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それ行け佐倉防衛隊

作者: 緑龍亭

この小説は実在の地域、団体、個人とは何の関係もございません。


特に、実在の千葉県佐倉市には怪獣は発生しません。ご了承ください。

 諸君は、怪獣というものを知っているだろうか。

 ビルをも凌ぐ巨大な体を持ち、口からは紅蓮の炎を吐き、巨大なアンテナを飴のようにねじ曲げ、恐怖に逃げ惑う人々を容赦なく踏み潰す。

 諸悪の根源、恐怖の深淵他、さまざまな罵詈雑言を日々浴びせかけられているアレである。

 ほとんどの人々は、彼らの存在をテレビの中だけに限られたものだと思っている。しかし、彼らは作り話の中にだけ存在するものなどでは決してない。彼らを自分の目で見たことのない人々は特撮や、SFXなどと言って迫力がないだの演出がいまいちだのと言っているが、彼らによって住む場所を奪われた多くの人達にとっては、彼ら怪獣というのは、災厄の代名詞でしかないのだ。

 怪獣たちは、地球上でもごく限られた地域にしか出現しない。彼らは、律義にも人間の定めた地方自治体の行政境界線を忠実に守り、ある限られた出現地域に連続して出現しては破壊行為を行なうということを繰り返してきていた。

 当然、これに対して行政側も手をこまねいていた訳ではない。当初、各国は、自国の軍隊を動員してこれら怪獣たちの排除に当たってきた。しかし、怪獣が限られた地域にしか出現しないとはいえ、軍隊の展開能力に比べて、地方自治体の数はあまりにも多過ぎた。軍隊による対応は、僅か1年あまりで破綻を見せ、無責任にも、事態の処理は、民間レベルで行うようにとの政令が発せられた。

 このときに誕生したのが、地域防衛隊である。

 世界に冠たる、軍事技術をはるかに凌ぐ日本の家電製品開発技術。これが世界を市場とした1京円産業としての怪獣対策ビジネスとなったとき、それまで、軍隊にしか存在できなかった高価な武装は、地域防衛隊という民間組織でも購入できる安価で信頼性の高い製品へと姿を変えた。

 かくして、世界中に開かれた新たな市場により、世界は未曾有の好景気を迎え、それに加えて、怪獣によって破壊された建物の改修などの副次的効果は、沈滞に陥りつつあった日本経済の空洞化をも救う要因となったのだ。

 結果的に、破壊の元凶であったはずの怪獣が景気低迷を救う原動力となるという皮肉な結果となった。怪獣の被害を受けたことのない人々にとっては、怪獣とは言わば怪獣様様だったのである。


 閑話休題


 そして、ここ千葉県佐倉市でも、怪獣の出現が報告されるに当たり、地域防衛体が組織されることとなった。無報酬ではあるが、自分の町を守るという崇高な仕事に対して多数の市民が志願したが、その中から、各方面に秀でた能力と優れた実行力を兼ね備えた以下のメンバーが選抜された。

 還暦を超え、なお鷹のような鋭い眼光と、鍛え上げられた鋼の体を持つ、茂林寺住職と佐倉防衛隊隊長を兼ねる幻海和尚。

八百屋「矢尾八」を構え、日々街を支える奥様たちに笑顔を絶やさない、中年雷親父の矢尾権造。

佐倉防衛隊の武装の開発を一手に引き受ける、三十路の佐倉のエジソン、大松亜久郎。

なりは小さいが佐倉防衛隊の会計を一手に握る紅一点で、”鬼も十八、番茶も出ばな”な18歳のオカジマ電機のエセ関西人竜翔那奈。

そして、一見無気力その実不明のフリーター自称はたちの白鳥哲也。

以上の5名である。

 彼ら佐倉防衛隊SPATS(Superlative Protection Armed Team in Sakura)は、怪獣たちの手から佐倉の町を、そして、佐倉市民の生命を守るべく、未来に向けて今日も戦っているのだ。

「佐倉市公文書第2554369号」より抜粋。



「なんや、大仰な文章やなぁ」

 昨日、幻海和尚から資料だと言って渡された文書を読んで、那奈は、休憩室でつぶやいた。そんなに志願者があったかどうかは、那奈にとってはあまり関心があることではない。しかし、SPATSをいい金儲けの情報源程度にしか考えずにホイホイと募集に応じた那奈としては、入隊の際にさほど選抜に厳しい基準があったような気がしなかったのも、事実である。

 大体、SPATSが結成されてから一カ月が経つが、その間怪獣はパタリと出現するのをやめ、彼等は、半ば開店休業状態にあったのだ。

 もっとも、幻海和尚と矢尾の親父さんは、日々訓練を欠かさず、大松氏は、新たな武装の開発に余念が無い。手を抜いているのは、むしろ、若手の白鳥と那奈の2人の方だった。 そう考えると、那奈は自分のことを棚に上げて、唯一の20代の青年の顔を思い浮かべた。

