お茶と茶菓子と不安顔
「失礼、まだ名乗っていませんでしたな。私この館の管理を任されております執事の門倉と申します。以後お見知りおきを」
執事の門倉さんに招かれる形で、館の中を歩いていると、改めて思ったのがやはり金持ちの家は広いなというのが率直な感想だった。
洋館はその見た目の通り入口で靴を脱ぐことなく室内に入るアメリカンスタイルだった。
入口入ってすぐにエントランスホールがあり、そこは一流のホテルのロビーの様な造りになっていて、床には高級そうな赤い絨毯が敷かれており、向かって正面にある階段が二階へと繋がっている。
階段を上った先には、高さ二メートルくらいの金色の装飾が目立つ額縁に、頭のてっぺんから靴の先に至るまで真っ白な、見た目は十五~二十歳前後くらいの白い着物姿の若い女性が、妖艶にほほ笑みこちらを見据える様な構図の絵画が飾られていた。
身長は絵画が等身大なら恐らく百六十センチ~百七十センチ程。
華奢なその肢体は触れたら壊れてしまいそうなほど儚い印象を受け、透き通った白い肌、そして真紅のその瞳は、見るものを魅了する様な妖艶さがあった。
目鼻顔立ちは幼いが、クッキリとした顔のパーツは一つ一つが工芸品かと思わせる程整っており、高い鼻やぱっちりとした猫の様なつり目は、日本人の物とはかけ離れていた。
元々色素が薄いというのもあるだろうが、白人女性よりもさらに白い…映画や漫画何かに出てくるエルフの様な見た目をしているが、白髪や肌はもしかしたら病気…というか、先天性白皮症というやつだろうか?
にしても白すぎる様な気もするが、絵画だからある程度美化されているのもあるだろう。
正面の絵に気を取られていると、門倉さんが声を掛けてくる。
「あれが、お館様…イリス様でございます」
「随分とお若い方なのですね?ご職業は何をされているのでしょう…?」
純粋に気になったので、尋ねてみた。
「そうですね…まあ、色々と手広くやっておりますよ」
門倉さんは歩みを止めず、そのまま歩を進める。
はぐらかされてしまったが、まあ自分のシノギをおいそれと他人に話す様な使用人ではないということだ。
まあ、その辺は本人に尋ねてみる事にしよう。
イリス…というとやはり、見た目の通り外国人か。
いや、ハーフの可能性もあるが、それよりも…。
先程から案内されて館の中を歩いているが、コンは俺の背に隠れてしがみつき、裾を引っ張りながら、何かを警戒する様におっかなびっくり歩いていた。
時折辺りを見渡す様にきょろきょろと落ち着かない様子だったのだが、耳をピクピクと小刻みに揺らし、眉をひそめているそんな様子が気になり声を掛ける。
「どうした?」
と、俺が声を掛けると、コンはビクッ!その場で飛び跳ねて驚きを隠せないでいた。
「な、なんじゃ!きゅ、急に話しかけるでない!びっくりするではないか!」
「いや、さっきから様子がおかしいから…何かあったのかな?って思ったんだが…」
俺がそう言うと、コンは再び俺の服の裾を強く握りしめ、背中に顔を埋めると、強く抱き着くように顔を隠し、ボソッと蚊の鳴くような声で呟く。
「…でも…ない!」
「え?なんて?」
「なんでもないっ!」
聞き返すと、額を強く背中に押し付けて、ぐいぐいと前に押し出してくるコンだが、地味に痛いので出来れば普通に歩いて欲しいのだが…。
「と、とにかく何でもないのじゃ…」
と、こちらの顔を覗き込み、耳をしゅんと垂れ下げて、相変わらずきょろきょろと辺りを見渡していたが、コンがそう言うならそう言うことにしておこう。
もしかしたら、何か触れて欲しくないことでもあるのかもしれないし。
「わかったよ…とりあえず、危ないからちゃんと前は見て歩けよ?」
と、言って俺が歩き出すと、コンはコクリと頷き、その後をゆっくりと着いてくる。
「なんだかなぁ…」
と、コンの様子も気になるが、そうこうしている内に、目的地に到着したのか、門倉さんが歩みを止めた。
そして、扉の前に立つ門倉さんはコンコンと四回軽くノックすると口を開く。
「お館様、お客様をお連れしました」
一呼吸おいてから、扉の向こうから、声が聞こえてくる。
「そう、ご苦労様…入って頂戴」
透き通る様な…というのはこういう時に使うのだろうか?
