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急襲の報せ

 

 植物大学を足早に後にしてすぐにキャンベルへ戻るべく四名は転移魔法ターミナルへ蜻蛉返りすることになった。


  初めて海へ連れてきた犬のような姉妹は、帰る時もやっぱりリードを引いてもその場から頑として動かない柴犬のように説得するのに苦労した。




「──────は?転移出来ない?」


「申し訳ございません。原因は分かりませんが、キャンベル行きの転移魔法官が戻っていないのです」と受付は言った。


 俺はキャンベルで転移を予約した時点で往復分を押さえてあり、一日でインパネスからキャンベルへ日帰りすることが可能なはずだった。


「他の都市を経由してキャンベルへ戻ることは出来ないのでしょうか?」受付の女性にブレアは訊ねた。


「残念ながら全ての都市からキャンベルへ転移できないとの報告を受けております。何か障害が……」そう語る受付の女性は狼狽えの色を隠せなかった。


「また足止め~っ!なんかついてないッスね~」アソールは頭の後ろで手を組んで言った。


 何か胸騒ぎがする。キャンベルへの転移が全都市から行えないというのはあまりにも変な話だ。


「それじゃ──────キャンベルに最も近い都市への転移はどうだろう?」俺は受付に訊ねた。


「それでしたら、数枠空きがありますが」


「おいおい大将、いくら早くアイラへ行きたいからって何もそこまで焦らなくてもいいじゃねェか」サルは俺の肩を掴んだ。


「違うんだ、何か嫌な感じがする。一番近い場所だと、どこへの転移になる?」受付の女性に視線を移して俺は訊ねた。


「ラナークです。キャンベルまでは定期便が出ていますのでそちらをご利用になってください」と彼女は言った。


「わかった、そっちに切り替えてくれ」


「かしこまりました」


 竜人姉妹の方へ視線を向けると、彼女達は『わかった』とでも言うように頷いた。


 その数十分後、ラナーク行きの枠に飛び込み、俺達四人はまた転移室の敷居を跨いだ。


 ────転移魔法の発動によって景色が切り替わる。


「うおあッ!?」思わず俺は身を退けた。


 口づけでも交わそうかという距離に若い男が現れたのだ。


 否、現れたのは俺達の方だったのだろうが。


「驚かせて申し訳ありません!転移魔法官の方に伝達があります!!」転移ターミナルのスタッフと思われる若い男は血相を変えて訴えた。


「どうかしましたか?」ラナーク行きの転移魔法官は彼に訊ねた。


「王都から直接指令が出ています、今すぐ()()()への参加を!」と男は求めた。


 転移魔法官の男は訴えに応じ、転移室を出ていった。何やらただならぬ事が起きているのは自明だった。


「あなた方はどこからの渡航者ですか?」男性スタッフは今度はこちらへ問いかけた。


「俺達はインパネスからキャンベルへ戻ろうとしたが転移出来ないと言われて最寄りのここへ」俺は手短に説明した。


「そうでしたか!現在キャンベルがシーズの襲撃を受けて相互に転移が出来ない状態になっています!ですので、定期便は運行を取りやめていますし、とにかくキャンベルへ向かうのは避けてください」


「はっ!?キャンベルが!?」とアソール。


「ほんの数時間前に私達がいた場所がシーズに……一体どうなっているのでしょう?」ブレアは口を覆った。


「しかしよォ、キャンベルにも自警団の連中が居るだろ。一匹や二匹奴らが入り込ンだところですぐに殲滅されンだろ」とサルは指摘する。


「それが、逃げ延びた転移魔法官によれば、突然シーズの大群が現れて街を滅茶苦茶に………自警団の方々も応戦しているようですが数が多すぎて対応に追われているそうです」と転移ターミナルのスタッフは恐れ慄いた。


「キャンベル自警団の規模はコットペルの比じゃねェ。それをもってしても対応しきれねェってのか」


「わかった、教えてくれてありがとう」俺は男性スタッフに礼を言った。


  壁に描かれている地図を頼りに現在位置を確認すると、俺は三人にターミナルの外へ出るように促した。


 ターミナル出入口の扉を開き、空を見上げると太陽はまだ頭上に光り輝いていた。


「─────これから俺はとんでもなく利己的なことを言うが、聞いてくれるか?」と俺は前置きをした。


「ケッ、分かりきったことだな」サルはうんざりした様子で答えた。


「行くのでしょう、キャンベルへ」闘志を宿したブレアの瞳がこちらを見ていた。


「ああ。ハリス会長に死なれては俺の野望が遠のく。せっかく出来た道筋だ、失うわけには行かない」しかつめらしい顔つきで俺は最低のことを言った。


『キャンベルの民の安否が気に掛る』だとか『あの美しい都市を護らねば』というなら大義名分も立とう。しかし、俺が要点を置いているのはそこでは無い。


 キャンベルという商業都市も、そこの商業を治めているハリスという人間も、()()()()の為には必要なものだからそこへ行くんだ。


 これらはやっと掴みかけた野望に掛かる梯子だと言ってもいい。



「カハハハハハ!テメーはやっぱ悪党だよ。根ッから()()()だ」サルは嬉しそうに高笑いした。


 俺とサルは羽織っていたローブを脱いで背嚢へしまった。


「いいよ、行こう。あたしが乗せてくよ。おねーちゃんよりは少しだけ早く飛べるからっ」アソールが珍しく真面目腐った表情で表明した。


 四名はラナークという未踏の街を見聞もせずに、飛び出して行く。


  やがて街から離れ、人気のない街道でアソールは飛龍化の魔法を使った。


 平素ならば周囲に人が居ないとは言え、このような見通しのいい場所での変身はすべきでない。しかし今は一刻を争う事態だ、そうも言っていられない。


 残った三名はアソールの背に飛び乗ると、彼女は青白く美しい翼を羽ばたかせ飛翔した。


 《飛ばすからしっかり捕まっててねっ!》


 そう告げるとアソールはいつもの高度よりも高く舞い上がった。翼を鋭角に保って空気抵抗を減らし、風をきって自由落下の如く彼女は滑空した。


 空気の塊が絶えずぶつかってきて後方へ引き剥がされてしまいそうになる。あまつさえ酸欠に陥りそうなほど薄い空気が俺とサルの意識を刈り取って行く。


 朦朧とする意識の中、俺とサルを抱える者が居ることに気がつく。それは一番後方に搭乗したブレアだった。


 彼女は身体の一部、今回は肩から下だけを堅牢な龍の腕に変貌させ、俺とサルを抱き抱えるようにアソールの背中へ押さえつけて強烈な空気の奔流から護っていた。


 《ショウ様、サル様、お気を確かにっ!アソール、もう少し低いところを飛べないのですか!?このままではお二人が骸になってしまいますっ!》とブレアは妹に警告した。


 《まじ?ごめん、張り切りすぎたかも》そう言って飛龍は高度と飛行速度を少し落とした。


「うぐっ……俺は乗り物は平気なはずなんだけどな……」


「そういう問題じャねェだろこれは」



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