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模倣の力

 

 フェルディが触れ、音もなく三角錐状の障壁が砕け散った瞬間、キャメロンはカリラの元へ転移し、フェルディと共に障壁魔法の射程外へと下がった。


 カリラの救出は成ったのだ。オーヴァンが展開可能な障壁の数は五枚から一枚へと減り、空間隔離はもう出来ない。


 この圧倒的に有利な状況を作り出した要因は、先程述べた最大展開枚数という概念の理解に加え、幸運が重なった結果だ。この場にフェルディという障壁魔法を無効化出来る存在が居て、かつオーヴァンが捕獲したカリラを諦めてこの場をから撤退するという選択をとらなかった強情さも含まれている。どれかひとつでも欠けていたら、間違いなくこうはいかなかったろう。


「こっ、この不届き者どもめ……!!」オーヴァンは怒りにまかせて唾を飛ばした。


 オーヴァンは残った一枚の障壁を俺に差し向ける。


 この時、意外なことが起こった。突然、「小僧ォ、真似てみい!!お前の魔法は()()する力じゃ!」とカリラが後ろから叫んだのだ。


 その言葉は俺の認識を揺るがした。不思議な感覚だった─────何か固結びになっていたものがするりとほどけるような、合言葉を思い出して重い扉が音を立てて開くような感覚。


 ずっと疑問に思っていた。


 サルと共に決闘場でシーズと戦った時に、民衆の目を欺く為に使った発光石。あの頃は、あれが時魔法の魔力によるものだと思い込んでいた。しかし、時魔法とはクレイグから授かった権能であり、魔法ではなかった。


 ならば発光石は何故、放射光を放ったのだろうか。何故、カナが使う時魔法の技術をその場で真似することが出来たのだろうか。何故、トラッドの公用語を、あるいはコスタールの現地語を理解し、瞬時に話すことが出来たのだろうか。何故、俺はこうも簡単にウイスキーを再現出来たのだろうか。





 凍りついた時の中、俺の右手が眩い白色に光を放つ。何色にも染まり、何色とも調和する色。


 俺はゆっくりとオーヴァンの正面に立ち塞がる障壁に剣を振り下ろす。するとその切先は、あれほど強固だった障壁にずぶりとめり込み、それはゆっくりと唐竹割りに両断されていく。


 完全に凍りついた時が再び動き出した時、オーヴァンは地に伏していた。


「今のは─────」


「ショウ、よくやった!」嬉しそうにキャメロンとカリラが駆け寄って来ていた。


「カリラさん、どうしてあんなことを?」


「夢の中で子供が言っておった、小僧の魔法力は模倣の力だとな。それに気がついていないだけじゃと。大事なのは、出来るとはっきり認識することじゃと言っていた。夢なのにそれが頭にこびり付いて、気がついたら叫んでおったわ」とカリラ。


「模倣の力…………魔法を真似る魔法ということか?」


 確かに今の一撃にイメージしたのはフェルディの無効化の力だった。彼の魔法を俺が模倣して扱ったというのか。


「オーヴァンを退けるとは、どうやらとんでもない獅子を起こしてしまったようだな」一足遅れてフェルディがのそのそとこちらへ近づいてきた。


「これはあんたのお陰でもある。安心しろ、約束は守るさ」


 俺はフェルディに近づこうと一歩足を踏み出したところで、全身の疲労感に躓きそうになった。


「おッ……と」


 これが魔法力を消費する感覚─────これまで味わったことが無い脱力感。


「大丈夫か?ショウ」


「ああ、大丈夫だ。それよりキャメロン、そこで気を失っている爺様を含めて五人でスカイ島へ転移してくれ」


「な、なっ、何を言う!こんな奴らを連れて帰るだと!?正気か?」


「大丈夫だ、多分それが一番安全なんだ、俺たちにとって」


「本当だな?」


「ああ、やってくれ。フェルディ、あんたも一度一緒に来てもらう。すぐに元の若さに戻して、トラッドに帰してやるから安心しろ」


「好きにしろ、私に拒否権は無い……」




 *

 *

 *

 *

 *

 *

 *

 *

 *

 *



「────ぶはっ」


「目が覚めたみたいだなご老体」御社(みやしろ)の中、壁にもたれ掛かりながら、反対側に居るオーヴァンに俺は声をかけた。


「きっ貴様ァ!儂をどこへ運んだ!!どこじゃここは!」


「あー、喧しいな。全く、こんな爺さんと留守番なんて災難にも程がある」


「何故儂を殺さなかった?下らぬ情けなどかけたことを後悔させて─────」


 立ち上がり、正面に座る俺に掌をかざしたオーヴァンだったが、そのまま硬直して黙りこくった。


「気がついたか?」


「魔法が、魔法力が自然回復していない……だと?まさかここは……」


「そう、()()()()()だよ。ここにいる限りあんたの魔法は封じられてる。俺は別にあんたのことを殺すほど憎んじゃいない。ただ、ずっと金魚のフンみたいについてまわられるのはごめんだからな、暫くここにいてもらうぞ」


「監禁か。いよいよもって正体を現しおったのう、外道め」


「なんとでも言え」


「いいのか?儂をこんなに近くに置いて、寝首をかくやもしれんぞ」


「心配ないさ、こっちにも対抗する手段はある」


 オーヴァンに向けて俺は右手をかざすと、正面に半透明の障壁が出現した。


「なッ……!貴様、それは─────」


「俺は他人の魔法を真似ることが出来るみたいなんだ。だからこの障壁魔法の性質もその過程で理解できた。障壁を生成する為に、術者の魔法力を、予め押し固めて体内に内包しておく必要がある。だから破壊されると多量の魔法力を一度に失うばかりか、魔法力を押し固める為のインターバルが必要になる。しかも使用時は相互に循環して顕現させているため、障壁から一定距離以内に術者が居なければならない、違うか?」


「ば、莫迦なっ……魔法を真似る魔法じゃと?他者の魔法有りきでしか意味をなさぬ魔法など、そんな馬鹿げたもの有り得るわけが……」


「何を言ってんだ、“魔法無効化魔法”だってそうだろうが。悪いが、あんたをあの戦闘のあとすぐにこの島へ運んだから、魔法力はほとんど空っぽだろ。大人しくしているんだな」


「ぐうう……待て、フェルディの奴はどうした」


「約束したからな。トラッドに帰したよ、もちろん元の年齢に戻してな」


「となれば貴様、フェルディの魔法も模倣したか」


「もちろん。これがあればもうあんたの障壁に捕まることは無いからな」


「くっ……人選を誤ったか。とんだ手土産を渡してしまったわ」


「別に俺はあんたらが思うほどトラッドを滅茶苦茶にしようなんて考えちゃいないよ。いずれあんたもトラッドへ返してやるつもりさ」


「ふん、信用できんな。国家に仇なす意思がなくとも、いつでもそれを振るえるのならば捨て置けぬ。人智を超えた力を持つというのはそういうことじゃ」


「そうだろうな」


被害が出る前に根絶やしにしておく、これが国政において、民草を守るための最善策であることは俺も理解していた。



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