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待ち合わせ

 

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 会合の予定日、俺たちはコットペルから数キロメートル離れた場所にある小高い岡の上に向かった。


 選抜されたメンバーは団長とその秘書官であるデール、親善大使に任命された自分とその秘書官であるカリラ、それに加えて土木分野の専門家と思しき男性が二人、計六名だった。


「な、なあ、団長さんよ、竜人と会うってのに護衛は無くて大丈夫なんですかい?」土木技師の男のうち一人が言った。


「竜人が本気になれば我々など護衛がいたところで簡単に鏖殺されてしまう。ならばなるべく少人数で敵意や警戒が無いことを示した方がいい、失礼の無いようにな。もっとも彼らを前に粗相を働く勇気があればの話だがね」とフィディックは説明した。


 定刻を迎えた東の空には五つの小さな点が見えた。


「────団長、もしかして指定地点がこんな場所なのは……」


「ああ、彼らが()()()()()()()()らしい」


 五つの点はみるみるうちに鮮明に、そして大きくなっていった。


 そこから数分後の景色は壮観としか言えなかった。白銀が一つ、藍色が二つ、深緑が一つ、焦茶が一つ、合計五つの巨大な飛龍が飛来し、頭上で旋回を始めたのだ。


 もし彼らが敵意を持つ存在なのだとしたら、この場から逃げ出すことすら諦めてしまいそうな光景だった。


 トラッド国の中枢の連中が何故こうも簡単に竜人族の求めに応じたのか気にかかっていたが、これを見せられては納得せざるを得ない。この飛龍が二十や三十、徒党を組んで市井を襲撃したとすると、我々は成す術もなく蹂躙されるに違いないからだ。


 それから彼らは一人ずつ上空で人型の姿へ変わって、背中に小さな翼を拵えて羽ばたきながらゆっくりと地面へ降りてきた。


「あんなこともできるのか……」





「自警団団長殿、定刻に遅れてしまって済まない……私が族長のアラドだ」五名揃ってから族長は言った。


 真ん中のアラドが第一声を発してお辞儀をすると、他の四名も一様に頭を下げた。こちらも慌てて全員深々と頭を下げて応じる。


「いやいや、お気になさらず。こちらこそ手厚いお出迎え感激の至り。早速ではございますが、こちらの者達を紹介させていただいてもよろしいでしょうか?」とフィディックは提案した。


「もちろんだ、よろしく頼む」とアラドは返事をした。


 俺と目が合ったアラドはにこっと笑ってくれた。


「まずは、私がコットペル自警団の責任者、フィディックと申します。先日は団員にお力添えを賜りまして有難く存じます、代表してお礼申し上げます」と再び深々とフィディックは礼をした。


「こちらこそ愛娘を助けて頂いた恩、決して忘れはしない」とアラドは応じる。


「ご存知とは思いますが、こちらが私の副官であるデール、そしてその向こうが親善大使のショウでございます。その向こうが大使秘書官のカリラ、残った二人の男は我が街随一の土木技師の兄弟で、こちらから順にカールとルイスと申します」とフィディックは紹介した。


「なるほど、心得た。ではこちらも手短に。こちら側の二人の男はマクリーとムーア、彼らは里の技術者だ。今回の共同事業で人間の技術を盗めると息巻いていたようだから、色々と教えてやって欲しい」とアラドは冗談めかして言った。


 マクリーはドリルのような円錐を型どった一本角の竜人で、ムーアは左右の()から一本ずつ巻角が生えた竜人だった。


「─────それから、この二人はそちらで預かって頂く親善大使とその秘書官でブレアとアソールという姉妹だ、不束者だが宜しく頼む」とアラドは言った。


 すると彼女たちは軽くこちらへ会釈した。


 ブレアの方は蒼みがかったセンターパートの長髪の女性で、分け目のあたりから比較的控えめな角が一本だけちょこんと生えていた。眼差しは優しく、ロングスカートの上で組んだ手から気品が感じられた。


 角の位置や形は同じだが、アソールの方は髪を後ろへ結わえている。表情筋がよく動いて活発な印象を受けるし、着衣もブレアとは違い、地球で言うところの"ホットパンツ"にそっくりなものを履いていて健康的な生足を晒していた。


 二人とも本当に綺麗な女性だった。これからしばらく暮らすことになる竜人の里に、彼女たちは居ないのだと思うと少しがっかりしている自分がいた。


 でもいいんだ。竜人の里には両思いの女がいる。それもとびきり可愛いやつだ。




「ひとしきり挨拶も済んだところで、そろそろどうか」とアラドは切り出した。


「ええ。それでは、お願いしても宜しいでしょうか?」とフィディックは答えた。



「よし、お前ら─────」アラドが号令を掛けるところだった。


「おにーさーん!こっちこっち、あたしが乗してくよっ」アソールがこちらに向かってひらひらと手を振っていた。


「アソール!はしたない真似はやめなさいっ」隣のブレアが彼女を窘める。


 額に手を宛ててため息をつくアラド。


 ぐるりと辺りの人間たちの顔色を窺い、誰も何も言わないのを確認して俺はアソールの元へ歩いていった。


「ええと、乗せてくれるのか?」


 相変わらず後遺症は治っていない。


「もち!ちっと待ってて!」とアソール。


 アソールが目を閉じると彼女の身体は光に包まれ、再び巨大な蒼飛龍に変貌した。


「うおあっ!?」


 彼女は前脚の爪で器用に俺の首の裏の生地を摘むと、軽々と持ち上げて首の根に乗せた。こっちの首は絞まって死ぬかと思ったが。


 そのまま彼女は翼で風を掴み、ふわりふわりと高度を上げていった。

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