「白鳥はんなんか、何でSPATSに応募したのかようけわからんようなお人やし。ほんまに、いざと言うときになったら役に立つかどうかもわからんしなぁ」

「あのう、竜翔さん」

「うわっ!」

 いつの間に来たのか、パイプ椅子に座っていた那奈の背後に出現した白鳥の遠慮がちな声に那奈は飛び上がった。

「いきなり近くから声をかけんといて。びっくりしたやないか」

「ええ。でも、竜翔さん背が低いですから、すぐそばに来ないと本当にいるのか分かりませんでしたし」

「はいはい、どうせうちは背が低いよってわかりにくいんやろね」

 椅子に座ると荷物に隠れてしまう小柄な体をひがみながら、那奈は白鳥を見上げた。

「で、なんやねん。まだうちは休憩時間のはずやないの」

「はぁ。でも、店長が用があるって・・・・・」

 それを聞いて、那奈はこめかみに指を当てると、眉をしかめて白鳥を見やった。

「・・・・・あのな、その元気のないしゃべりかたどうにかし。まったく、こっちまで気が重うなってくるわ」

「でも、僕は、重くないですよ」

「・・・・・ああ、わかった、わかった」

 いい加減、うんざりした那奈は、逃げ出すようにして休憩室から出ると、周囲を見回した。

「店長はあっちです」

「ええい、いくら背の低いうちかて、カウンターに立っている店長くらい見えとるわ!」

 肩を怒らせて離れていった那奈を見送って、白鳥は独りごちつぶやいた。

「あ、そろそろ交替の時間だ」

 そう言って懐中時計を胸元にしまうと、交替を告げるために、ひょうひょうとタイムカードのある休憩室に足を向けた。


「で、店長。まだ休み時間のうちをこき使おってのは、余計にお給金弾んでくれるんか?」

「休み時間は、2分前に終わっているぞ」

 改めて自分の時計を確認し、5分遅れているのを確認して、那奈は首をかしげた。

「・・・・・・・あれ?」

「それはともかくとして、だ。これをさげといてくれ」

 そう言って、店長が差し出したのは、「ノムノム、本日発売」と朱書されたプラカードだった。既に、天井から降ろしてあるフックに引っかけるための鎖もつけてある。

「ノムノムって、なんです?」

「知らないのか。近ごろ若い連中の間に急に人気の出てきた音楽、と言うか、メロディーだそうだ。俺もちょっと聞いてみたんだが、よくわからん」

「ふーん」

「でだ、ついでに試聴用のCDもセットしておいてくれ」

「はーい」

 返事よく、プラカードとCDを持っていった那奈ではあったが、途中で休憩室に行こうとしていた白鳥を捕まえると、梯子持ちをさせたついでに取り付けも白鳥にさせて、自分は試聴用のCDをセッティングすることにした。

「竜翔さん、私、休憩時間なんですけど」

「したら、早く終わらせないと、休憩時間がなくなってしまうな。早くやりね」

 遥か下から反論を許さない口ぶりで断言されて、白鳥は渋々プラカードを鎖に引っかけた。ふと下を見ると、那奈が片手で梯子を押さえながら、CDの裏を見ているところだった。

「なんや、こんなんで2500円もとるんかいな。ぼったくっとるなー」

 ぶつぶつと文句を言っている那奈を見下ろしながら、白鳥は黙って首を振ると、自分の休憩時間を確保するために、作業を続けることにした。



 白鳥が自分の休憩時間の残りを気にしているのと同じころ、幻海和尚は、茂林寺の広い本堂の中央で瞑想をしていた。秋も深まる夕暮れ近くで、広い本堂は一人の人間では暖まり得ぬ冷え冷えとした空間を横たえている。

 しかし、幻海和尚の周りの空間は、本堂のうちで特異な様相を見せていた。

 極限までに集中された気により、空間そのものが自らの意志を持っているかのようにそこに存在していた。本堂そのものを自らの分身とし、白髪白鬢の老人は沸き上がる気配をすべて吸収している。

 ふと、そこに、晩秋の蚊が忍び込んだ。本堂を頼りなげにうろついていた蚊は、二酸化炭素の気配を感じ取ると、幻海和尚のそばにゆっくりと近づいて行く。しかし、幻海和尚の体に降りると思った次の瞬間、ぴしりという音とともに、蚊の体は両断されて床に落ちた。

 鷹を思わせる眼光を一瞬だけ床に落ちた残骸に向けた和尚は、何事もなかったかのように再び目を閉じた。



「はい、ノムノムでしたら、こちらの棚に並んでおりますさかい、ごゆっくりお選びください。それから、こちらで試聴できるようになっていますので、そちらもどうぞご利用ください」

 プラカードを吊るしてすぐ、CDノムノムの棚の周りには、二十歳前後の青年達が絶え間無く集まっては、CDを手にレジの方へと去って行く姿があった。白鳥はその直前に何とか虎口を脱して休憩室に行ってしまったため、対応は那奈だけでしているという状況だった。

 何度同じせりふをしゃべったか分からない。

 ふと、那奈はCDの中身が気になった。性格柄、ヒット商品についてはチェックを欠かしたことのない那奈だったが、ノムノムCDの話は聞いた事がない。何の前宣伝もなく、いきなり現れて、ほとんど棚が空になるくらいの売り上げを記録するソフトというのは、よほどいいものが口コミで広まるためであることが多い。

 客が途切れたときを見計らって、那奈は試聴棚のCDを聞いてみることにした。

「えーと、再生っと。CDなんて持ってへんもん。お店で聞かんと聞く機会がないんやもんね」

 独り言をつぶやきながらイヤホンをつけた那奈の耳に単調なメロディーと声が響き始めた」

『のむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむ・・・・・』


 休憩時間から解放されるなり、梱包の手伝いをさせられた白鳥が『ノムノムCD』コーナーの側を通ったとき、そこでは那奈が幸せそうな表情でイヤホンを耳に、聞き入っている姿が見られた。

