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新米パパと頑固親父(上)

 怒声に気後れしてしまった、俺は樹達と顔を見合わせ、どうするか?と目線を交わし、無言で相談していたのだが、そんな心配を他所に、コンがててててと扉の前に駆け出すと、無言でガラリと摺りガラスの付いた扉をスライドさせて、中の様子を伺っていた。


「ふふふ…この中から、何やら良い匂いがするのじゃぁ…ワシの尻尾が反応しておる!」


 ふりふりと尻尾を揺らして無邪気にはしゃぐコンが扉を開けて店内に駆け込むと、店の奥から先程の怒声を放った人物の声が聞こえてくる。


「おい、今は準備中だ!それに話す事なんて何もない…って、あ、貴方様は…!まさか…!?」


「あ、こら…コンちゃん戻ってらっしゃい!」


「そうっす、コンちゃん勝手に入っちゃ駄目っすよ!」


 樹たちの静止も空しく、中に入っていったコンが厳つい見た目の老人と対峙していた。


 店主らしき人物…恐らくこの人が政さんだろう。


 政さんがコンの姿を確認すると、呆気に取られている様子だった。


 店の外に居た俺達もコンの後に続き店内へと入る。


 薄くはなっているが角刈りにした白髪頭にねじり鉢巻きを巻いて、黒色の割烹着を着込んだ恰幅の良い、ごつごつとした四角い輪郭の鷲鼻の老人…恐らく歳はばあちゃんと同じか六、七十代くらいだろうか?背は曲がっておらずまっすぐと立っていて見た目は若々しく見える。


 眼光は鋭く三白眼に白い綿が乗っているかの様な太い眉毛は繋がっており、ムッと引き結んだ唇と、顎に張り付いた濃いめの無精ひげが厳つい印象を与え、正しく職人といった頑固そうな面構えをしている。


 しかし、コンの姿を見て老人は何かを思案するように両腕を組み、ジロジロとこちらを訝しむ様な目で撫でまわすように観察していたが、俺の方から一歩前に出て、一礼してから先程購入した菓子折りを差し出し手渡す。


