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望まぬ再会

 

「力づくで避難させなくて良かったのか?」サルは言った。


「本人の意思でここに残りたいって言うんなら仕方がない、無理やり避難させたところでそれは誘拐だ。それにあの男がやろうとしてる事は誰にでもできることじゃない」螺旋階段を一段ずつ降りながら俺は答えた。


「そうかい」


「これからどうするの?」アソールは俺に訊ねた。


「俺とサルはこれから市街地の戦闘を手助けして、シーズの殲滅にあたる。ブレアとアソールは悪いけれどこのフルール商会に留まってくれないか?」


「どうしてです!?私達もきっとショウ様のお力になれます」ブレアは不満をあらわにした。


「確かに君らは強い。でもそれは竜化の魔法を自由に使えればの話だ」


「そりゃーさ、そうだケド……」アソールは言葉に窮している様子だった。


「まァ、もし命が危険に曝されるぐらいなら飛竜化しちまえばいい。そうすりャここの連中も助かるし、テメーらを最後の砦に据えておく意味もあるだろ」サルは荷物の入った背嚢をその場に降ろして言った。


「おお!最後の砦!」アソールは嬉しそうに顔の前で掌を合わせた。


「そうではなくて、私はショウ様が無事戻られるか心配で……」ブレアは寂しそうに斜め下へ視線を落とした。


「ありがとう、ブレア。でも大丈夫、俺はそう簡単に死んだりしない。ハリス会長の護衛、大役だけれど引き受けてくれないか?」優しく諭すように俺は言った。


「そんな言い方をするのは卑怯です……お願いします、必ずここへ戻ってくると約束してください。私はまだまだショウ様に連れて行っていただきたい場所がたくさんあります……」祈るようにブレアは話した。


「ああ、わかった。約束しよう、必ず無事に戻るよ。逆に君達に手に負えないことがあったら例の竜人式の狼煙で伝えてくれ、必ず駆けつける」


アソールとブレアを連れていかない理由は単純に危険な目に合わせるわけにはいかないからというのが半分、もう半分は彼女達の目を逃れることで、どさくさに紛れて時魔法を使用出来るチャンスが生まれるかもしれないからだ。




 フルール商会に竜人の姉妹を残し外へ出ると、逃げ惑う人々の怒号やむせび泣く声であたりは騒然としていた。


「───さて、どうする」


「決まってる、まずは転移魔法ターミナルだ」俺は即答した。


 ずっと引っ掛かっていた。シーズの大群がキャンベルを襲ったことと、キャンベルへ転移できない状態に陥ったことはそもそも全く別の事柄だ。


 もちろんそれらを結び付けて考えることも可能だが、見たところ中枢区画へシーズが侵入した形跡はない。


むしろこのような場合、転移魔法ターミナルはこの都市の要人を安全な場所へ転送するために全力で稼働しなければならないはずではなかろうか。それが履行されない理由がきっとターミナルに行けば解るはずなのだ。


 四方八方に往来する人々の波を掻き分け、俺とサルは同じ中枢区域にある転移魔法ターミナルへ走った。


「───明かりが消えてる?」


 転移魔法ターミナル建屋に複数備え付けられている照明の発光石は全て光を失っており、上部の窓から零れる明かりもない。


「しかも内側から施錠されてンぞ」扉に手を掛けてサルは言った。


「従業員が逃げ出したか?いや、こんな緊急事態にそれはないな。そもそも逃げ出した転移魔法官がいるのならどこかの街に転移するはず……」


 少なくとも俺達をハイランド北部の街インパネスへ送り届けてくれた転移魔法官はインパネスのターミナルへ戻っていないのだから、キャンベルで彼に何かあったと見るのが妥当だ。


「サル、この扉を開けられるか?」


「ったく今日はコソ泥みてェな仕事が多いな」とサルはぼやいた。


 サルが扉に手をかざすと、観音開きの隙間から金属がサルのもとへ流れてくる。


「開いたぜ」


 密封されていたターミナルの扉が開き、仄暗い室内へ足を踏み入れた時、俺は何か柔らかいものに足を取られた。見えずとも、もうそれが何なのかはなんとなく理解していた。


 やがて俺の瞳孔が開いて室内の様子が鮮明に見え始めた頃、瞳孔が()()()()()になってしまった者達がそこらにいくつも転がっていた。


「なんて胸糞が悪いことをするんだ……サル、この状況をどう見る?」


「さァな。俺でも想像がつく範疇で言やァ、俺達をインパネスに転移させてくれた兄ちャんはすでに殺られちまってるだろうってことくらいだな」淡々とサルは言った。


「やはりお前もそう思うか」


 俺はポケットから発光石のペンライトを取り出し魔法力を込めると淡い光が辺りを照らし出し、目を見開いたまま力尽きた者たちの白目の部分が妖しく光を反射した。


「転移魔法官はここには居ないな、服装からするとどの死体もこのターミナルの従業員だ」


 淡い光に照らし出された亡骸達はどれも絶命しているのにも関わらず、身体に外的損傷が見受けられないことが不気味で仕方がなかった。俺とサルは建屋に入ってすぐの受付周辺を十分に調べ、転移室へ続く通路へと進む。