小川のせせらぎや、森のざわめき…そういった音が聞こえてきそうな、澄んだ綺麗なそんな声が響く。
随分と若々しい声だ。
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ…」
と、門倉さんが扉を開く。
重厚な木製の扉が、ぎぃ…と音を立てて開かれるとそこには…。
「初めまして、お初にお目にかかるわ。私はイリス。よくきてくれたわね。さ、座って頂戴?」
と、絵画のモデルとなった女性がそこには立っており、誇張抜きに絵画の姿と全く一緒だったのには、心底驚きを隠せなかった。
お館様…こと、イリスさんはすらっとした細身の身長百七十センチくらいはあるモデル体型で、真っ白で長いストレートヘアーは腰位まで伸び、彼女の動きに合わせて揺れ動く。
メイクなのか頬にはほんのり朱色が差しており、白い肌に良く映えていた。
着ている服装は絵画の物とは違い、今日は白のワイシャツに瞳の色と同じ真紅のネクタイを付けており、下には同じく白のタイトスカートを着こなしていた。
足元には同じく白のヒールを履いており、足首には白い革製のアンクレットがワンポイントとして装着されている。
「あ、えと…お招きいただきありがとうございます」
俺は一瞬あまりの美しさに、見惚れてしまっていたが、イリスさんがニコリとほほ笑むと、手招きをする。
「ふふ、今お茶を入れるわ。門倉、頼めるかしら?」
「かしこまりました」
と、イリスさんがそう言うと、門倉さんは鳩尾の辺りに右手を当てて、一礼すると部屋の中へ入り、手際よく人数分のカップを用意する。
部屋の中にある家具は当たり前だが、どれも高級そうなもので、黒い重厚な革製のソファが部屋の真ん中にあり、その間に白い木製テーブル…こちらも装飾こそ少ないが、金色の細工がしてあり、気品あふれる一品だった。
テーブルの横には白色のサイドワゴンがあり、その上には白磁のティーポットと、茶菓子が用意されていて、ホテルやスイーツバイキングとかそういう所でしかお目にかかれないであろう三段あるケーキスタンドの上段にはケーキやマカロンと言った洋菓子、中段には羊羹や大福といった和菓子、下段にはゼリーやプリンと言ったスイーツが乗っており、どれも見た目も美しく、美味しそうだった。
「とりあえず一通りスイーツを用意したわ。好きな物を召し上がって頂戴?」
と、イリスさんは門倉さんが入れてくれた紅茶を受け取ると、カップから立ち上る紅茶の香りを確かめると、満足そうに口角を上げて、カップを机に置く。
「流石ね門倉、良い香りだわ」
「恐縮でございます」
門倉さんもその言葉を聞くと、ニコリとほほ笑み一礼する。
「さ、四季様、お連れ様もどうぞこちらへ…お好きな物をお取りしますよ」
と、門倉さんが皿を人数分用意すると、イリスさんの向かい側のソファへ案内してくれた。
「あ、はい…」
正直あまりに現実離れした美貌の持ち主が優雅にカップを傾け、腰掛けている様は、それだけで一枚の絵になる程の威厳があって、若干気後れしてしまっていたのだが、俺は何とか頭を振って部屋の中へと歩みを進めようとしたのだが…。
「…コン?」
「…っ!」
「おい、どうしたんだ入るぞ…?」
「……っっ!」
何故かコンは上着の裾を強く掴んで離さない。
「おい、皺になるだろうが…って、どうしたんだよ、そんな深刻そうな顔をして…コン?」
コンの表情を見てみると、明らかにしかめっ面…眉を八の字に曲げて、口を歪め…ぱっちりと開いたその瞳には、若干の涙を浮かべて、必死に首を左右に揺らし、まるで「いかないで!」と、訴えかけているかの様だった。
「なあ、どうしたってんだよ…?」
俺がそうコンに問いかけるも、コンはただ黙ってこちらを見据えて首を振るだけだった。
尻尾や耳味も、ペタリと垂れ下がり、心なしか元気がない。
「コン…?」
と、俺が口を開きかけたその時、ソファに腰掛けていたイリスさんはゆっくりと口を開く。
「大丈夫、安心なさい。何もしないわ。ただ座ってお話するだけよ」
彼女はまっすぐとコンの顔を見据えると、紅茶を一口啜ってそう言った。
「…いぢめる?」
俺の影に隠れていたコンだったが、イリスさんのその一言にようやく口を開く。
「いいえ、約束するわ」
「………」
彼女がそう言ったのを皮切りに、コンの様子が変化した。
「ほれ、行くぞ…お菓子、たべるのじゃ…」
と、若干まだ遠慮がちではあるが、先程の様子とは違い、今度は自分から一歩前へと踏み出し、俺の手を引いて部屋に足を踏み入れる。
「お、おう…?」
俺はそんな突然の様変わりに混乱していたが、グイっと手を引かれて、ソファに座ると、コンは大人しく俺の右横にちょこんとお行儀よく腰掛け、俺の右手を握っていた。
「さて、それじゃ聞かせてもらえるかしら?あなたが今何をしているのか…」
「そうですね…お話させて頂きます…」
と、正面に座るイリスさんは優雅に一口紅茶を口に含むと、真っすぐにこちらを見据えて、俺が話始めるのを待っている。
「実はですね…」
俺は、ここ数日何があったのかを説明し始めた…。
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