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バレット・ラビット

 

 最後の角を曲がる直前、二つの衝撃音と煉瓦が崩れる音を俺の聴覚は受容した。角を曲がると、相対するような位置関係で大きな土埃が上がっていた。


 周辺は瓦礫にまみれて殆ど市街地としての原型は留めておらず、艦砲射撃でも受けたのかと思うほどの破壊があった。よく観察すると、周りの建造物にはぽっかりと円形の大きな穴が幾つも開いていたのだが、何故か研究所は全くと言っていいほど無傷のまま残っていた。


 護る者がいた証拠であると俺は確証のないまま確信する。


「────カラノモリ様!」その声の主はデイブだった。


「おお、デイブ!無事だったか!」


「早く、ブレアさんをっ!そっちの瓦礫の中です!」デイブは向かって右手の土煙を指さした。


「ブレアッ!」俺は急いで土煙と瓦礫の中へ飛び込む。


 すると、ボロボロになって分かりにくいが、検査で着せられていたと見られる病衣の腹を手で押さえて横たわっていた。


「─────ショウ様……っ………手応え、ありましたっ」ブレアは息も絶え絶えになって握り固めた拳を少しだけ上げた。


 彼女を抱き抱え、息があることを確かめられたことで、安堵が鼻腔を通って大気に混じった。それから俺は彼女を研究所の入口あたりまで運んでやった。


「一体何があった……」


 やがて土煙は晴れ、ブレアが横たわっていた瓦礫と反対側で力尽きている者の存在が顕になる。


「こいつは─────ウサギか?可哀想に。デイブ、一体何があった?見てたんだろう?」


 瓦礫の破壊の中心には白くて柔らかそうな毛並みの小さなウサギが力無く横たわっているだけだった。


「かか可哀想なもんですかっ!ブレアさんを痛めつけたのは、そのウサギですよ!」


 それからデイブは一呼吸おいて、この研究所近辺で起こったことを話し始めた。




 ◇

 ◇

 ◇

 ◇

 ◇

 ◇

 ◇

 ◇

 ◇

 ◇




 この研究所でブレアさんの身体検査が一通り終わった頃、例の警鐘が鳴りました。


「────私はここに残ります」


 避難勧告が出ていたのですが、研究所を放り出して逃げるなんて生ぬるい研究者はここにはいません。ですから私はブレアさんとアソールさんには避難するように勧めて、私自身はここに残ると言ったのです。


「どうしよ!お姉ちゃん、ウッキーが郊外に買い物に行ってるんだよっ!」


「アソール、落ち着きなさい。サル様は常に冷静な判断が出来る方です。ここで私達が闇雲に動くより、固まっていた方が安全です。それにサル様には王宮へ立ち入った時にキャメロン様が付与した追放刻印があるはず。きっと今頃キャメロン様が強制的に呼び寄せている頃です」


「でも、でも……もしそうじゃなかったら?」


「信じましょう。それに、この研究所を護ることは怪人の弱点を探る上で欠かせません。私の身体を検査した結果が何か突破口を作る材料になり得るかもしれないですから」


「お、お姉ちゃんだってショウさんが危ない目に遭ってたら、いてもたってもいられないくせに!!こんな時ばっかりズルいよっ!!」


 非常に申し訳ないことをしてしまったと思うのですが、それからお二人は言い合いを始めてしまって、最終的にアソールさんは研究所を飛び出して行ってしまいました。


 それで、暫くして地響きのようなものが聞こえてきたので、様子を見るために私とブレアさんは一旦外へ出たんです。


 すると研究所のすぐ近くの建物が滅茶苦茶になっていて、何か重たいものが上から落ちてきたようなすり鉢状の破壊痕が見受けられました。


「あれは──────ウサギでしょうか?」


 瓦礫の中から小さなウサギが這い出して来たのです。それもただのウサギではなくて、金属みたいにツヤツヤしたウサギです。


「あはっ、可愛いですね」


「ブレアさん、そいつに近寄っては駄目です!落下地点にあれだけの破壊をもたらす質量ですよ!?普通のウサギのはずがありません!」と私は警鐘を鳴らしました。


 ウサギみたいに軽くて脆弱なものが上空から落ちてきたとしても、ただ野菜みたいに潰れるだけですからね。高所から落ちてきても平気な硬度と、破壊力に見合った質量があの小さなボディの中に収まっているかと思うと、可愛らしくぴょこぴょこ歩いている姿ですら私は恐ろしくて仕方がありませんでした。


 そして私の危惧は現実のものとなります─────


「きゃあっ!!」


 ウサギがブレアさんの身体目掛けて、爆発的な加速力で飛んできたのです。彼女は間一髪急所への直撃は免れ左肩を掠める程度でしたが、それでも吹き飛んで壁に叩きつけられてしまいました。


 ブレアさんは何とか起き上がり「魔法力は吸い切りました……」と言ったので、痛手は負いましたがなんとか窮地は脱したかと私は思ったのですが─────


 加えて「思っていたより手応えがありません、何か変です」とブレアさんは左肩を抑えながらそう言いました。


 するとウサギを覆っていた金属光沢は無くなっていて、まるで爬虫類が脱皮でもするように表面がボロボロと剥がれ落ちたんです。信じ難いことはまだ続きます。ウサギは恐らく汗腺から何か液体を分泌したんだと思います、それが固まると、表面にまた金属のような光沢が現れたんです。


 恐らくですが、ウサギの表面には金属の膜のようなものが覆っていて、そこには魔法力が循環していたのでは無いかと思います。しかしその膜の魔法力を吸引したところで、膜そのものは無効化出来ても、ウサギ本体の魔法力を吸い取ったことにはなりませんからね。


 ブレアさんに研究に協力して頂いて、現時点で分かっていたことがあるのですが、魔法力吸引のメカニズムは魔力溜まり(ロウン)という魔法力の器の中で魔法力を回転させるイメージで、その一端を相手の魔法力の一端に引っ掛けて巻き取るようにして吸引が行われるみたいです。


 何頭かのシーズを実験台にして、その射程を調べてみたんですが、ブレアさんの魔法力吸引可能半径は2.8mm─────つまり本体に直接触れて、表層の魔法力に干渉しない限り吸引は成功しないのです。


 それからはもう見ていられないくらいに凄惨な光景でした。ブレアさんは高速で飛び回る高質量のウサギから私と研究所を護りながら何度も打ちのめされていました。その間、私自身も何か力になれるはずだと、必死になって打開策を考えました。


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