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定期会合

 


 竜人の里へ戻るまでの間にカリラと俺は相談して、浜辺で起きたことは団長の耳に入れるまでは秘匿すると決めた。せっかく人間と竜人が手を取り合おうとしているのに、別の問題を提起することはノイズになりかねない。


 初めて見知った者以外に俺が禁術使いであることが露見してしまったわけだが、あの怪人が人間社会で生活しているとは思えないため、情報が漏れることは無いと判断した。


 里へ戻ると、大量のリュウゼンを持ち帰ったのを見てアラドは本当に驚いていた。当然所在をしつこく訊ねられたが『小さな汽水湖の周辺に少しだけ自生していた』などと根も葉もないことを言って適当に誤魔化した。


 翌朝、アラドがリュウゼンの実を持ってシマキを訪ね、酒造りの工程を見学させて欲しいと再交渉すると案外すんなりと受け入れてもらえたそうだ。もちろん俺も含めて。


 しかしリュウゼンの脱穀やカビ蔵の再建、培養を含めるとしばらく時間が掛かるとの連絡を受け、こちらもそれを承諾して気長に待つことになった。




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 ────この日、一羽の鳩が嬉しい報せを運んできた。


 龍鶴会合締結の日以来、コットペルと竜人の里を定期的に往来する伝書鳩。この鳩のお陰で両者は相互に連絡を取ることができるようになっていた。


 コットペルでは大使と秘書官の二人が町民に愛されているとの報告が随分前に舞い込んできたし、カリラのパワープレイによって水源の回復は一朝一夕にして成ったことや、コットペルと里を結ぶ街道の整備へ着手したことなどは全てコットペル側へ伝わっている。


 今日の報せは"定期会合"という名の袈裟を着た"大宴会"開催の報である。


「よし、準備はいいか?」とアラドは鼻息荒く言った。


「応ッ!」


「ねぇなんでショウまで行っちゃうの!」少女は俺の右足にしがみついた。


「明日には帰ってくるから大丈夫だよ、アルム」俺はそっと彼女の頭の上に掌を置いた。


「べつのおんなのところにいくんでしょっ!!」とアルムは俺を睨みつけた。


「お前……どこでそんなこと覚えたんだよ……」


 お見送りに来てくれているカイルが冷たい笑みを浮かべているのを見つけてしまい、ゆっくりと俺は視線を他所へ移した。


「こ、こら!アルム、昨日の夜さんざん話しただろう」とアラドは娘を窘めた。


 聞くに、定期会合について行くと言い出して、昨晩アルムが泣き疲れて眠るまでこの父子の間で相当な舌戦が繰り広げられたらしい。


 コットペルへ向かう人員は俺とカリラはもちろん、街道整備に尽力してくれた四名の若い竜人、里近郊で寝泊まりしているコットペルの土木建築技師五名にアラドを加えた計十二名で向かう運びとなった。


 厳密に言うと()()()なのだが、最後の一名はUターンして里へ戻る手筈になっている。


 初回の会合に出席したコットペル側の土木建築技師の兄弟と、竜人のマクリーとムーアは、労いと交流の念を込めて他の人員を推薦し里へ残ると口を揃えたという。





「─────さ、乗せてくれるんだろ?アルム」


 昨晩の凄まじい舌戦の末、コットペルまで俺だけを背に乗せて運ぶ役を与えることでアルムを妥結させたらしかった。


「…………なでなで」膨れっ面でアルムは要求した。


 どうやら料金は前払いらしい。


「はいはい」俺は手馴れた手つきで彼女の髪を撫でてやった。


 こうしていつかのようにベンネ・ヴィルス山脈を空から越え、真っ直ぐ西へ向かって出発した。前回訪里する際に集合場所として使われた、コットペル近郊の丘は"龍鶴の丘"と名付けられ、今回も発着地点の役割を果たした。




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 会合もとい宴会はペルズブラッド所有の建物で行われるようだ。それは豪勢な装飾が施された石造りの建造物で、立派な観音開きの扉を開けると内側は広大な大広間になっている。


 中心を横切るように置かれた巨大な長机の最奥には、コットペル駐在の大使と秘書官やフィディック自警団長をはじめとする十数人が既に腰掛けていたが、そこで俺は意外な人物を目にした。



「─────へへへ。よォ、相棒」


 飄々としていて、痩せていて、猫背で、ワオキツネザルみたいな顔で、前科十一犯の男がそこに座っていた。


「サル!?なんであんたがこんなところに!?」


 それも座っている位置が少々おかしい。末席の方に申し訳なさそうに腰掛けているならまだしも、サルはアソールとブレアの間の席に腰を掛けている。


「なンつうか、成り行きでなァ……」と語るサルの眼は少しだけ虚ろだった。


「ショウさーん、おっひさー!」いつかのようにアソールはこちらにひらひらと手を振っている。


 アソールに手を振り返しつつ、面子を確認すると幾らか顔だけ知っているような男女も混じっていた。恐らく自警団の連中だろう。


「御足労感謝します、お掛けください」団長は椅子から立ち上がって言った。


 全員が席に着いたことを確認し、粛々と定期会合は始められた。定期連絡では不足していた詳細な現状報告や課題、これからの展望が話し合われた。


 正直な話、この一件は企てた俺の手をとっくに離れてしまっている。


 会合で俺が発言を求められることなどほとんど無いし、会合の内容も話半分にしか聞いていない。というか、耳を傾けていても専門的な用語ばかりで理解が及ばないのだ。


 それは竜人側の親善大使と秘書官も同じようで、アソールなどは会合中に欠伸を噛み殺し損ねてブレアに睨まれていた。






「─────以上で第一回の定期会合を終了する。この場を提供して頂いたコットペル酒造から、麦酒を振舞いたいとの申し出があったので、皆様是非楽しんで頂けたらと存じます」とフィディックは締めくくった。


 否、俺にとっての本番はこれからだ。

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