 客がすぐ側にいるにも関わらず勤務時間中に試聴用のCDを聞いているというのは、従業員にあるまじき行ないであろうと想定できる。常識的判断を消極的に行った白鳥は、そおっと那奈に近づいて頭をつついた。

「あのー、勤務時間中ですよ」

「・・・・・ああ、ええ曲や。心が洗われるようや」

 那奈が全く聞いている様子がないのを見た白鳥は、那奈のイヤホーンをポンと外し、息を大きく吸い込むと、耳に口を近づけた。

「わっ!!」

「んわひやっ」

 文字通り、飛び上がった那奈は、その勢いで近くの大安売りCDのカゴに突っ込んだ。派手な破砕音を立ててカゴの中身がぶちまけられる。

「な、なんや、またあんたかいな」

「仕事中に遊んでいるのは良くないですよ」

「う、・・・確かに。でも、白鳥はんも聞いてみ。ええ曲やから」

「また今度」

 あっさりと那奈をあしらうと、白鳥はレジに足を向けた。このままここにいては、また何か押し付けられそうな気がしたのだ。タイムカードを押した後に仕事をする義務はアルバイトには無い、と言う訳だった。



 このころ、再び茂林寺。

 幻海和尚は、外の気配に気が付いてうっすらと目を開けた。明らかに、多数の人間が境内に入り込んでいる。戦いで研ぎ澄まされた幻海の感覚は常人の想像を遥かに越えたレベルに達しており、たとえ見えなくとも、気配だけで人の存在は察することができる。相手は20人はいるようだった。しかし、幻海は、気配を消すことのできないような未熟な者達が何人来ようとも敗れる心配は微塵も持っていない。

「そこにおるのは誰じゃ」

 低く通る声は決して大きくはないが、境内にいた人間たちの腹に響き渡った。

「おい、こっちだよ」

「ここが玄関じゃなかったのか」

 がやがやと20歳前後の若者達が本堂の前にじっと立つ幻海和尚の前に集まってくる。皆、手に手にバッグをさげており、数人は、イヤホーンを耳につけたまま体を左右にくねらせていた。その中で、比較的落ち着いた感じのする青年が、周りの者達にこづかれて幻海の前に出てきた。

「すみません、お邪魔しています」

「何者じゃ、お主らは」

「ノムノム教の集まりなんですけど、ちょっとお願いがありまして」

「ふむ」

 幻海は、おずおずとノムノム教について説明する青年をじっと観察した。身のこなしはさほど良さそうにも見えない。鍛え方は足りないのだろうが、精神的には比較的安定しているかのように見受けられる。少なくとも、狂信的な人物ではないだろう。

 後ろの連中は、いかれているのが何人かいそうであるが。

「で、広い境内のあるここを、今晩ノムノム教の会合に使わせてほしいんですが」

「ノムノム教な」

 説明を聞く限りでは、危険な宗教ではないらしい。しかし、深く仏教に帰依し、長年にわたり厳しい修行を続けてきた幻海和尚には、そのようなインスタント宗教の会合に境内を使わせることは、仏の庭を汚すことにほかならないと感じられた。

「申し訳ないが、境内をお貸しすることはできん」

「なぜです?使っていないんですから、いいじゃないですか」

「茂林寺は仏をまつるためにある。他の宗教のためにあるのではではない」

 にべもない言い方に、後ろにいた何人かが文句を言おうとしたが、その者たちは幻海が睨みつけると、こそこそと前の人間の後ろに隠れてしまった。

「お引き取り頂けますかな」

「・・・・・分かりました。他のところを探します」

 幻海和尚は修行を続けるべく、悄然として去る彼等に背を向けた。その背中に、若者達の誰かからやけくそとも言うべき言葉が投げ付けられた。

「覚えてろ、くそじじい」

 途端に、沸き上がる殺意の念。背後の気配はそれを感じ取り、脱兎のごとく境内から逃げたしていった。


「だから、私は行かないって」

 白鳥は、自分にかかってきた電話に何度もそう言った。しかし、電話の相手はそれに対してしつこく食い下がり、なかなか諦めようとしない。

『だからさ、皆出るんだよ、今晩。そんなにいやがらなくてもいいじゃんか』

「皆が出ようが出まいが、私はノムノムなんかに興味はないんだよ。それじゃ」

 いい加減不毛だと思い、白鳥はいささか乱暴に受話器を置いた。レジの横では、『のむのむCD』を従業員割り引きで買った那奈が白鳥を興味深そうに眺めている。

「のむのむゆうてたけど、なんかあるんか」

 電話を切ってほっとした表情の白鳥に、横合いから那奈が顔を出した。ただでさえ帰りが遅くなってしまったのに、このうえ那奈に捕まっては最悪である。白鳥はそう思い、手短に電話のことを説明した。

「今夜、私の友達がノムノム教の会合をやるっていうんですよ。それで、感動するから私にも声をかけようって事で電話をかけてきたらしいんですけどね。私は別に興味ないし、面倒臭いですから」

