表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却のリリユリ  作者: 海山蒼介
第1章 初めての◯◯をもう一度
8/11

第7話 アタシのファーストキスはここだった……らしい

 あれから五・六限目がつつがなく進み……はしなかった。ええ、しませんでしたとも。

 何故って? どの授業にも件の彼女が覗きに来たからに決まってんでしょ。

 ホント、よく前のアタシ普通に授業受けれたな。


「いや、もしかしたら授業そっちのけであの子と一緒に居た可能性も全然あんな」


 現在の時刻は午後4時。

 既に帰りのホームルームは終わっており、クラスメイト達の姿もない。

 およそ40席ある教室にただ一人、アタシはその場に着席したままなんとなしに窓の外を眺めていた。


「お待たせしました、ユリさん」


 扉の開閉音と共にリリィちゃんがやってくる。


「すみません、電話をしていたら遅くなってしまって……」

「いいっていいって。アタシももうちょい教室に居たかったし」


 アタシがそう返すと、リリィちゃんは一瞬驚いた顔をした後、クスッと小さく笑って質問する。


「どうでしたか? 久々の……いえ、初めての学校は」

「うん、楽しいね。すっごく楽しい。勉強はあんま好きじゃないけど、教室で皆とお喋りするのがとっても楽しかったな」


 返答と共に、アタシは今日の出来事を思い返した。

 ほとんどの授業は頭に入ってこないけど、不思議と英語だけはちゃんと理解出来て。

 最初は髪色とキャラ違いでクラスメイト達から避けられていたけど、授業中や休み時間に話し掛けている内に段々と打ち解けていって。

 リリィちゃんと一緒に居る時は全然気が休まらないけど、不思議とどこか居心地の良さ的なモノを感じられて。


「こんな日常を……アタシは送ってたんだね」


 アタシは教室を見渡しながら、ポツリとそう呟いた。

 クラスメイトの話を聞く限りだと、前のアタシはそこまで教室に馴染めていなかったのかもしれない。

 だけどきっと、前のアタシも思っていた筈なんだ。

 皆ともっと打ち解けたい。仲良くなりたいって。


「…………」


 自分の机をそっと撫でる。

 本来なら、この席に座っているのはアタシじゃない。

 ここに居るべきなのは……アタシじゃない。

 けどゴメンね、キミの代わりにもうちょっとだけこの生活を楽しませて。

 きっと今のアタシ、ちょ〜悪い顔してんだろうなー……。


「ユリさん?」

「ゴメン、なんでもない。いやぁ〜、明日も楽しみだなぁ~」

「そうですね。明日こそは口移しを達成しましょうね」

「だからイヤだって! 口の中に入った物とか汚いし!」

「今更なに言ってるんですか。散々私の口腔を舐っておいて」

「だからアタシ知らないんだけど!? ホントに前のアタシってキミとそんなふしだらな事やってたの? なんか記憶思い出すの超怖いんだけど!」


 せっかく物思いに耽けていたところなのに、なんか色々とぶち壊された気分……。


「ねえ、ちなみに聞きたいんだけど……アタシとリリィちゃんってどこまでしてんの?」

「どこまでとは?」

「その……キスとかは?」

「何度舌を絡めたか分かりませんね」

「想像の百倍イヤな回答!」


 掘り下げれば掘り下げる程、アタシとリリィちゃんの関係性が怖く思えてきた。

 これ以上の質問はいけない! と、アタシの脳内で危険信号が鳴り響いている。


「ちなみに、ファーストキスはどこでしたと思います?」

「もういいよそういう質問……。どーせアタシかキミの部屋とか、学校の屋上とかじゃない?」


 ここの屋上が使えるかどうかは知らないけど。

 振り向きざまにアタシが適当な返答をした、その時だった。

 唇に柔らかい物が当たる。

 文字通り目と鼻の先に、瞳を瞑ったリリィちゃんの顔があった。

 時計のチクタクという音と、外からの運動部の声だけが耳に入る。

 背中に当たる陽の光以上に、体の内側が熱く感じた。

 一秒、また一秒と経ち、唇からリリィちゃんの顔がゆっくり離れると、リリィちゃんは手を後ろに組みながら頬をほんのりと赤らめて。


「ここですよ」


 と、答え合わせをしてきた。

 その瞬間、ズキッと頭の内側から電気が走るような痛みと共に、見知らぬ光景がアタシの脳内にフラッシュバックする。


『大好きです。この世の誰よりも、この世界の誰よりも。アナタを幸せにし、アナタと幸せになることを……誓います』


 知らない。アタシはこんな記憶知らない。

 夕暮れの教室。

 淡々とチクタクという音を奏でる時計。

 窓ガラス越しに聞こえる運動部の掛け声。

 目の前で真っ赤に顔を染めているリリィちゃん。

 そして、静かにゆっくりと唇を重ね合うアタシ達。


「!!!!????」


 なに……これ?

 なにこれ! なんでアタシがあんなこと……。

 ってか今アタシ、この子とキスして……。

 一体何秒、何十秒、何百秒思考が止まっていただろう。

 ようやく我に返り、アタシは咄嗟に口元を腕で隠した。


「どうです? 思い出せましたか?」

「ば、馬鹿! リリィちゃんの……馬鹿!」


 ああ、今にも顔が爆発しそう。

 いや爆発しちゃえ。そんでこの生意気な美少女も道連れにしちまえ。

 多分、アタシはこの記憶を一生忘れないだろう。この場所を一生忘れないだろう。

 ここがリリィちゃんのファーストキスが生まれた場所。

 ここが前のアタシのファーストキスが生まれた場所。

 そして……、


 アタシのファーストキスが生まれた場所だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