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銀髪翠眼の少女

 



 サルがデール副官にした提案はこうだった。


 まず自分が山肌を伝って一人で洞穴に近づき、アコタイト球の質量を一部使用して彫金魔法で杭のように変化させ、洞穴壁面に突き刺して固定する。


 杭を突き立てた状態から、さらに彫金魔法で先端を枝のように変形させて岩石へ食い込ませることで、壁面へ強固に固定することが出来るはずだと主張した。


 次に、残ったアコタイトの質量を使ってフックとワイヤーロープを練成し、それを杭へ引っかけてゆっくりと下降していき、内部の様子を見てくるというのだ。


 そして、驚いたことにデールはこれを承諾した。後になって考えてみれば、この情報をコットペルに持ち帰ったとしてもサル以上に安全にこの仕事をこなせる人員がいないという判断からかもしれない。


「そンじゃあちょっくら見てくるぜ」


 サルは特に緊張した雰囲気もなく山肌を滑り降りると、身軽さを活かしてあっという間に洞穴の淵まで到達した。


「軽業師みたいな身のこなしですね……」


 滑落の恐怖など微塵も感じさせない手際でサルは洞穴の内壁に杭を打ち付け、ちょうど忍者のクナイのように頭の部分をリング状に変化させた。


 こちらへ向けて右手を挙げて合図をした後、彼はリングにフックを掛けてゆっくりと洞穴の中へ入っていった。


 俺を含め三人が不安を抱えて見守る中、サルは案外すぐに洞穴から顔を出した。


 サルはこちらに戻る際に、支持物となる支柱を幾つか山肌に突き立て、さらにその間をワイヤーロープで結んで戻ってきた。


「問題ねえ。中は緩やかに傾斜してる平坦な道だ」と帰ってきたサルは報告した。


「彫金魔法って宝石店の方が使うような魔法でしょう?こんな使い方をするのは初めて見ました」デールは感嘆を含んだ声で言った。


「サルくんは魔法の使い方が上手いねえ~」とダフトは褒め讃えた。


「へっ。少しは見直してくれたかい、副官さんよ」


「ま、まあ少しは」


「サル、先の方はどうなってるんだ」


「奥の方まではまだどうなってるかわからねェが、途中で縦穴になってりゃ撤退すりゃいいだろ。それより、おもしれぇモンが見られるぜ」


「面白いもの?」


「行きャわかる」


 こうして俺たちはサルが張ってくれた命綱を頼りに山肌に口を開けた洞穴へ入って行った。






 ダフトがバックパックから発光石のランタンを取り出すと、ぼんやりとしたオレンジ色の明かりが壁面を照らした。


「─────この横穴、自然物じゃないな」


「なんなの、この()()()()は……」デールは言葉を選びかねている様子だった。


 洞穴の内側はサルが言った通り、緩やかに地下へ向かって傾斜していた。しかし最も特筆すべきことはその形状だった。


 外側から見た時は分からなかったが、この洞穴は()()()()()()()。偶発的にできた空間なのだとしたらもっと歪な形状をしているべきだ。


「どう見るよ、相棒」


「……わからない」




「あ、広いよ~!」先頭を行くダフトが言った。


 ダフトの向こう側には広い空間が広がっていて、発光石の光をキラキラと反射する水面も見える。


 全く陽光が差し込まぬ空間をくまなく調べるためにはランタンだけでは心許ない。デールはバックパックから占い師が使う水晶玉程の大きさの発光石を取り出し、彼女が魔力を込めると空洞内部を白く眩い光が照らした。


 なるべく高い位置から洞穴内部を照らした方が、より広範囲に明かりが広がるため、デールはサルにフレームを作らせて、杭を打った時と同じ要領で壁面にそれを設置させ、その内側に発光石を収めた。


 全く便利な奴だと思った。それはデールも同じだろう。


 即席の照明設備によってより輪郭を確かにした空間は六割ほど地下水でおおわれていることがわかり、ところどころ灰色の岩石混じりの地面が露出していた。


「これが地底湖かあ」などと我ながら惚けたことを呟いた。


「いいえ、これはただの水溜まりで湖ではありません。それより、あれを見てください」とデールは正面の()を指さした。


「あ……もう一個……」


 俺たちが入ってきた穴とは別に、もう1つどこかへ通じているであろう穴が正面に口を開けている。


「この空間は恐らく水と鉱物と泥土が混じりあった粘土質で満たされていたはずです。それが正面に見える穴から、山脈の()()()へ雨水と共に漏れ出してしまったのでしょう」とデールは早口で説明した。


 彼女の言うことが真実なら、分水嶺を境に山脈の表と裏できっちり二分されるはずの水源がそこの穴を通って通常よりも多く反対側へ流れ出て行ってしまうということだ。


 トンネル工事などで水脈の流れが変わって水源が枯渇する恐れがあるという話は、生前に一時期ワイドショーで話題になっていたのでよく覚えている。


「反対側かあ。ちょっと面倒かもしれないね~」と言ってダフトは後頭部を搔いた。


「反対側には何があるんだ?」と俺はデールに訊ねた。


「それはここを出てから説明します。はっきり原因がわかった上で、私達にはどうしようも無いことが分かりました。嫌な予感がします、すぐに引き返しましょう」


「ケッ、()()()絡みかよ」とサルは呟いた。


 四人が踵を返そうとしたその時、何か微かに音が聞こえてきた。


「足音か!?これ」


 ぬかるみを踏むような音がこちらへ近づいてくる。そして、その正体はやがて正面の穴から正体を現した。




「ウワッ、にっ、ニンゲン!!」その少女は美しい銀の髪と服を泥で汚し、走り疲れて肩で息をしていた。


 幼さを残した顔立ちと綺麗な緑色の瞳が印象的だった。ただし彼女の言葉が示すとおり、自分たちとは明らかに違う特徴も持ち合わせていて、俺の目はそこへ釘付けになった。




「────あれは………………ツノ?」



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