「そうかー。そういう集いがあるんやね。白鳥はんも、これを機会に聞いてみればいいのに」

「興味ないですから。それはともかく、竜翔さんこそ、行ってみたらどうです。同好の士でしょ」

「うーん。いや、あかんあかん。ああいうものは、会費をとるのが常やからな。そんな、無駄な出費をする訳にはいかん」

 そこまで言うと、那奈は先程手に入れたCDを大切そうに胸に抱いた。

「うちにはこのCDがある。それで十分や」

「のむのむ言うだけの曲が、ですか」

 しかし、白鳥の言葉が那奈には聞こえていないようで、那奈はCDを抱いたまま、陶酔した表情でふらふらと店から出て行った。

「ほな、店長、今日は失礼します」

「ああ、ご苦労さん」

 ふわふわと浮いているかのように立ち去る那奈の後ろ姿を見て、白鳥と店長が同時に首をかしげた。

「竜翔さんが4ケタもお金を出して音楽CDを買う、ねぇ」

「世界が終わることがあっても、那奈ちゃんが音楽に金をかけたがることはないと思っていたが」

 そのとき、レジをしていた店員がふと何かを思い出したかのように首をかしげた。

「竜翔さんって、自分の家でCD再生できるんでしょうか」

 その言葉に、白鳥と店長は顔を見合わせ、さらに頭を抱えることとなった。



 夕方、日も暮れなんとするころ、幻海和尚は外の異様な気配を感じ取った。つい先刻のそれを越える人数が寺の境内に入り込んでいる。殺気こそ感じられないものの、まっとうな大勢の人間が何も言わず寺の境内に入ることなぞ可能性としては無いに等しいだろう。

 幻海は気配を消して立ち上がると、ゆっくりと寺の玄関に向かった。玄関の引き戸から見える境内の前庭には、キャンプファイヤーとおぼしき真っ赤な光が見て取れた。

「狂人共が・・・」

 そうつぶやくと、幻海は引き戸を勢いよく開け放った。

 大喝一声。

「何をしておるかっ!!」

 普通の人間であれば魂から縮み上がったに違いない凄まじい気迫であったが、キャンプファイヤーを前に狂ったように踊りまくる若者達は、そこに幻海などいないかのように踊り続けていた。

『のむのむのむのむのむのむのむのむ・・・・・』

 自分たちの発する怪しげな声に酔うように、手を振り上げ、足を踏み鳴らし、うつろな目で踊り続ける若者達。これを見回していた幻海和尚の目が、かっと見開かれた。

「やむをえまい」

 幻海和尚が彼等を狂気から救おうとしたのか、それともただ単にキレただけなのかは定かではない。しかし、幻海の体に沸き上がる闘気は、彼の体をかつての戦士のそれへと変化させた。幻海の手が残像を帯び、重心が低く下がる。

「滅殺」

 短い一言と共に幻海の体の輪郭がぶれ、次の瞬間、その姿は若者達の人込みを抜けた反対側に出現した。幻海が体を起こした途端、踊りの止まった若者達40数人の体がいっせいに地面に倒れ臥す。秋を彩る夕暮れの中、若者達の体の上を風が吹き抜けていった。

「ふ、ぬるいわ」

 そう言い捨てると、幻海は倒れた若者達を背にし、その場から去って行った。

 玄関から入った幻海は、そこに据え付けてあった電話を取ると、119番を回した。

「すまぬが、茂林寺の境内の中に若者が大勢倒れておってな。生きてはいるんじゃが、心配なんで病院につれて行ってやってもらいたい。なに、わし?ふ、わしは通りすがりのただのじじいじゃよ。では、頼んだぞ」

 相手がさらに何かを聞こうとするのを制して、幻海和尚は受話器を置いた。

「さてと、何やら妙な予感がするわい。ドクターのところにでも行ってみるか」

 奥に入り、愛用の袈裟を取る。そして、髭の形を整えると、幻海和尚は倒れてうめき声を上げている若者達の間を抜けて、足早にドクターこと、大松のアパートに足を向けた。


 どんどんどんどんどん

「ドクター、おるか」

 傾いた、”大松”という表札のかかったアパートの部屋の前に立った幻海和尚が声をかける。扉の向こうで、2、3回、つまづき、何かを崩したような音がして、扉が開いた。

『のむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむ』

「和尚、いいところに」

「・・・・・・なんじゃ、これは。何で、ドクターの部屋からのむのむのむのむいう音楽が流れているんじゃ」

「竜翔君ですよ。彼女が音楽CDを持って来たんでCDプレイヤーを貸してやったらこの有り様で」

『のむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむ』

「むう」

 ゴチャゴチャとうずたかく何に使うか分からないような機械が積み上がっている間をぬって、二人は部屋の奥へと進んだ。ボリューム一杯に音量を上げているノムノムの声は、二人に纏わり付くかのように感じられる。そして、部屋の奥では那奈が機械に埋もれるようにして、うっとりとCDから流れ出てくる音楽に耳を傾けていた。

「あの連中と同じ目をしておるな」

「あの連中?」

「うむ」

 幻海和尚は、先程寺で起こったことについて大松に説明した。背後には、ノムノムという音が延々と流れ続けている。

「という訳なのだが・・・・何とかならんのか、この音は」

「2、3分で壊れるかと思ったんですがねぇ。私の造ったものにしてはまともに動いてますな」

「感心しておる場合か。やかましくて、たまらん」

 いい加減耐え兼ねてか、幻海和尚は、那奈のいる側の耳をふさいだ。それを見て大松が腕を組む。

「そこがまた、分からないところですね。なんで我々には雑音にしか聞こえないのか。たいがいきれいな音楽というのは、ある程度万人に共通した感覚を与え得るものなんですがね」

