いております。

なかなか時間が作れなくて確実な投稿日は指定できないですが、応援の程よろしくお願いします。

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