ブリーフィングとジャストフィット
俺は身支度を整えると、車にカバンを放り込み、エンジンをかける。
家を出る際にばあちゃんと母さんが心配そうにこちらを見ていたが、俺は何とか笑顔を作って見せて、心配かけない様にしたつもりだったのだが、二人にはお見通しだった様で、何とも微妙な表情をされてしまったのだが…。
「まあ、男の子だものね…危ない事に首を突っ込むのは本当はやめて欲しいのだけど、一度やるって決めたなら、最後までやり遂げなさい…それと、必ず無事に帰ってくるのよ?」
「ま、精々頑張んな!なーに、昼間も言ったけどまだまだ若いモンに負けるつもりはないから、こっちの心配はしなくていいさ!思いっ切り暴れてきな!」
と、腕まくりをしたばあちゃんと、真剣な眼差しの母さんから一言ずつありがたいお言葉を頂戴して、俺は無言で頷いて車に乗り込んだ。
そんな中花奈だけは最後まで浮かない顔をしていたのだが、結局何も言わず送り出してくれた。
「…絶対、無事に帰ってくるっすよ?」
と、去り際にボソッと一言だけ言い残して花奈それ以上何も言わなかった。
そして、現在薬局に寄りバンテージと週刊誌を腹に仕込んだ樹と、潜入前にエネルギー補給ということで、大量のメープルビスケットをバクバクと貪っているコンを尻目に、門倉さんが待つコンビニへと車を走らせるのだった。
◇
実家から繁華街の方までは移動に大体一時間くらいかかるので、現在時刻は二十一時を過ぎた所だった。
俺が駐車場に車を止めると、こちらに気付いた門倉さんがゆっくりと歩み寄り、胸と腰に手を当てて優雅にこちらへ一礼すると、口を開く。
「おや、随分お早い到着で何よりですな。ご無沙汰しております四季様。そちらの方がお連れ様ですかな?」
窓を開けて対応すると、真夏なのに相変わらず黒い長袖の燕尾服を着ている門倉さんだったが、スーツの内側が若干膨らんでおり、何かを着込んでいる様だった。
そちらに目を向けていると、門倉さんは樹の恰好に気付いたらしく、口角を上げて優雅にほほ笑むと、こちらを見据えて口を開く。
「お連れ様は大分荒事に慣れているご様子ですな…ほほほ、その心意気は素晴らしいですぞ?」
樹の方へと視線を向けてそう言った門倉さんが右手を差し出していた。
それを見た樹は意図を察したのか、右手を差し出しその手を取った。
「樹でいいわ。あなたが門倉さんね?うちの四季ちゃんがお世話になってます。いきなり荒事で申し訳ないけど、よろしくね?」
「いえいえ、こちらこそ。主の物を取り返してもらうために動いて頂いてますので、こちらこそ、助かりますよ」
そう言って、互いに手を握ったまま微笑を絶やさない門倉さんは、余裕綽々といった様子で佇んでいる。
これから半グレ集団のアジトに乗り込むというのに、呑気なものだ。
挨拶も済んだ所で車から降りて樹がこちらに近づいてくると、手招きして耳を貸せとジェスチャーしてくるので、一応その通りにしてみたのだが…。
「ねえ四季ちゃん、ほんとにかっこいいじゃない…?あたしちょっとドキッとしちゃったわ!見た目華奢なのにあの手…ものすごくガッチリとしてるわよ!年上もアリね!?」
「あのなぁ…」
と、呑気な事を抜かして緊張感が感じられず、若干不安を覚えていたのだが…。
そんな様子の俺達にはお構いなく、門倉さんは同じく駐車場に停めてあった黒い乗用車のキーを開けると、中から何かを取り出す。
ドサッと衣擦れの音が響き、黒色のベスト状の衣服を取り出す門倉さんは、それをこちらに向けて差し出してくる。
「ご準備されてきた所申し訳ないのですが、一応皆様の分の防刃ベストを用意しておりますので、装着しておいてください。樹さまは一応そのままでも構いませんが、機動性を考慮するとこちらの方に着替えて頂く方がよろしいかと思います」
「あら、準備がいいわね?じゃあお言葉に甘えて…」
樹はベストを受け取ると、服を脱ぎ、巻いていたさらしの中から雑誌を引き抜き、ベストを被る。
「あら、意外と着心地いいじゃない?」
ベストを装着した樹はくるくると肩の辺りを回して、着心地を確かめていたが、思った以上にぴったりとフィットしているみたいでお気に召した様だ。
「ほほほ、機能性重視の物で多少不格好ではありますが、効果は保証しますよ」
「へえ…流石ねえ…」
樹がそう言うと、門倉さんは笑みを絶やさずに今度は二回り程小さい子供用のベストを差し出してきた。
