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ブラック・ネスク

 

「ショウくーん!!」後ろの方から磁力に開放されたドロナックが走ってきた。


「頼む…起こしてくれ」俺は男の骸を抱えたままドロナックに頼んだ。


「ひえー、これが時魔法ッスか……一体何をしたんスか?暫くの間空中で暗器が止まっていたように見えたんスけど」俺を起こしながらドロナックは訊ねた。


「ああ、外からもそう見えるのか。俺が周囲の時を止めた」


「は?時って止めれるもんなんスか?」


「厳密に言うと止められない。だが一秒経過した後一秒巻き戻しを行えば、その時点から時は進んでないことになるだろ?」


「じゃああの暗器が空中で停止している間ずっとそれを繰り返してたんスか!?」


「そうだ、長時間止めすぎて身体が疲労で動かん…」


「それは巻き戻せないんスか?」


「もう試してるが、どうやらこれは対価のようなものらしくて、元に戻らない」


 恐らくはあまりに強大な力ゆえ、クレイグのやつが俺に与えた枷だろう。


「もう一個気になることがあるんスけど、なんでショウくんはアイツに近づいても反発が起きなかったんスか?」


「それは簡単な話だ。あの一瞬に限りこの男はどっちの極性の磁力も帯びていなかったからだよ」脇に転がる骨粉を見下ろして俺は答えた。


「なんでッス?」


「俺たち三人は同じ極性を付与されていたのは覚えているよな?」


「はいッス」


「その極性を仮にS極としよう。この男がとどめに放り投げた暗器には追尾性があった。つまりN極の磁気を付与されていたことになる。これを放り投げる時、男が先程までと変わらずS極を帯びていたらどうなる?」


「そりゃ暗器が手に張り付いて投げられ─────あっ、」


「そう、N極になれば俺と引き合うすることになるし、S極になれば暗器を放り投げられない。つまりあの一瞬だけは磁力を帯びていない状態でなければ辻褄が合わないんだ。そこを突いたってことさ」


「戦闘中によくそんなこと考えられるッスね……」


「ドロナックが観察する時間を与えてくれたおかげだよ。あー、それと、女の子を紹介する話は─────」


「もちろんなしッス」ドロナックは申し訳なさそうに笑みを創った。




 *

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「─────いらぬ混乱を招く恐れがあるからこのことは口外無用でな」キャメロンは全ての経緯を聞いてから言った。


 俺とドロナックは事態を大きく受け止め、一旦キャメロンを待ち合わせ場所に召喚した。


「ああ、わかった。誰か心当たりはあるか?」


「ない、というか……無数にあると言うべきか。時魔法の術者を放し飼いにすること自体ダルモア卿のお墨付きがなければ異を唱える者がほとんどだっただろうからな」


「まあ─────そりゃそうだよなあ」


「ショウくんって結構精神的に図太いッスよね。今、『大体の人間はショウくんの敵だ』って言われたようなもんなのに、なんでそんな平気な顔してられるんスか……」


「別に俺は、俺が敵に回したくない奴が敵にならなければそれでいい。ドロナックとキャメロンももちろんその中にいる」


「ショウくん……」仔犬のような目でドロナックは俺を見た。


「また青臭いことを……私は貴様の味方になんてなった覚えは無いからな」キャメロンは他所を向いて冷たく言った。


「『私だけは味方でいるからな』だそうッス」


「おかしな意訳をするな莫迦がっ!こんな話はもういい!貴様はこれからどうしたい?」とキャメロンは話をすり替えた。


「とりあえずサルとアソールが心配だ。一応ここで起きたことを知ってもらうためにわざわざ来てもらったけれど、俺とドロナックはここに残るよ」


「そうか、こちらも刺客を差し向けたのが誰か秘密裏に探ってみる。見たところ体調が優れないようだが、あまり無茶をするようなら強制的に連れ戻すから覚悟しておけよ」とキャメロンは釘を刺して目の前から消えた。



「聞いたッスか今の?ショウくんのことが心配で心配でしょうがないってカンジじゃないスか」ニヤニヤ顔でドロナックは言った。


「お前は言葉をポジティブにとらえる天才か……?」




 キャメロンが去った後、フォールドカークまで移動し、すぐに宿をとった。


 疲労困憊の俺はすぐに宿で休み、その間にドロナックはサルとアソールが街のどこかに潜んで居ないか探して回ってくれていた。やがて日が暮れて、ドロナックは宿へ帰ってきたが、なんの情報も得られなかったそうだ。


 しかし翌朝、宿を出る時に店主から意外なことを言われた。


 昨晩『探し物はブラック・ネスクにある』と俺達に言伝てを頼んだ人物が居たらしいのだ。


 この場合の探し物とはサルとアソールのことなのか、ブレアの事なのか、果たしてどちらか。状況から察するに恐らく前者だろうな。


「俺達がサルとアソールを探してることを知っているってことは、多分昨日の暗殺者の仲間と見るのが妥当だ。どう見ても罠だよなあ……ていうかブラック・ネスクって何なんだ?」


「ブラック・ネスクはここから東に向かって流れてる川の畔にある廃城ッス」


「城?」


「うーん。城っていうか、砦っていうか、昔ハイランドとローランドが戦争してた頃の名残りッスね」


「いかにも賊が溜まり場にしそうな場所だな……」


「行くんスか?」


「当たり前だろ、もしかするとあいつらが捕らえられてるかもしれないからな。罠だと分かってても行くしかない」


「くぅ~~~っ……!やっぱりショウくんは熱い漢ッスね!もちろん俺もついてくッスよ」


「巻き込んで悪いけど頼むよ」



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 静かな流れのネスク川の畔、幾つもの切り出した石によって組み上げられた黒い建造物の境界は、周囲に茂る木々の緑によってより際立って見えた。


 上流の山脈から亜鉛や鉛などが多く含まれる黒色の岩石が川の流れによって運ばれ、やがて川底に体積した。その潤沢な鉱物資源を利用して建てられたブラック・ネスクは南北戦争の要所としての役割を果たしていたらしい。


「思っていた以上に大きいな」聳え立つ黒い巨城を前にして俺は言った。


「川側には砲台が設置されていた跡とかもあるみたいッスよ」


「へえ、観光名所にでもすれば良かったのにな」


「老朽化が酷すぎてそれどころじゃないッスよ。ところで何か策はあるんスか?」


「そんな大層なものは無い。時にドロナックくん、君は岩を斬ることは出来るかね?」品定めをするように俺はドロナックに流し目をくれてやった。


「はい?ナメてんスか?」目尻を痙攣させながらドロナックはこちらを睨みつけた。

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