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圧倒

 

 ボウモアの魔力糸を吸収し、無効化出来る以上、戦闘は怪人の怪力と硬質化した皮膚の防御力がぶつかり合う肉弾戦になることが予想された。ブレアに勝利してもらわずとも、その泥仕合が終わるまでに加勢に回ることが出来ればこちらの勝利は決まったようなものだ。


「アソール!()()を作れるか?」白痴魔人(ドール)の後方へ回ったアソールへと俺は呼びかけた。


「太陽ぉ!?」


 するとすぐにキャメロンがアソールに何か耳打ちをした。


「…………ショウさん、わかったよ~~~!」ひらひらと彼女はこちらへ手を振った。


 どうやら聡明なキャメロンは俺の意図を理解してくれたらしい。


「さっきので障壁魔法は再構成が必要になってしまったから使えない。二人とも、俺が近づくまで防御は頼んだぞ」


 カリラとサルが何も言わずに俺の両脇へ構えたのを見て、ゆっくりと俺は前に歩み出る。


 発射された三度目の弾丸は何処にも命中することなく全て地に落ちた。伸縮する手足による中遠距離の迎撃に遭うも、サルはこれを尽く封じた。その彫金魔法の練度たるや凄まじかった。


 やがて落ちている発光体を踏み越えて俺が前へ進む段になると、またぞろ白痴魔人(ドール)は先程の伸縮する指先を俺達に差し向ける。その瞬間、叩き落とされていた発光体が後方で光を放ち、俺の影を前へと運んだ。


 白痴魔人(ドール)は歯のない口でにたりと笑って、俺の影を貫こうとしたが、間一髪のところで影は俺の真後ろへと逃げていった。


 白痴魔人(ドール)の真後ろでは、この空間の酸素を瞬く間に使い切ってしまうのでは無いかというほどの大火炎が、掲げられたアソールの掌の上で凄まじい朱色の光を放って燃えていた。影は常に最も強い光源の奴隷である。


 真後ろの三名へ攻撃を加えようとするも、常に後方へ転移するキャメロンの魔法によってそれは幾度も失敗に終わった。その隙を突いて、サルの彫金魔法が手足を束縛し、動きを封じることに成功する。


効果範囲(エリア)だ」


 俺は十分に近づき、巻き戻しの時魔法を履行した。それを受け、固く結ばれていた紐が解けるように白痴魔人(ドール)は綻び、その構成要素を成している複数の生き物へと戻っていった。


 俺の目の前には四人の人間と、ここへ入って行くのを見た合成体(キメラ)が顕現するに至ったのである。


「──────あっ、やべえ。忘れてた」


 本能からか、俺に向かって熊のように太い腕で爪を振り下ろす合成体(キメラ)。時を止めようとした瞬間、一陣の風によって合成体(キメラ)は吹き飛び、突き当たりの岸壁に衝突して動かなくなった。


「上手くいったみたいですね」飛び蹴りを食らわしたブレアはにっこり笑った。


「魔法力を吸い取ったのか、助かった……そうだ、ボウモアは────」


 二人が戦闘をしていたあたりを見ると、驚いたことに酷くぼろぼろに傷ついた女が片膝をついていた。


「私の方が強いみたいです」ブレアは茶目っ気っぽく言った。


「ハハッ、こりゃとンでもねェな」サルは双眸を手で覆った。




「チッ……こんな小娘に……ッ」ボウモアは奥歯を鳴らした。


「ボウモア、お前らの目的を教えろ。螺旋計画とやらは一体何のことだ。何のために時魔法の力を狙う」俺は息も絶え絶えになってしまった女のもとへ詰め寄った。


「フフ……お父様も宛が外れたようね。もう御破算になった話だけれど、アタシ達が成そうとしているのは人類を一人残らず駆逐すること……けれどグレンゴインには────」俺達が彼女の言葉を聞き取れたのはそこまでだった。


 突如ボウモアは前のめりに倒れ、ただの肉塊へと変わってしまった。


「自害したんじゃろうか?」とカリラ。


「いや、強制的に意識を剥奪されたような印象だった。カナの話が本当なら、こいつら怪人は不死身だ。口止めのためか、あるいは精神が死ぬ前に回収したのか、どちらにせよ、黎明の三賢と謳っている割に、もう一人が表舞台に出て来ていない。そいつの仕業かもしれないな」


「ショウ君───────」後ろから聞こえたその声は、目を覚ましたドロナックだった。


「よう、ドロナック。災難だったな」


「あ、あの、ごめんッス……俺……」


「俺は友人のお前に殺されるのは御免だし、もちろんお前を殺すのも御免だ。だから街道で会った時はどうするべきか苦慮したよ。けれどもこの行動に迷いはなかった、お前を助けるのになんの躊躇がある」


「へ」サルは斜に構えて、気恥ずかしそうに少し後ろを向いた。


「皆さんにお願いがあります」次に口を開いたのはブレアだった。


 全員が怪人と瓜二つの見た目のブレアへ視線を送った。ピティを除くドロナックの配下三名はドロナックの後ろに隠れ、怯えとも恐れとも取れる表情をしている。


「私は見ての通り、こんな姿になってしまったので、もう人間と歩むことは出来ないのかもしれません。でもこの方達は違います。私などのために自分の居場所を捨て、私を追いかけて来てくれた……この方達だけにはどうか、どうか罰を与えないでいただけませんか」ブレアの瞳にはうっすら涙が浮かび、声は震えていた。


 こんなことをブレア本人が口にするのにどれだけの無念があるのだろうか俺には計り知れなかった。自分が彼女のことを守れていればと忸怩(じくじ)たる想いを募らせるばかりだ。


「最後だけしか見えなかったッスけど、多分ブレアちゃんも闘ってくれたんスよね……」


「ああ。それだけじゃない、少し前にトラッドの転移通信網が回復しただろう?あれもブレアが怪人から転移魔法官の魔法力を解き放ってくれたからなんだ」


「ブレア氏本人の前で言うのも無礼かもしれないが、怪人の性質や弱点を知るために仲間に引き入れておいた方が政府にとって得策だと私は思うぞ」キャメロンは軽くブレアに目配せをしつつ発言した。


「とにかくだ────ブレアと合流した以上、俺達はもう何も求めないし、トラッドの法に背くようなこともしない。けれども、俺達から何か()()()っていうんなら、容赦はしない」


「ショウ様、そんな言い方は……っ」


「そうッスよね……そうなるッスよね。俺にもここにいるみんながトラッドに危害を加えるような人達には見えないッス。何よりも今、生命を助けてもらったばかりなのに、この場で喧嘩を吹っかけるほど無謀でもないし、面の皮厚くもないッスよ……」


「ドロっちはどうなって欲しいと思うの?」アソールは真っ直ぐドロナックを見た。


「俺的には、政府に掃討命令を撤回してもらいたいッスけど……三体いる怪人のうち二体が倒された今、逆に政府はショウ君達の掃討に力を入れかねない状況なんスよね……」


「そうか、お前らは知らないのか。どういう方法かは分からないが、まだ怪人は一人も死んでいないぞ。そこのボウモアにしてもそうだ。こいつらは身体が死んでしまっても、別の新しい身体で復活するらしいからな」と俺は説明した。


「え゛、まじッスか?」


「だから大本を叩かなきゃ意味が無い、発生源の方をな。さっきの口ぶりだと、やはりそれがグレンゴインの中心部にあるみたいなんだ。まあ、白壁のこともあって、すでに何かあることは政府の連中にしても自明の話だろうがな」


「う~~~ん、とりあえずこの話は持ち帰るッス……」


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