「一応コン様の分もご用意してますが…」
と、コンの方にもそれを向けるが、コンは一瞥するとプイっとそっぽを向いてしまう。
「ワシはその…このままで良いのじゃ…!」
と、素っ気ない態度のコンだったが、門倉さんは気にした様子は無く、差し出したベストを持ったまま今度はいつの間にか手にしたのか、逆の手に握られていた大人用のベストを俺に手渡してくる。
「さようでございますか。では四季様もベストをご着用下さい。インナータイプですので、シャツを脱いでから装着してくださいね?」
「ああ、分かった…」
先程樹がしていたので着け方は覚えているが、親切にもう一度レクチャーしてくれた。
俺は返事をすると、言われた通り上着を脱いでからベストを装着した。
樹の言う通り、思った以上に違和感は無く、強張ったりはしなかった。
むしろぴっちりと張り付く様な感じで、どちららかといえば密着感のある肌着みたいでこんなもんか、という印象を受けた。
俺がベストを装着したのを確認すると、門倉さんは一度車の方に戻り、そこからいくつかジュースの缶の様な物を取り出してこちらに持ってくる。
「それと、こちらをどうぞ。殺傷能力はございませんが、護身用に携帯しておいてください。万が一の時、ご自身の身を守る為に必要かもしれませんので、ポケットにでも入れておいていつでも取り出せるようにしておくとよろしいかと」
「えと…これは?」
大きさは大体三百五十ミリ缶くらいの大きさで、重さも同じくらい。
外装は黒いスチール製で、所々に小さな穴が空いている。
取っ手部分…というか、レバーの様な物は鉄の銀色をしており、レバーの横には消火器等に付いている様な金属製のピンが付属した物体だった。
「ほほほ、中は暗闇ですからな。明かりがついている可能性もありますが、見た所そのような気配は無かったので、音と光で相手を威嚇するためのフラッシュバン…いわば閃光弾ですよ。使い方はご存じですかな?」
「いや…初めて見た…こんなに小型なんですね?」
無骨ではあるが、黒々とした本物の非殺傷とは言え兵器を初めて目の当たりにした時に少しばかり気後れしてしまったが、その重さを自分の身を守る重さだと思えば逆に頼もしく思えてきた。
まあ、使わずに済むのならそれが一番なのだが。
「ええ、特殊部隊でも使用されていた小型タイプです。私が《《少しばかり》》改造したので効果は絶大ですよ。レバーを握ってピンを抜いて投げるだけです。屋内ですので三秒間強い光と爆発音が響きます。投げる際は必ず目と耳を閉じる事を推奨いたします」
「わかりました…まあ、使わないに越したことはないのですが、一応携帯しときます…」
「一応持っておくわね」
と、俺と樹はそれぞれ一個ずつ閃光弾を預かりポケットの中へとしまい込む。
それを確認した門倉さんは一度頷き、再びほほ笑みを浮かべると、車から降りて俺の裾にしがみつくコンの方へと向き直り、膝に手を当てて少し身を屈めて目線を合わせると口を開く。
「では、もう少し遅くなってから行きましょうか。それまでは待機…と、後は最終確認ですな。コン様よろしいですかな?」
「ん、なんじゃ?」
「仙狐水晶の気配…とやらはまだ、この辺にございますか?」
と、コンは門倉さんの質問を受けて一瞬目をつむり、額に右手の人差し指を当てると、ゆっくりと口を開く。
「うむ、まだ強烈な淀みがあるのじゃ。動いておらぬから同じ場所にあると思うのじゃ…」
「かしこまりました。ではまた何か変化があればお伝えいただけると助かります」
「うむ、分かったのじゃ…」
と、門倉さんはコンにそう言うと一度頷き、姿勢を戻し立ち上がる。
「では皆様、今の内にお手洗い等済ませておいてくださいね?ここからは気を引き締めて参りますぞ?」
と、門倉さんが言うと、コンは控えめに俺の背後から顔を覗かせ、右手を上げて言う。
「おー…なのじゃ!」
そんな様子にちょっとだけ和んだのだが、これからすることを考えるとやはり、不安は完全にはぬぐい切れなかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
作品のフォローと☆☆☆を★★★にする事で応援していただけると、ものすごく元気になります(*´ω`*)
執筆の燃料となりますので、是非ともよろしくお願いいたします(*'ω'*)




