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捜索隊

 

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 翌日、応接室で待機していると三人の男が俺を訪ねてきた。


「─────マクリー、ムーア……」


 緊張からか喉が渇いて仕方がない。


「ご無沙汰しております、ショウ様」頭の左右に巻角を生やした竜人が挨拶をした。


「よくぞご無事で……」と立派な一角を額に持った竜人は俺を心配そうな眼差しで見た。


 そしてその二人のちょうど真ん中に、決して俺とは目を合わせない竜人も立っていた。


「族長様」ムーアは肘でアラドの脇腹を小突いた。


「わ、わかってる」とアラドは煩わしそうに返事をした。


 アラドは何か言い淀んでいる様子だったが、楽になりたかった俺は先に口を開いた。


「────ごめん、アラド」


「一体何がごめんなんだ?言っ……てえええッ!!」


 身体を捩らせて苦悶の表情を浮かべるアラドをよく見ると、両脇の竜人に脇腹をつねられていた。


「わかった、わかったよ、だからつねるな!俺だって悪かったと思っている」とアラドは俺に向かって言った。


 それを聞いたムーアは「族長、それじゃ謝罪したことになりません。里を束ねる者があんなに失礼なことをしておいて!」とアラドをさらに糾弾した。


「ショウ、お前からも何とか言ってくれ!昨日の晩、ここであったことをこいつら話したら、こんな調子で一晩中両側からこんこんとお説教だ」


「ぷっ…………あっはははは!!」可笑しくなって俺はつい笑ってしまった。


「何を笑ってる」


「まあ随分理不尽なことを言われたなあと思ったりもしたけど、身に染みたよ。俺自身が背負うべき責任がね」


「そうか………それにしてもお前ひでえ顔だな、誰にやられた」


「お前だよ、馬鹿」


「へへへっ……すまん」アラドは照れくさそうに笑った。




「あ゛ぁ!あ゛ぁ!あ゛ぁ~!青臭くてかなわん。もうそろそろ本題に入ってよいか?」仏頂面でキャメロンは話に割って入った。


 四名は一様に頷いた。


「出発は明朝、これから行動を共にする捜索隊と会ってもらう」とキャメロン。


 もうブレアが攫われてから幾日が経っただろうか。俺を誘き出すための人質として攫ったというなら生かされている可能性は高いが、一刻も早く助け出してやらなくては。


「明朝では不満か?貴様らの犬も食わんような陳腐なお芝居が無ければ、もう一日早く出発出来たのだけれどな」俺の表情から焦りの色を察知したのか、キャメロンは先回りして皮肉を言った。


本当にその通りでぐうの音も出なかった。



 この後すぐにキャメロンの導きによって俺たち四名は転移をした。


 転移先は中央に置かれた長方形のテーブルと、それを囲むように十数個の椅子が並べられた会議室だった。その椅子にはすでに二名の人間が腰掛けており、そのうち一人は中央議会で見覚えのある顔だった。


「紹介しよう、この男は今回の捜索隊を指揮するウィニー。冷却魔法の上位に位置する氷結魔法を操る四番目の国選魔導士。番号持ち(ホルダー)には私やホーマンのように戦闘向きでなかったり、防御に特化した能力も多いが、こやつは攻撃魔法に長けている。氷漬けにされたくなければ大人しく指示に従うんだな」とキャメロンは俺たちに釘を刺した。


 線が細く頬の痩けた黒髪の男は軽く会釈をして口を開いた。


「ブリッジ嬢、隊員を脅かすような物言いはやめて下さい。竜人の御三方、それからショウ君、作戦の間あなた方の生命を預かる隊長のウィニーと申します。短い間になりますが宜しくお願いしますよ」


 驚く程に丁寧な対応に、こちらも慌てて会釈で応じた。


「残りの隊員は私が紹介します──────」


 それから残った一人の女性隊員についてウィニーは簡単に紹介をし、こちらも一人一人身分を明かしていった。


「それじゃあ私はもうお役御免というわけだな」とキャメロン。


「てっきりキャメロンも捜索隊へ加わるのかと思っていたんだが、違うんだな」と俺は去り際の彼女に言った。


「馬鹿者。金庫と金庫の鍵を同じ場所に保管しておくようなことをするわけあるまい。ウィニーと私は押印魔法によっていつでも合図を送り合うことができるようにしておいた。こんな風にな」キャメロンは手の甲をこちらに見せた。