「ふむ・・・・」

『のむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむ』

「でぇええええいっ!」

 大松氏の言葉を沈思して吟味していた幻海和尚が、ついに青筋を立てて立ち上がる。そして、真っすぐに那奈の背後に歩み寄ると、CDプレイヤーのスイッチを切った。

「・・・・・何すんねん、ドクター!って、あれ、和尚、来てたんか」

「さっきから来ておる。それよりも、その音楽とも言えないような奇っ怪なものを聞くのをやめい」

 和尚の一喝を受け、那奈は目をしばたたかせ、そして、首をかしげた。

「ひょっとして、和尚もこの曲の良さがわからんとか」

「これは曲ではない、騒音と言うのじゃ」

 その言葉に、大松が後ろで深く頷いていたが、那奈はため息をつくと、黙って首を振った。

「和尚まで。・・・・やっぱり、年寄りって言うのは保守的やなぁ。この美しい旋律、妙なる調べ。一小節聞いただけでうちは虜になってしもうた」

「単なる単純な音節の繰り返しにしか聞こえないけどな」

 大松がぼそりと漏らした言葉に、それまでうっとりと自分の世界に浸りながら話していた那奈の目が吊り上がった。

「ドクター!。いくらドクターかて、うちが大枚3枚はたいて買うたものをそれ以上馬鹿にしたら許さへんで!」

「大枚3枚・・・、100円玉か?」

「大枚いうて、どこの世界で小銭を指すゆうねん。1000円札や、せ・ん・え・ん・さ・つ」

 それを聞いて、絶句し、顔を見合わせる幻海和尚と大松。呆然とした二人を見て、那奈は得意そうに胸を反らした。

「どや、いかにうちがこの音楽をすばらしいと思うたか分かったやろ。分かったら、黙って聞いとき」

 そう言うと、那奈は再びCDプレイヤーのスイッチを入れた。しかし、大松と幻海和尚は、那奈の最後の言葉を全く聞いていなかった。二人はしばし呆然とした後、再び室内に流れ出した単調な繰り返しの下で、深刻な会話を始めていたのである。

「嬢ちゃんが3000円で買ったか」

「こりゃ、本格的に調べないとまずいかも知れませんね」

「そのためにも、那奈のためにも、あのCDは取り上げた方が良さそうじゃな」

 そこで言葉を切ると、幻海和尚は千葉県美髯コンテストで優勝をさらった自慢の顎髭をしごきながら思索した。ほどなくして、幻海和尚は深く頷くと、大松に顔を寄せた。

「こういう手はどうじゃろうな」

 幻海和尚に策を耳打ちされた大松は、自分の発明品の山を見回すと、大きく頷いて賛意を表した。


 所変わって八百屋「矢尾八」。

 一日の売り上げを計算しながら、幻海和尚との明日の訓練メニューについて考える矢尾夫婦が、ちゃぶ台でお茶を飲んでいた。景気はあまり良くないものの、お得意様のお陰でそこそこの売り上げは上がっている。

