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太陽の姉弟

 


「ところであんた、この島が無人島じゃないことは知ってるか?」


「ぁ…………ああ、知っているが」


「ここの住民、むかしはトラッドに住んでたみたいだが何か知らないか?つまり─────迫害の歴史、とか」


「迫害……か。確かにあれは迫害だったのじゃろうな」オーヴァンは露骨にバツの悪そうな顔をした。


「知ってるんだな?」


「あまり公にはなっていないがな。何故そんなことを聞く?」


「俺はここの部族とこの間、親交を持った。彼らの言い伝えによると、大昔に厄災の星(カリグ・ソラス)とかいうのが降ってきて、大陸の住民を人と悪魔に分けたと言っていた。そして、悪魔は彼ら人間をこの島へ閉じ込めた、とな」


「…………ほっほ……そう()()()()()()か。事実は違う。逆じゃ、我々の側がこの島へ悪魔を封じたのじゃよ」


 やはりそうだったか。そんな気はしていたのだ。


 魔法を禁忌として恐れる感情の根源は、この島へ島流しに遭った人間の強い思想から来ているに違いない。


「そうじゃないかと思ったよ。トラッドじゃ魔封じの島なんて呼ばれてるのに、こっちで話を聞けばトラッドの人間が“悪魔の子”なんて呼ばれている。あべこべだ。厄災の星(カリグ・ソラス)は人間と悪魔、つまり魔法使いと非魔法使いに人々を分けた、違うか?」


「厄災の星とやらが原因かどうかは定かでは無いが、まだ儂らが生まれるよりずっと昔、トラッドに魔法は無かったと言われておる。そして突然、魔法が使える者が現れた。それをきっかけに迫害が起こったのじゃ」


「突然、特異な能力を持つ者が少数現れて、その人達は異端扱いされ、この島に封じられたんだろう?」


「うむ。魔法が広く普及した今では絶対に口外出来ぬ、血塗られた歴史じゃがな。為政者に近い地位の者しかこの事実は知らぬ」


 つまりこのスカイ島に連れてこられた最初の者達こそが、忌むべき力(ドリーオハト)を持つ者で、彼らの言うところの“悪魔”であり、正しくはコスタール民族が“悪魔の子”なのである。元を正せばどちらもトラッドに住んでいた人間の子孫なのだから、別段両者に種族的差異はないが。


 この島へ封じられた第一世代の魔法使い達は、自分が迫害される理由になった魔法を、忌むべき力として恐れた。こんな恐ろしいものがあるから私たちはここへ連れてこられるはめになったのだ、と。


 そうしてここで代を重ねるうちに、この島の影響で全く魔法力を持たないコスタール達は、忌むべき力である魔法力を活用するトラッド大陸の人間たちを逆に“悪魔の子”と呼ぶようになったのだろう。


「それで、ひとつ訊きたいんだが厄災の星(カリグ・ソラス)の言い伝えに似たものはトラッドに伝わってないか?」


「──────ふむ。どうやら心問調査の“記憶障害”というのは本当らしいのう……この国の民であれば、童であっても知っているというのに」


「なんだって?」


「子供向けの昔話、御伽噺と言ってもいいじゃろうな。スカイ島に住む連中には忌むべき対象かもしれぬが、トラッドでは逆に信仰の対象じゃ。知らんか?『グレン様』を」


「それは知ってる。トラッドに根ざす土地神信仰みたいなものだろ?」


「半分、じゃな……『カリグ・ソラス』というのは古い言葉で『太陽の姉弟』という意味を持つ。御伽噺もそのままのタイトルが使われておる。その話に出てくる太陽の神様の名がグレンという」とオーヴァンは語った。


「確かにそれは初耳だ。悪いんだが、その御伽噺を聞かせてくれないか」


 オーヴァンは不機嫌そうに眉をひそめてたが、手短に語ってくれた。その内容はこんなものだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 《太陽の姉弟(カリグ・ソラス)


 むかし、むかしの話。


 仲がよい太陽の姉弟がいました。


 姉はティーナ、弟はグレンという名前でした。


 二人は草や木や動物たちに暖かな光を届けるために、一日を半分に分けて、姉弟は交代で空へ登り、光を届けていました。


 姉弟は姿がよく似ているから友達になったミレーネという向日葵と、いつも楽しくお喋りをしていました。


 ある時、ミレーネが姉弟に「どちらが暖かい光を届けられるかな」と何の気なしに言いました。


 すると姉弟はどちらも自分だと言い張って、むきになって競い合い、ついには干ばつが起き、ミレーネは枯れてしまいました。


 そうしてやっと自分たちの間違いに気がついたティーナとグレンは争うことをやめました。


 心を痛めたグレンは、空から落っこちて、深い土の中に身を潜めました。


 弟と離れ離れになってしまったティーナは悲しみの涙を流し、それは干ばつを潤す雨になりました。


 グレンとティーナのおかげで草木は生い茂り、こごえるほど厳しかった冬をたくさんの生き物が越せるようになりました。


 ティーナは弟のグレンがいつ空へ帰ってきてもいいように、半日分だけ日光を届けながら、弟の帰りを待っています。


 こうして世界に夜が生まれたのです。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「──────これが太陽の姉弟(カリグ・ソラス)じゃよ」


 有り体に言ってどこにでもありそうな童話だ。しかし、コスタールの厄災の星(カリグ・ソラス)伝承と共通する部分もある。それは天体が『降ってくる』という描写である。


「それで、グレン様はどの辺に落っこちてきたことになっているんだ?」


「トラッドのちょうど中心、グレンゴイン峡谷のあたりと言われとる。そもそも『ゴイン』とは太古の言葉で『宿』という意味らしいからのう。まあ、全て信仰上のことだがの」


「グレン様の宿……か」


「ひとつ訊こう、貴様は掃討対象になった今も尚、怪人化した娘を追い続けておるのか?」


「そうだが?」


「戻る鞘もなくなれば必然か……どうせその娘を見つけ出すまでか、さもなくば一生の間、儂はここに監禁されるのじゃろう?」


「前者の方だ」


「だとよいがな。流石の儂もトラッドまで泳いで渡る度胸はないわい。仮に主らが先に娘を見つけ出し、保護したとして、その後どうする。どこへゆく?貴様らにとっての安住など、もうこのトラッドにはありはしないぞ」


 考えもしなかったわけではなかった。ブレアを追いかけるために俺は四人もの大罪人を作り出してしまっている。ブレアを含めたこの五人全員の生活を安寧のものにする責任が俺にはあるのだ。しかし、何度頭を捻ってもそんな場所はありはしなかった。


「────さあな、その時になったら考える。とにかくお前ら政府にブレアをみすみす殺されるなんてのは到底受け入れられない」


「まっこと強情な男じゃな……」オーヴァンは呆れたように鼻を鳴らした。


 次の瞬間、俺とオーヴァンの間に四人の男女が現れた。


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