「すみません、突然お邪魔してしまって…これ、つまらない物ですが、どうぞ」


「ふんっ、礼儀は弁えている様だな…ありがとよ」


 年老いてはいるが、身体は引き締まっており、先程菓子折りを手渡した時に触れた手は職人の手らしくごつごつと無骨ではあるが、指先は細くしなやかさがあった。


 何とかコンに気を取られている今がチャンスとばかりに、菓子折りを手渡す事に成功した。


 人間なんでも受け取ってしまえば、心理的に申し訳なくなったり、話も聞きやすくなってくれるってもんだ。


 俺達はそれを先程身をもってそれを体験したばかりである。


「しかし…ハルの奴…まさか土地神様がいるとは…聞いてないぞ…?あんた達、この方のツレか?」


「はい、そうです…この子をご存じで?」


 政さんは目を丸くして俺達とコンを交互に見比べると、そう問いかける。


 俺もここは素直に頷いて肯定した。


「ああ…知っているも何もこの耳と尻尾昔見たことがある…。この方は、土地神様だろう?なんたってこんなところに!?」


 耳と尻尾まで見えているのか。


 だったら話が早い。


「ああ、知っているのでしたら話が早いですね…率直にお伺いした理由をお話してもよろしいでしょうか?」


「何かあったのか?」


「はい、実は…」


「まあ待て、さっきは悪かったな。礼儀を尽くされたらこっちも客として持て成す義務がある。茶を入れるからそこに座って待っててくれ」


 と、政さんは備え付けの四人掛けのテーブル席を指さし、そこに座る様に指示すると、厨房の方へ行ってしまった。


 見た目は厳つくて口調こそ荒いものの、こういう礼儀正しい所はやはり一本筋が通った人間の様だ。


「それじゃ、お言葉に甘えて…」


「了解っす」


「コン、こっちだ」


「あいなのじゃ!」


 と、俺達はそれぞれ席に着くと、何故か一個席が空いているにもかかわらず、コンは俺の膝の上にぴょんと飛び乗ると、そこにお行儀よく収まる。


「ぬふふ…座り心地ばっちりの特等席なのじゃ!」


「おい、そこ空いてるじゃねーか…なんでわざわざ…」


「へへへ…気にするでないのじゃー!」


 と、悪びれた様子もなく、自慢の尻尾を悩まし気にふよふよと揺らしながら、ニコニコとほほ笑んでいる。


「全く…まあいい、大人しくしてるんだぞ?」


「ふぁ~…い!」


 と、腕を伸ばし一度伸びをすると、気の抜けた返事をして、コンは大人しく収まっていた。


「ふふ、四季ちゃんお父さんみたいね?」


「ほんとっすね、なんか親子みたいっす!」


「あのなあ…」


 と、樹達にからかわれてしまったが、そこは気にしないことにした。


 厨房の方を見ると、薬缶で湯を沸かしている政さんが、その傍らで何かを皿に盛りつけていた。


 暫くして、お茶が沸いたのか人数分の湯飲みにお茶を注ぎ、茶色いお盆にお茶と茶菓子を乗せて、政さんが戻ってきた。


 ちなみに茶菓子は今俺が買ってきた煎餅を二枚ずつと、わざわざ切り分けたであろう羊羹が二切ずつだった。


「あ、私もお手伝いするっすよ!」


 と、花奈が立ち上がろうとすると、政さんがそれを察して…。


「客人は客人らしく座っとれ!」


 と、一括されてしまい花奈は大人しく席についていた。


 各々にお菓子とお茶を配り終えると、政さんはカウンター席にある椅子を引っ張り出して、背もたれを俺達の方へ向けると、そこへまたがる様にどっかりと腰を下ろし、頬杖をついて口を開いた。


「で、話ってのは何だ?」


 ギロっとした鋭い眼光がこちらを見据えると、少し空気が引き締まったような気がして、ピリッとした緊張感が背筋に伝わるのだが、それに堪えて真正面から政さんの目を見据えて話始める。


「まず、話に入る前に確認させてください。政さんは夜桜山のご神体はご存じでしょうか?」


 と、俺が問いかけると政さんはコクリと頷き、それがどうした?とでも言うかのようにさらっと答えた。


「ああ、あの小っせぇ社ん中にあるガラス玉だろ?たしか…仙狐水晶とかいうやつだろ?」


「はい、実はその仙狐水晶が何者かに盗まれました。コンはそれを取り戻す為に我々と行動しています」


 俺は淡々と事実を述べて、政さんに事情を話す。


「なにっ!?それは本当か!?」


 それを聞いた政さんは、椅子からガタっと態勢を崩し、前のめりになってしまっていたが、俺は気にせず続ける。


「はい、残念ながら本当です。ですが、犯人の目星はついているのです。実はその犯人というのが息子さんが関わっているという半グレ集団の様なのです…」


「何だってっ!」


「ですから、息子さんから何か半グレ集団の情報を得られないかと、思った次第です」


 態勢を整えた政さんはこちらを一瞥すると、鼻を鳴らし腕を組むみ目を閉じて口を開く。


「ふんっ、なるほどな…。そう言うことなら協力してやりてーのは山々だが、何を話せばいいんだ?身内事で恥ずかしいんだが、お世辞にも倅との関係は上手く行っているとは言えねえぞ?」


「そうでしたか…。では、息子さんは息子さんに最後にお会いしたのはいつですか?」


 俺はポケットに入れていたスマホを取り出すと、メモ帳アプリを起動する。


 政さんは俺の問いかけを受けて、一度考え込む様に天を仰ぐと、ぽつぽつと語り出した。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※お知らせ 


第十三話えもえもと線香花火に挿絵が完成しましたので、是非ご覧ください。

https://kakuyomu.jp/works/16816927859532349203/episodes/16816927861026118557



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