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抜けないクセ

地面に尻餅をついたまま、突然目を覚ましたグレルを見上げる結衣。

はっと思い出したように、慌てて土下座のポーズをする。


結衣「あああっ、あの、すみませんでした!」

結衣<相手が怒っていたらまず謝ること! 今までもそうやってトラブルをおさめてきたんだからっ>


結衣は、額が地面にくっつきそうなほど必死で頭を下げる。


結衣「本当にすみません! 何か変なことをしようとしたわけじゃなくて、私はただ……」

グレル「大声を出すな。頭に響く……」

結衣「え」


顔を上げると、グレルは片手で前頭部を押さえている。よほど痛むのか、鼻や目には細かい皴が寄っている。


結衣「はい……あの……かなり苦しそうですけれど、大丈夫ですか?」

グレル「なぜ俺の心配をする? お前は誰だ?」

結衣「えーっと、牧野 結衣と言います」

グレル「見慣れない格好だが、勇者か?」

結衣「ゆうしゃ? ええ? 何ですかそれ。私はただの介護士ですっ」


変な誤解をされないよう、ぶんぶんっと大きく首を横に振る結衣。


グレル「カイゴシ……聞いたことがない職業だな。俺を討伐しに来たんじゃないのか」

結衣「討伐?」

結衣<さっきから何言ってるんだろう……>

結衣<よく分からないけれど、とにかく今すぐ食べられたりするわけじゃないみたい…?>


恐怖心が薄れてきて、結衣はようやく立ち上がれる。そして少し距離を保ったまま、思い切って尋ねてみる。


結衣「あの、あなたは誰なんですか? 地獄の閻魔様なんじゃないですか?」

グレル「俺を知らずにここにいるのか……はあっ……!」


苦しさの波が襲ってきたのか、再び寝台に倒れ込むグレル。

より一層、息が荒くなっている。


結衣「やだ! 熱が上がったのかも!」


結衣は慌てて、グレルの額に手の平を当てた。

その瞬間、じゅっと皮膚が焼けた音が聞こえる。


結衣「あっつ!」


結衣の右手は真っ赤に火傷をして、ふわ~と白い煙まで出ている。


グレル「しまった!」

結衣「一瞬触っただけたのに……」

グレル「時間は関係ない! 俺の体内は常人より高い熱を保有しているんだ。だから、さっきから触るなと言っただろう?」


結衣<え。怒っていたわけじゃないの?>


グレルは自分の苦しみをこらえ、結衣を心配して無理やり体を起こそうとする。


グレル「どれ、見せてみろ……」


結衣「病人は起きないでください!」


突如大声を上げる結衣と、びっくりして両目をぱちくりさせるグレル。

心配をかけまいと、結衣はグレルに向かって右手をグーパーと元気に動かして見せる。


結衣「私は大丈夫です!」

結衣<本当はジンジンするけれど……>

結衣「それより、あなたこそこんなに熱くて大丈夫なんですか? 一体何度あるんだろう。あ、そうだ」


結衣<制服のままなら、まだあるかも>

ポケットに手を突っ込み、入れっぱなしにしていたガンタイプの電子温度計を取り出す。

そして、グレルの額にかざしてボタンを押した。


結衣「78度⁈」


思わず悲鳴に近い声を上げてしまう結衣。

言われた通り、体を横にしているグレルをじっと見つめる。


結衣「いつもこんなに高いんですか⁈」

グレル「分からない。ただ、いつもよりは高いと思う……」


結衣<いつもよりはって……人間じゃないのは確かだけれど、一体何者? 勇者とか討伐とか、よく分からないことを言っていたけれど>

結衣<それに私、この生物さん見覚えがあるような……>

結衣<いや、考えるのは後! それより、まずはこの超高熱を下げないと!>


何かないかとポケットの中をさぐる結衣。現代世界で長嶋さんに飲ませるはずだった解熱剤のカロナールを見つけて、取り出す。


結衣「これ、効くのかな……」

結衣<副作用とかが出たらどうしよう。蕁麻疹が出たり、余計に呼吸困難になったり……>

結衣<まあ、仕方ない……! 今はこれしか持っていないし、ナースもいないし、何もしないよりマシははず!>


ギリギリ肌に触れない距離までグレルの顔に体を寄せて、呼びかける。


結衣「これが見えますか? これは、熱を下げる薬なんです。カロナールって言います」


グレル「聞いたことがない……お前は薬師か」


結衣「だから、介護士ですってば。あやしい薬じゃないので安心してください。きっとこれで良くなりますから。口を開けてください」


結衣とカロナールを、半信半疑の目で交互に見つめるグレル。

まるっきり信用しているわけではない。しかし、抵抗しようにもその気力がないのか、諦めたような息を吐いてから口を開ける。


結衣「うわっ、すごい牙……」


グレル「はやくしてくれ」


結衣「はい。入れますよー、えいっ」


カロナールをグレルの口の中に放り込む。


結衣「唾で飲み込めますか? ごっくんって飲み込めました?」


グレル「ああ。大丈夫だ」


嚥下を確認し、ほっと肩をおろす結衣。その直後、洞窟の入り口の方から青年のような声が響いて聞こえる。


ラーツ(声のみ)「魔王はどこだあ? 出てこい! 俺と戦え!」


結衣「今度は誰の声?」

グレル「おそらく、勇者の声だろ。行かなくては……」

結衣「何言ってるんですか! 今薬を飲んだばかりなんですよっ。寝ていてください」

グレル「しかし、勇者と戦うのは俺の使命……」

結衣「体調が悪い人を起こすことはできませんっ。私が代わりに行ってきます」

グレル「あ、おい」


グレルの制止を無視して、結衣は颯爽と寝台から離れていく。

その後ろ姿を見つめながら、グレルは呟く。


グレル「何て強情な人間だ…だが、勇ましい」


ずんずん歩く結衣。しかし内心は、慌てふためいていた。


結衣<勢いで言っちゃったけど、何してるの私ー! ああっ、嫌な予感がする……>

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