 子供は二人とも算盤塾に行っているためここには夫婦二人しかいない。

「静かねぇ」

「うむ」

 矢尾八は住宅街にあるため閉店後は閑静なたたずまいに包まれる。子供たちがいないこともまた、夫婦二人だけの安らかな時間を二人に提供していた。

「お茶、いれますね」

 そう言って妻の沙希が立ち上がったのとほとんど同時に電話が鳴った。電話に出る沙希を横目で見ながら新聞を読む権造の耳に、電話の会話が入って来た。

「はい、おりますが。はい、はい。少々お待ちください」

 台所から沙希がひょこっと顔を出し、それに応じて権造も顔を上げた。

「あなた、病院から」

「病院?一体なんだ」

「十和田君が病院にかつぎ込まれたんだって。身内が近くにいないんで迎えに来てほしいそうよ」

 十和田というのは矢尾八でアルバイトをしている大学生である。青森から出て来ているため、身内は近くにいない。

 権造は腰を上げて沙希から電話を受け取ると、電話の向こうからは聞き覚えのある声が聞こえて来た。

『わしじゃよ。夜分すまぬな』

「なんだ、住職ですか。何でうちにかかって来たかと思ったんですがね」

 不審な思いを納得させられた矢尾はほっとして相好を崩した。

『それでじゃ、少し話したいこともあるんでな。こいつを迎えに来てくれんか』

「分かりました、すぐに行きましょう」

 そう言うと、矢尾は受話器を置いた。そばには心配そうな顔をした沙希がじっと権造を見つめている。

「ちょっと病院まで十和田君を迎えに行ってくる」

「何があったの、一体」

 ここで、権造は肝心の十和田のことについて何も聞いていないことに気が付いた。

「わからん。とりあえず、和尚が病院で見てくれているそうなんですぐに行かないとな」

「そうね」

 沙希が急いでジャンパーを持って来て権造に着せた。そして、車のカギ、財布、免許証を手際よく渡して、胸の前で両のこぶしをぐっと固める。

「あなた、根性よっ!」

「おうっ!!じゃ、行ってくるからな」

 妻の見送りを受けて車のエンジンをかけた権造はふと、我に返った。古びてあちこちきしむ車の中で首をかしげる。

「で、何に根性いれりゃいいんだろうな」

 自分に負けず劣らず根性第一な妻の顔を思い浮かべて、権造はただひたすらに悩むのであった。


「おう、よく来たの」

「どうも。十和田君はどうですかね」

「鎮静剤を注射されて眠っておるよ。それより、連中が運び込まれたことなんじゃがな」

「連中?」

 眉をひそめた権造に、幻海和尚は彼らが境内の中に入って来たときの様子や、自分が彼らに道理を諭したときのことを説明した。

「まぁ、それで警察に呼ばれた訳じゃが。一応正当防衛ということになった」

「和尚は警察の武術の先生ですからな。それはともかく、それだけで俺を呼んだりはしないでしょう」

「うむ。嬢ちゃんがな」

「那奈が何か」

 沈痛な表情の幻海和尚に、豪気な権造も何かあると感じざるを得なかった。狂信的な連中といざこざを起こしてケガをしたとか。

「今日、自分の金でCDを買ったのじゃ」

「はぁ?」

 自分が考えていたよりも遥かにとんでもない状況に権造は考え込んでしまった。金欲の権化のような那奈が文化的、芸術的なものに対して金をかけるなどというのは天地がひっくりかえってもあり得ないことだと権造は思っていた。

 その、太陽が東から昇るのと同じくらい常識的だと思っていたことを否定されて、権造は精神的に3歩ほどふらついた。しかし、ここが根性の入れどころだと踏ん張り、改めて姿勢を立て直す。

「何かこれまでの行いに思うところがあったんですかね」

「そこのところは判らんが、両者に共通している音楽には少し注意した方がよさそうじゃ。わしも動くつもりでおるが、あんたにも少しいろいろ調べてもらいたい」

「そこのところは分かりました。で、那奈は」

 病院の待ち合いのそばにかかっている時計を見上げながら、幻海和尚は安い自動販売機のコーヒーをすすった。

「ドクターが、くだんのCDを取り上げようとしているころじゃな」



「那奈ちゃん、ちょっといいかね」

「・・・・・ええ曲や」

 心ここにあらずといった風な那奈は大松の言葉が全く聞こえていないようで、目の焦点があっていない状態でぼーっとCDプレイヤーから流れてくる”のむのむ”に耳を傾けている。

「仕方がない」

 大松は、懐から一見するとテレビのリモコンにしか見えない機械を取り出すと、その中のボタンの一つを押した。


 ぼんっ


「けほけほ。な、なんや。何が一体」

 突然頭を煙で包まれて、那奈はようよう機械の山の側から逃げ出した。

「これで話ができそうだな」

「話って・・・あーっ」

 悲鳴を上げた那奈が見た先では、CDプレイヤーが那奈のCDを内蔵したまま煙を吹き上げていた。

「う、うちのCD。音楽がーっ」

 ここでも、那奈が金のことを全く口にしなかったことが、大松にCDの内容に一層不信感を抱かせることになった。

「ドクターっ。どないしてくれんのや。うちのCDがこれじゃ真っ黒焦げやないかーっ!!」

「落ち着けって。大丈夫だ。あのCDプレイヤーはCDのケース部分はシェルター構造になっていて危なくなったら外に射出されるようになっている。CDは無事だよ」

 そう言っているとき、CDプレイヤーが2次爆発を起こした。


 ぼむっ


「うわっ」

「きゃーっ」

 火を吹くCDプレイヤーの爆煙の中からケースの部分が飛び出した。煙をなびかせながら那奈と大松の頭の上を飛び越えたCDケースは、積み上がった機器の山に突っ込むと、豪快に崩れ落ちる機械の雪崩の中に姿を消していった。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「CDケースはチタン製だから大丈夫だ。それより、話があるんだが」

「・・・・・なんや。つまらん話しやったら承知せんからな」

「あのCDのコピーを取らせてもらいたいんだが」

 なぜあの内容的には単調で意味のないメロディーが人の興味を引くのかが非常に興味がある、しかし、那奈からCDを取り上げる訳にも行かないし、店先に並ぶ側から売れて行くものを自分が手に入れるのは難しい。そういう訳でコピーを取りたいのだが、もちろんコピーを取った後はその技術は供与する。

 話を聞いた那奈が眉を寄せて考え始めたのを見て、大松は魚が引っ掛かって来た手応えを感じた。そこで最後の駄目押しである。

「売れる音楽の理屈が分かったら、那奈に販売ルートを任せたいんだが」

「商談成立。ドクター、お願いします」

 那奈が大松の手を取り、ぶんぶか振りながら頭を下げる。狙いは当然別のところにあるのだが、大松はまじめな顔をしてしきりに頷いた。

「それじゃ、ドクター、また明日ねー」

 上機嫌で帰って行った那奈を見送ると、大松は眉をしかめて部屋の中を見回した。

「さてと、どこから手をつけるか」

 派手に雪崩を起こした機器の山は完全に床を覆いつくし、雪崩を通り越して土石流に襲われたかのような状況を呈していた。当然、CDはこのどこかに埋もれていることだけが確率的にはっきりしている。

「自分の部屋で物質探知機を使う羽目になるとはな」

 そうつぶやいた大松は、まず崩壊した山の中から物質探知機を探すことから取り掛かることにした。



 翌日、幻海和尚と権造は大松のアパートへと足を向けた。昨夜、那奈から受け取ったCDを分析した結果を聞くためと、捜索方針を決めるためである。白鳥と那奈はそれぞれバイトが終わってから大松の部屋に来ることになっていた。

