アルビノ美人とガラス玉(2)
俺は詳しい説明は省きつつ、なるべく伝わる様にと、言葉を選んで口にする。
「その、この子のお母さん…つまり、土地神の役割というのは、この地に穢れや淀みが溜まらない様に、それを浄化したり、ある程度土地を正常に保つフィルターの様な仕事をしています」
とりあえず、可能な限り端折って説明してみたが、これで通じるだろうか?
一抹の不安はあるものの、イリスさんはコクリと頷くと、まっすぐこちらを見据え口を開く。
「淀みや穢れというのは、ゴミやチリの方かしら?それとも、あれかしら?人の悪意や恨みの怨嗟といったそう言う負の感情的なやつかしら?」
「あ、そうですそんな感じです。それが溜まり過ぎると、淀みになって、土地にとって良くない事が起こるっていうのが、神様から聞いた話です」
俺は何とかしどろもどろになりながらも、身振り手振り付きで精一杯説明してみる。
「なるほどね、確かに人の悪意や恨みっていうのは蓄積しやすいというものね。古代から呪術や呪い何かがあるわけだから、当然それは存在しているわけで…本当に厄介よね?」
イリスさんは深く頷くと、一度カップから紅茶を啜り、それを優雅にテーブルに置くと、こちらに同意を求めてくるが、ここまで饒舌に語られると、俺の説明よりこの人詳しいんじゃないか?と思ってしまう。
俺はそんな不安を他所に、一応同意だけして頷く。
「そうですね…」
「あら、私ったらごめんなさい、職業柄、オカルトとか心霊とかその手の話になるとどうしても気になっちゃって…ごめんなさい、話の腰を折ってしまって…続けて頂戴?」
イリスさんは申し訳なさそうに一礼すると、少し頬を赤らめる。
この人完璧というか優雅というかそう言う風に見えるが、実はこういう所でちょっと抜けてて可愛いなという印象を受けた。
初めて見た時の美しいが、近寄りがたい雰囲気よりも、こっちの方が断然とっつきやすくていい。
「こほん…えと、それでその悪意や恨み何かがこびり付いてしまわない様に感情を昇華させる…えと、ある程度霧散させてしまうのが土地神の仕事で、それを制御管理するパソコンの様な役割をしているのが、仙狐水晶なんです…」
「なるほど?」
イリスさんは「ふむ…パソコンねぇ…」と、首を傾げるが、そのまま続ける。
「この子の母親である久那妓さんは…今、手作業で途方もない人間の感情を昇華させています。それもこの夜桜という土地だけですが、それでも住人は何十万という数いますから、それこそとてつもない数をこなしていることになるのです…あれです、パソコンなしで電子決済なら一発で済む書類を、全部手書きのアナログで処理しているようなものなんです…」
「それは…恐ろしく手間のかかる事ね…でも、それが仕事だからやるしかないっとなると猶更…」
「はい…」
「なるほどね…よくわかったわ…」
と、何とか俺の例えで久那妓さんの苦労が伝わった様だ。
土地神様の現状を理解してもらえたのなら話は早い。
「なので、早急に手を打って、仙狐水晶を取り戻す必要があるのです…」
「そう言うことね…で、物の在処はもう見当が着いているのよね?」
イリスさんはパンッと、一つ柏手を打ってこちらに尋ねてくる。
「はい、目星はついていて、後はどう取り返すかという段階です…」
俺は素直に頷きイリスさんに現状を伝えるのだが…。
「ふむ…分かったわ。なら、門倉を貸してあげる」
「え?」
突然の申し出にハトが豆鉄砲食らったみたいな間抜け面をしていたかもしれないが、俺が聞き返したと思ったのか、イリスさんはもう一度口を開く。
「聞こえなかったかしら?門倉を貸してあげるって言ってるの。門倉は昔特殊部隊に所属していたのよ?ね、門倉?」
会ったばかりでこんなことを言うのもなんだが、門倉さんは飄々としており、見た目こそ年老いてはいるが体の方は引き締まった良い身体をしており、衰えている様には見えない。
「ほほほ、昔の話です。今はもう現役は退いております故、身体は鈍っておりますが…ご要望とあらば、善処いたしますぞ?」
現役引退とは言え、この人はまだ鍛えている人のそれだった。
服の下に隠れて見えないが、恐らく体は引き締まり、筋肉に覆われているだろう。
ぱっと見の所作や立ち居振る舞いが、一般人のそれとは違い、鍛えられているからこその軸のブレなさ…とでもいうのだろうか?そういう、達人めいた所作を感じられる。
音も無く廊下を歩いたり、この年でも軽快に走り寄ってこれるのは、技術もあるだろうが恐らく日々の鍛錬による下地あっての物だろう。
何よりお茶を注ぐその腕は袖に隠れてはいるが、彼の腕は無駄な筋肉をそぎ落とし、洗練された肉体って感じである。
「特殊部隊って…話が大きくなってきたが…まあ、戦闘経験者っていう心強い味方が出来るのはありがたいです。相手はアウトローなので…」
俺がそう言うと、イリスさんは再び柏手を打ちにこやかに言う。
「場所が分かっていて、後は結局踏み込んでみるしかないじゃない。半グレ集団相手とは言え相手は素人。戦闘に関して言えば、門倉は間違いなく役に立つだろうから、上手く使ってあげて頂戴」
「ほほほ、血が滾りますな?」
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