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禁足地

 

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 結局、俺たち四人はアルムの誘いに乗ることにして、山脈内部を貫通するように掘られた洞穴を下っているところだ。


「さっき聞いた時からずっと気になっているんだが、人が竜人を生み出したってのはどういうことなんだ」と俺は前を歩くデールに耳打ちした。


「戦時中に、ローランドは魔導科学で強力な兵士を生み出す研究をしていたんです。そして、幾人かの兵士を生み出すことに成功したけれど、実戦に投入する前に終戦してしまったんです……」とデールは小声で簡潔に説明してくれた。


 大戦の為に生み出されたのにも関わらず、日を見ることなく歴史に埋もれていった遺物。そんな印象だった。そこから人と竜人の間にどんなことが起こったかは想像に難くない。


「アルム、どうして君は洞穴に来たんだ?」


「さっきの()()()()()が里を襲って、やり返しに……」と先頭を歩くアルムは答えづらそうに言った。


「それじゃアルムさんの里の方達は─────」


「ううん、里のみんなはぜんぜん大丈夫。強いから!でもお家が壊されちゃったりするのはヤダな」


 彼女の口ぶりからすると竜人には特別優れた戦闘技能が備わっていることが窺える。防衛・撃退することは出来ても倒すことは出来なかったということだろうか。


「足場が緩くなってきたね~」ダフトが足元のぬかるみを踏みしめながら言った。


 自警団メンバーが通ってきた穴と違い、この横穴は泥土の流出によって残留した土が出口へ近づくにつれ散見されるようになってきた。


「あ!出口だよっ!」とアルムは告げる。


 洞穴から抜けると、陽光が降り注ぐ外界へ戻れるかと思えばそうではなかった。すっかりと日は暮れていて、まるで時間を吹き飛ばされたような気分を味わった。


「ちょっと待ってね」アルムは俺たちにそう告げ、その場で夜空へ向けて大口を開けたかと思ったら、彼女の口から細長い火柱が天に向けて立ち昇った。


 彼女が上げた火柱によって一瞬だけ辺りが明るく照らされ、一つだけわかったことがある。てっきり俺はこの洞穴から少し歩いたところに小規模な集落があるものとばかり思っていたが、土砂まみれで倒壊した家屋たちが、今俺たちが佇んでいる位置がその集落であることを主張していた。


 ほどなくして東の方から一筋、同じような光が天を衝いた。


「あっ!迎えに来てくれるみたい」とアルム。


 察するにこれは竜人族の間で使用される"合図"なのだろう。


「そういえば俺たち人間は、竜人族にどう思われているんだ?」とデールに訊ねた。


「それは当然─────」


 デールが何かを言いかけたところで、赤色の光球がふたつこちらへ向かってくる。


「えっ」


 アルムの呆気にとられた反応を見たサルは、俺とデールの前へ躍り出て、練成した金属盾でその()()を防いだ。


「卑劣な……その子から離れろッ!!」(いかめ)しい声が響いた。


 竜人族と思われるその声の主は、すぐに薄暗い闇の中から姿を現し、少し離れた場所で立ち止まった。彼はアルムとは違い、角が額に二本生えていた。


「違うのっ、()()()()!このニンゲン達はあたしを助けてくれたんだよっ!!」とアルムは説明した。


「助けるだと?あの悪鬼に取り憑かれた種族が?莫迦なことを言うんじゃない。なにか企んで居るに決まっている。アルム、いい子だからこっちへ来なさい」と銀髪の男は娘を窘めた。


 デールが語るまでもなく彼らにとって人間は害悪でしか無いのだと理解した。


 同時に、このような環境で育ったのにも関わらず自分達人間を気遣ってくれたアルムの心根にジーンと胸が熱くもなった。


「ショウ達は里をめちゃくちゃにした()()()()()を倒してくれたんだよ!?それを聞いてもまだアッキだとか言うんだったら、あたしこの人達についてっちゃうからね!里の恩人なんだからきちんとおもてなししてあげて。いいでしょ?」


「何!?あの厄介者を……うぐぐぐぐ」やがて男はくの字に項垂れ、観念したようだった。


 男はくるりと向きを変え「ついてこい」と短く発して歩き出した。


「ごめんね、みんな」アルムは申し訳なさそうに言った。


 デールとダフトは半ば諦めていたのか、受け入れて貰えることに驚愕の色を隠せず、互いに顔を見合わせていた。


 男の導きで木造の家屋に案内された自警団の四名は、そのうちのひとつの部屋で待たされることになった。


 床には乾燥させた草で編んだラグが敷かれていて、中央には木製の丸い机が置いてあった。日本の居間のような雰囲気に俺は少しだけ懐かしさを感じた。


 やがて、三人の竜人族が部屋へ入ってきた。


 一人はアルム、もう一人は先程の男性、そして最後の一人は黒髪の綺麗な女性で、彼女もまた額にアルムと同じような角が一本だけ生えていた。


「────先程は無礼な振る舞いをしてしまって申し訳なかった。娘を助けてくれて感謝する」男は先程とはうってかわって丁寧な口調でそう言い、三人同時に頭を下げた。


 アルムに口を酸っぱくして言われたのだろうと推測しながら、こちらも全員一様に会釈で応じた。


 明るい場所で改めて見てみると、この二人がアルムの両親だということは明らかだった。目鼻立ち、角の形状、虹彩の色は母親そっくりで、美しい銀髪は父親譲りらしい。両親の特徴がちゃんとアルムに表れている。


「さっき聞いちゃったんだけどね、ショウたちはあたしたちと会っちゃいけないって言われてるみたいなの。このまま戻るとやばいんだって。タイザイニン?だったかな。よくわかんない」とアルム。


「申し遅れたが、私はこの里の長をしているアラドという者だ」


「おっ、長あ!?」不覚にも口をついた。


 まさかアルムが竜人族の長の娘だったとは驚きだ。


「こちらは妻のカイル」


 黒髪の女性は再びこちらへ向けて会釈をした。


「まず訊いておきたいのだが、どうしてこの山へ?」とアラドはこちらへ訊ねた。


 デールは嘘偽りなく、ことの起こりから説明した。


「なるほど、竜人族と接触する為にここを訪れたわけでもなかったか。我々もあのシーズと、度々起こるようになった洪水に手を焼いているところだ」とアラドは納得している様子だった。


 それから今日は族長宅に宿泊させてもらえることになった。俺にとっては娘を助けた客に対しては妥当なもてなしかと思ったが、それ以外の三名はアラド族長がこれを切り出した時、驚きのあまり目を丸くして固まっていた。


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