「ドクター、失礼するぞ」

『気をつけてくださいね』

 扉の向こうから響いてくる妙にくもぐった声に首をかしげながら幻海和尚はノブに手をかけた。

「ん、ぬっ?」

 扉は手前に開くはずなのだが、その前にノブがびくともしない。鍛え上げられた幻海和尚の腕の筋肉が大きく盛り上がる。

「ぬおおおおおおおおっ」

『あっ、和尚。無理に開けようとしないでくださ』


 べぎっ


「・・・・・・・・・」

 破砕音と共に粉々になった扉の向こうを見下ろした幻海和尚は、目の前に広がる大宇宙のパノラマに絶句した。本棚や鍋といったしろものが惑星や銀河と共にと室内を漂っている。大宇宙の銀河群は、タンスやゴミ箱と共に和尚の目の前でしばらく漂った後に形を歪ませると溶け込むように消え去った。

 後に残ったのは、相変わらず訳の分からない機械たちが積み上がった大松の部屋だった。

「何じゃ、今のは」

「いや、昨日那奈ちゃんを返した後に捜し物をしたんですが不要なものを置く場所がありませんでね。開発中の亜空間倉庫を使ったら今度は扉が歪んで開かなくなりまして」

「そのうちこの世から姿を消す羽目になるぞ」

「まぁ、それはそれで本望ですがね」

 二人がそういう会話を交わしていると、背後で人の気配がした。

「ちわーす。・・・なんだ、こりゃ」

 粉々になった扉の残骸を乗り越えて入って来た権造の第一声である。

「それはともかくとしてドクター、CDの分析はできたかの」

「それはともかくって・・」

 権造が何か言おうとしながら幻海和尚の横に腰を下ろした。日が高くなっているとは言え初冬の風ははや寒い。得たいの知れない機械がセントラルヒーティングよろしく暖かい風を吹き出しているがたいして部屋を暖める役には立っていなかった。

「概略をまず説明しますと、このCDだけでは何の効果ももたらさないことが分かりました」

「ほう」

「ただ、このCDから発せられる音波とある周波数の音波とをくみあわせることで、いわゆるうなりが発生し得るんですが、それが脳波に対して影響を与えそうなんですよ」

「で、そういう音波は見つかったのか」

 権造の問いに大松は黙って首を振った。各方面に対してプローブを射出しているが、その結果はまだ出ていない。

「もう小一時間ほどで佐倉管内のデータはそろいます。それで出なければ、市街に範囲を広げなければなりませんね」

「それでは、それまでのんびりと待たせてもらうとしようかの」

「俺は店をカミさんに任せて来ましたんでちょっと帰らせていただきますよ。データの出るころにまた来ます」

 そう言い残すと権造は大松の下宿を後にして、妻に店番を押し付けている矢尾八へと急いだ。2人だけになり、しばらく経ってからおもむろに和尚が口を開いた。

「それで、若者だけがCDの虜になった理由というのはあるのかね」

「まぁ、まだ想像の範囲なんでかすが」

 大松はそう言って安いお茶を大切そうにすすった。

「年を取ると高い音が聞こえなくなりますよね。それが発信されている音を聞かずに済んだ理由。もう一つは、ああいう訳のわからんものに対して興味を抱くのがせいぜい20代前半までということですね」

「わけのわからんものか」

 何がわけが分かり、何がわけが分からないかは年代と人の個性で大きく変わる。目的意識のない連中にとってはのむのむ教は大いに意味のあるものだったのだろう。

「どちらにしても、あの那奈ちゃんがはまったというのはよほど強烈な催眠効果があったんでしょうね」

「そうだな。それにしても」

 ずずっと、音を立てて幻海和尚もお茶をすすった。

「こういう事がなければ本当にのどかなのにの」

 鋭い眦のままでのんびりと破れた扉の向こうを眺める幻海の横顔を、権造は何か奇怪なものを見るかのような目で見つめていた。



「どうも、出ましたか、結果は」

「ええ、ついさっき出たところです」

 一時間ほどして権造が大松の部屋の扉の枠をたたくと、そこには既に幻海和尚はいなかった。白鳥と那奈もまだ来ておらず、二人は安いお茶を飲みながら再び打ち合わせをすることになった。

「和尚は」

「檀家に不幸があったとかで、慌てて帰りましたよ。で、結果なんですがね」

 慣れた手つきで大松が端末を操作すると、壁掛け式の大松特製特大ディスプレイに佐倉市の全図が表示された。全図には、赤い球体が数多く描かれ、駅前ではその下の地形が見えないまでに球が密集している。

「CDと共鳴現象を起こしそうな音源が相当数ありました。それでまず、電車の音とか、工事の雑音とか、生活雑音はとりあえず取り除きます」

 大松の言葉と共に、地図上の赤い球は次々と姿を消して行く。ほとんどの球が消えた後で、さらに大松が言葉を続けた。

「さらに、発生源がこちらで明らかにつかめるものを除きます」

 そして、残った赤い球は、駅前の1つとなる。

「で残ったのが、ここですね」

 最後の1カ所は商店街の中の一角であり、権造も子供たちを連れて行ったことのあるよく知っている店だった。

「駅前のCD屋さんか」

「でしたっけ。何の建物かは私は知らないんですがね」

 その、駅前のCD屋はどちらかというと若者向けの製品が並ぶ店で、子供のいる権造ならばともかく、一人暮らしの大松にはとんと縁がない。権造は位置をもう一度確かめるとすぐに立ち上がった。