 キャメロンとウィニーの手の甲には赤十字の文様が浮かび上がった。俺とサルが自警団に入団した際に施されたものと同一の魔法ではないかと思われる。


「貴様が命令違反をした時は私に合図が送られる。その瞬間、貴様はまた監獄に逆戻りというわけだ」


「─────なるほどな」


 言われてみれば当然のことか。例えば俺がキャメロンと共に王都を離れ、何らかの方法で彼女を殺害したりすると、俺に着けられている首輪はその時点で効力を失い、時魔法という脅威が野に放たれてしまう。もちろんそんなことをするつもりはないが、俺を政府の管理下に置くためには必要な条件なのかもしれない。


「お役御免とはいえ、送り迎えくらいはしてやるから安心しろ」そう言ってキャメロンは姿を消した。




「─────さて、さっそくですが明朝から向かう捜索地についてお話しておきます」とウィニーは切り出した。


「ブレアの居場所がわかったと聞いたが、本当か?」アラドは前のめりになった。


「ええ、先程ご紹介したようにピティは索敵魔法を持っています」


「索敵魔法ってのは一体どういうものなんだ」


「ピティ、説明して差し上げられますか?」


「ハイ……え、と、索敵魔法は索敵対象の一部、人間だったら髪の毛や爪でもいいんですが、それを頼りに本体がどの方角にあるかを指し示すことができる魔法、です」と自信なさげに少し癖のついたミディアムヘアの女は説明した。


「そんな便利な魔法もあるのか…………ところでどうやってブレアの身体の一部を?」


「え、えーと、キャメロン様が毛髪を持ってきてくれました」ピティはもじもじしながら答えた。


「キャメロンが?ということはわざわざコットペルの自宅へ行ったのか。そうだ、サルやアソールは!?ピティさん、何か聞いていないか!?」


「わ、私は何も……」


「それには私がお答えしましょう。ブレア氏の妹君は事件の後に竜人の里へ送還されたそうです。もう一方(ひとかた)は知りませんが、あなた方が住処にしていた屋敷はもぬけの殻だったと聞いております」とウィニーは語った。


「そうか…………それで、話を戻すけれどブレアは一体どこに?」


「ブレアさんはここからずっと東にある"ローモンド湖"という湖に居るみたいです」とピティは教えてくれた。


「湖!?島だからてっきり海にあるのだとばかり思っていた。索敵魔法ってのはそんなに正確にわかるのか?」


「索敵魔法は自分自身の位置に対して、対象が居る方角までしかわかりません、こんな感じです」


 ピティが胸元で両掌を開くと半透明な球体が現れた。そしてその内側には二等辺三角形の指針があり、それは東の方角を指し示している。


「ローモンド湖は通年ほとんどの期間霧がかかっている湖で、中心には小さな島があるそうです。『霧の島』という通り名と指針が指し示す方角からローモンド湖を捜索地に仮決定し、ブリッジ嬢の御力を借りておこなった事前調査では、湖の周囲四箇所から索敵魔法を使い、いずれの場合も指針は湖の中心を指し示しました」とウィニー。


俺が牢にぶち込まれている間にキャメロンは次の行動に向けて先手を打っていたということになる。物言いは憎たらしい彼女だが、思えば何から何まで世話になりっぱなしだ。


「線が交わる場所か。それなら間違いないな」とアラドは頷いた。


 驚くべきことにトラッド政府は毛髪からこの短時間で捜索対象の位置を完全に特定してしまったということになる。


何かと地球で生きていた頃の技術とこちらの技術を比べがちになってしまうが、今回は後者に軍配が挙がったようだ。はっきり言って本気になったトラッド国の捜査力は、地球諸国のそれより数段上に思えた。



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