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お礼参り

 


 収束光によって切り裂かれた牢獄は()()になっていて、その内側に入ると城本体を拝むことが出来た。全てが直方体の石材で構築され、角張ったその姿は、俺に子供の頃遊んだプラスチック製の知育ブロックを思い出させた。


「なるほどな、あれだけ騒いでも誰も駆けつけないのはこういうわけか」


「どうすンだ?」


「このまま横っ腹に風穴を開けるつもりで真っ直ぐ進む、出来るか?」


「お易い御用ッス!」


 ドロナックがまたぞろ強固な壁をくり抜くと、荒れ果てた部屋が陽光を浴びた。


「ご自慢のアコタイトはどうしたんだよ」そこらじゅうのガラクタを彫金魔法で腕に巻き付けていくサルに俺は言った。


「テメーが仕留めた野郎に取られちまッたよ」


「その足もか?」


「これは自分でやッた、あれを相手するのに金属製の義足なンか着けたままじャまともに動けねェからな」


 それは賢明な判断だったのだろう。武具は取り上げられるだけで済むが、義足を身につけていては磁力によって身体ごとコントロールされてしまう。


 どうしてサルがついていてこんな小悪党に遅れをとったのかと思っていたが、自発的に武器や機動力を捨ててしまったために自衛の手段無く捕まってしまったようだ。


「お、」ドロナックは自分で作り出した小窓の向こうを見て小さく声を上げた。


 それは城の中心に向かって三枚目の壁がくり抜かれた時だった。壁の向こう側に何人かが屯しているのが見えた。


「なっ、なんだあ!?」賊の一人が大声を上げる。


 素早い身のこなしでドロナックは正面の石壁を幾度も切りつけ、一瞬にして壁をぶち抜いた。


 壁の向こうは大部屋になっていて、どこからが盗んできたのであろう統一感の無い家具達が乱雑に置かれていた。


「随分風通しをよくしてくれちまったじゃねえか」右奥に見える階段に腰を下ろしている男がこちらを睨みつけていた。


 部屋には総勢十三名の男が屯していて、ほとんどが斬新な侵入者に対して動揺している様子だった。対照的に階段に腰を下ろしている男はどっしりと構えている。誰が見ても一目でこいつが統率者だとわかる。


「チッ……ジュラのやつ、牢屋番も出来ねえのか」頭領と思しき男は脇へ唾を吐き捨てた。


「ジュラって言うのか。そいつ、盗みから足を洗うってさ」


「あ?あいつがそんなこと言うわけねえだろう。俺達が居なきゃおまんまも食べられない出来損ないなんだからよォ」


「それなら尚更だな、この盗賊団はこれから壊滅するんだからな」


 盗賊達は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして一瞬黙り込んだあと、室内は爆笑の渦に見舞われた。


「ダーッハハハハハ!!こいつは可笑しいや、冗談のセンスあるぜあんた」


「こ、この……っ」なんだが言った自分が恥ずかしくなって言葉に窮した。


「俺にやらせろ。お礼がまだ済んでねェ」珍しくサルが自発的に先頭に立った。


「おうチビ、床の寝心地はどうだったよ?」


「上等だったよ、気ィ遣わせて悪かったなァ。お礼にテメーらをもっと寝心地のいい所へ連れてってやるよ。ベッドがあるし、便所もあるし、テメーらみたいな虫ケラが床を這い回ってるから話し相手にも難儀しねェ最高の場所だ」


「なんだと?」頭領のこめかみに血管が浮き上がる。


「全員でこい。群れねェと盗みすら出来ねェテメーらなンかに俺が負けるはずがねェ」


「おい、こいつにわからせろ」


 頭領の号令を聞き、団員達は立ち上がりエモノを抜いた。それを受けてサルは部屋の中央まで歩みを進めると、サルを中心に向かって円を描くように取り囲む盗賊達。


「ショウくん、アニキは大丈夫なんスか……?」ドロナックは心配そうな面持ちで俺に訊ねた。


「大丈夫だろ。大丈夫じゃなくなったとしても、俺がいるから大丈夫だ」


 闘いの火蓋を切ったのは盗賊の一人が持つサーベルだった。金属同士が衝突する鈍い音が室内に反響する。そこからは全方位から夥しい数の剣戟がサルへと襲いかかる。


「ち、錬成速度が遅い」


 未だに無傷を誇っているサルの胴回りには、先程拾い集めたガラクタの寄せ集めで作ったと見られる直径二メートルほどの金属製の円環が固定されている。


 攻撃を受けるたびに円環の一部が形状変化し、集中攻撃を弾き、いなし、受け止めていた。絶え間なく続く全方位からの攻撃と金属の衝突音はやがて疎らになり、ついに無くなった。


「くっ、こいつ俺達の武器を─────」丸腰になってしまった盗賊達の一人がこぼした。


 サルの腰周りに固定されていたはずの円環はいつしか太く逞しくなり、今となっては支持物を床に切り替えなければならないほどの質量を有していた。


「そんなに仲良くしたけりャ、こうしてやるよ」


 円環の直径は倍程になり、十二人二十四本全ての足首に巻き付き、それらを相互に接続した状態で固定した。


 最早口だけでしか攻撃を出来なくなってしまった十二人から様々な罵詈雑言が中心のサルに向けられる。


 円環の一部ががぷちんと千切れてU字型になると、開口部からサルは悠々とこちらへ戻ってくる。十二の口汚く罵る声を背中に浴びる彼の表情は、まるで礼賛を浴びる者がごとく清々しく見えた。


「へっ、これだから魔法を使えねえウスノロどもは嫌だ」頭領の男は座ったまま身体を宙に浮かせた。


「うお、浮いたッス!」ドロナックは目を輝かせた。


「それがテメーの魔法か」


「とっておきを見せてやる」と頭領は意気込んだ。


 頭領の男は膝を屈伸させ、正面のサル目掛けて鉄砲玉のように飛び出した。


 咄嗟に防御態勢を取るサル。しかし、男はサルの前を素通りした。


「じゃあな、お前ら」と言って頭領は空中を滑り、出入口の方へ逃げようとした。


 空中でくるりと向きを変えた瞬間、サルが投げつけた鎖が男の足首に鎖が巻き付いた。


「は、放しやがれっ!」


 鎖はたちまち足枷へと変貌を遂げ、サルはそれを素早く団員達の足首に繋がっている金属へ結合させた。


「ぐっ、このぉ……」頭領は必死に逃げようと空中でもがいていたが、やがて力無く地に落ちた。


「数的有利と見れば態度がでかくなって、不利と見れば尻尾を巻いてトンズラか。だから俺ァ群れる奴らが嫌いなンだ」サルは鼻を鳴らした。


「おお~!さすがアニキッス。しびれるッス。番号持ち(ホルダー)になってもおかしくないッスよ、まじで」とドロナックは賞賛を送った。


「バカ、買いかぶるな、俺ァ雑魚狩り専門だ」


 サルが彫金魔法に目覚めてからまだ幾許もない。しかし練度が見る度に向上しているように思える。ひょっとするとこいつはとんでもない天才なのかもしれない。



その時、不意に大きな爆発音と共に廃城が揺れ、天井からぱらぱらと埃が降ってきた。


「なっ、なんだ、今のは!」


間髪入れず同じような衝撃がもう一発。


「上だなァ、何かが打ち込まれてやがる。いや─────この音は……」サルは突如窓から外へ飛び出して行った。


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