 するとそこにもひとつ亡骸があった。それも今度はローブを身に纏った者のだ。


「この人は……」


 ペンライトで照らし出された顔は今日の午前中、俺達を転移させた若い転移魔法官だった。


「チッ、やっぱりなァ」






「────おや、きちんと施錠したはずだったんだけれど」


 耳にまとわりつくような妖しい色気を含んだ声が通路に響き、俺の肌はたちまち粟立った。


 この声を知っている、忘れるものか。俺は屈めていた身体を起こし、衝動的に転移室の方へ走る。扉を乱暴に開くとその声の主はそこにいた。


「おやおやおやおや、ショウじゃないか!また会えて嬉しいよ」


 転移室の床へ目をやると、ローブを着た五人の亡骸が無惨にも転がっている。


 そして部屋の中心には漆黒の表皮と人間の肌を持つ人型の何かが胡座をかいている。龍涎浜で遭遇し、カリラを一撃で戦闘不能に追い込んだ謎の男が。


「せっかくまた会えたんだ、少しおしゃべ───────なーんだ、またお友達と一緒なんだ。妬いちゃうなあ」遅れて入室したサルを射すくめて謎の男は言った。


「あァ?なンだこいつは」サルは男の足元から頭のてっぺんまでを舐めるように見て言った。


「一応知り合いだ。今はっきりわかったけれど、やっぱりこいつは俺達にとって有害な存在だ」


 正体不明の脅威に対して俺が考える唯一の防衛策は関わらぬこと。龍涎浜の事件以来、この男が何者でどんな悪事を働こうとしているかは杳として知れなかったが、俺自身に火の粉が振りかからぬ限り放っておいてたとしても、俺の知ったことでは無いと既に自分の中で結論づけていた。


 だがしかし、火の粉どころの話ではない。喩えるならこいつは俺が育てようとしている作物を全滅させてしまう、疫病かあるいは蝗の大群のように厄介極まりない存在だ。


「なんだよ、つれないじゃないか。んー、こいつだとかあいつみたいな呼び方されるのも何だか寂しいし、そろそろ僕の名前を教えてあげる。『ロイグ』それが僕が与えられた名だよ」と男は名乗った。


「前に会った時は渋ったくせに随分と簡単に名前を明かすじゃないか。ロイグ、お前は一体なんの目的でこんなことをする」俺はロイグの宝石のような瞳を睨みつけた。


 彼の足元には棚から降ろしたと見られる複数の刻印柱(ピラァ)が乱雑に置かれている。恐らくこいつの目当ての品はこの刻印柱(ピラァ)とその持ち主の魔力と言ったところだろう。


「便利だよね、転移魔法ってさ。どこに居ても一瞬で家に帰れるんだよ?まあ僕の場合、定期的に転移魔法官とやらを殺さなきゃならないってのが少し面倒なんだけどね、アハハ!」ロイグは無邪気に笑った。


「なァ、何故この変態を叩き切っちまわねェんだ?」ロイグをまじまじと見つめてサルは俺に言った。


「そうしたいのは山々だが、話はそんなに簡単じゃない。どういうからくりか知らないが、こいつは他人の魔法力を吸い取って、自分の能力として使えるんだ。だから今俺が斬りかかったとしても一瞬でどこかへ転移されて逃げられる」


これは時魔法を使ったとしても結果は同じだ。時魔法は効果の及ぶ範囲に限度がある。ロイグには今、数十キロメートルを超えるの距離を一瞬で移動する手段がある以上、どうやっても攻撃を加えられない。


「流石だね~、ショウ。僕のことをもうそこまで理解してくれたんだね。嬉しいよ。嗚呼、やっぱり君の色は綺麗だ、惚れ惚れするよ」


相変わらずこの男とは正常に言葉のキャッチボールが出来る気がしない。


「シーズをこの街へ焚き付けたのもお前の仕業か?」


「違う違う、僕はそんな野蛮なことしないって。こうして君と会うのは二回目だけれど、僕は君から何も奪っちゃいないだろ?でも『ボウモア』のやつは僕みたいに甘くないから気をつけなよ。僕が平和主義者だとしたら、あいつはサディストだ」とロイグは語った。


これだけの人間を殺しておいて、平然と平和主義者を名乗れるこの男の思考回路が恐ろしい、明らかに破綻している。


「ボウモアだって?」


「今ここで暴れ回ってる化け物たちの飼い主さ。ショウ、こんなところで油を売っていて良いのかい?早くしないと人がいっぱい死ぬよ」ニタニタと笑いながらロイグは言った。


「そいつも黎明の三賢とかいうのの一人か?」


「嬉しいなあ、覚えていてくれたんだ。そう、そうだよ。ボウモアも僕と同じさ。ていうかショウ、君さあ、僕から情報を引き出そうとしてないかい?ついつい嬉しくって喋ってしまう僕も僕だけれど、流石にこれ以上ここに居ると余計なことまで喋ってしまいそうだから、そろそろお暇するよ。またね」


「おい待て、話は─────ちっ、クソ」


ロイグは通信を切ったみたいに一方的に目の前から消えて居なくなった。もちろん足元に置いてあった刻印柱(ピラァ)と共に。


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