「とりあえず、その店の周りを回って見るか。白鳥と那奈が来たら、すぐにCD屋に行くように行ってくれ」

「音の方はどうしますかね」

「そちらは適当に消せる方法を探しておいてくれや。それから、豪雷号と、飛竜をいつでも出られるようにしておいてくれ」

「はいはい」

 それだけ言い残すと、権造は挨拶する時間も惜しいとばかりにさっさと大松の部屋を後にした。

「聞き込みか。こういうことは、那奈が適任なんだがな」

 権造は独りごちつぶやくと、頭をかきながら駅前へと足を向けた。


「あれ、おやっさんやないの。こんなところで何油を売っとるん?」

「なんだ2人して。こんなところで何やってるんだ」

 京成佐倉駅まで来て、ぶつぶつと、適所でない仕事に取り掛かろうとした権造に、背後から声がかかった。権造が振り返ると、白鳥と、その遥か下方に那奈がいた。

「ちょっとね、のむのむCDの流通ルートを調べていたんやけど、その大元がこのCD屋さんやと言うことが分かったんで見にきたんや」

「竜翔さん、それ私の台詞なんですけど・・・」

「それで、おやっさんは?奥さんに店を押し付けて昼間っからパチンコでもしに来たんか」

 白鳥のか細い自己主張を全く気にも止めず、那奈は値定めをするかのような冷たい目付きで権造を見据えた。

「市場調査だ」

「市場調査ぁ?たかが八百屋がそんなこと」

 あからさまな軽侮の眼差しが権造を貫いたが、権造はそれに臆するでもなく、平然として適当に思いついたことをでっちあげた。

「八百屋も消費者のニーズと市場の動向を捕らえておかなければ商戦に敗れるのは大規模な商店と一緒だ。例え小なりとは言え自分の店の経営に無心ではいられない。商売人として当然のことと思うが」

 権造としても、この程度のことで那奈が納得するとは当然思っていなかった。間違いなく来るであろう反撃に対して心の中で身構える。

 しかし、権造と白鳥の予想とは異なり、那奈は目を潤ませながら権造をじっと見つめていた。

「あのー、竜翔さん」

「感動や・・・」

 震える声でうっとりとつぶやいた那奈が後を続けた。

「うち、おやっさんのことをてっきり、奥さんに品の仕入れから店の切り盛りから売り子まで全部押し付けているろくでなしやと今まで思ってた」

「あのな」

「それが、ここまで商売のことを常に考えている人やったとは・・・・。うち、感激してしもた。そや、商売は小さい大きいやない。もうけなあかんと言うことについてはすべてが一緒なんや」

「おいおい」

「メモしとこ」

 腰のポケットから取り出した手帳の、びっしりと書かれた数値の山の中に真剣にメモをしている那奈を見ながら権造は何か大袈裟なことになってしまったことを感じざるを得なかった。

 しかし、ここは押しが効く。

「俺は調査と販促も兼ねてCD屋に用があるから、那奈はここの周りの店で最近妙なことが起こっていないか聞き込みをしてくれないか。ちょっと、この周辺で妙なことが起こっているらしいんでな」

「はーい」

 妙に素直な那奈に気味の悪さを感じながら、権造は白鳥を差し招いた。

「白鳥は、俺と一緒だ」

「ほんじゃね。白鳥はん、CDの流通ルートの調査は代わりにやっといてや」

「はぁ」

 店に入りながら、権造は白鳥に先程浮かんだ疑問をぶつけた。

「何だ、流通ルートって言うのは」

「なんでも、大松さんに、のむのむCDの密売をしてもらうとのことで、仮想敵の正規の流通ルートの情報を手に入れたいんだそうです」

「また、無茶苦茶考えてるな」

 平日の朝方ということもあり、まだ客は全く入っていない。見かけよりも広い店内をゆっくりと二人は見て回ったが、どこをどう見てもごくごく普通のCD屋である。ついでに、くだんの『のむのむCD』がほとんど置いていない。

「そうそう怪しい雰囲気にはしないでしょうがねぇ」

 権造から手短に事の説明を聞いた白鳥が、小声でつぶやいた。

「それじゃ、ちょっと聞いてみるとするか」

 それだけ言うと、権造は若い店員が一人で店番をしているカウンターへと足を向けた。白鳥は、権造が離れるとCDの棚の隅の方に移動して、しゃがみこむと床に右手をついて目をつぶった。

「ちょっといいかい」

「は、はい。何でしょう」

 心ここにあらずといったふうにボーッと店番をしていた店員は、突然目の前に現れた権造に驚いて一歩後ずさった。

「ここの店は、のむのむCDはあれだけしか置いていないのか」

「あ、はい。最近よく売れてまして、すぐ品薄になっちゃうんですよ」

「そうか、ここならあると思ったんだがな」

 一瞬、うろたえるような表情が店員の顔に浮かぶのを見逃さなかった権造だったが、それとは気が付かないように話を続けた。

「いや、子供にここが穴場だって聞いたんでね。ほかの店ではもう手に入らないものもあるかと思って来たんだが」

「でしたら、次に入ったときにお知らせ致しましょうか」

「そりゃありがたい。で、次の新譜はいつ出るんだ」

「ちょっとはっきりとは分かりませんが、確か12月末頃だったと思います」

「ああ、どうも。ところで、あんたここの街は来て長いのかね」

 突然話題が変わって、頭の切り替えがついて行かないらしい店員は首をかしげて店の奥に目をやった。しかし、それもすぐにやめて権造に向き直る。

「いえ、夏に越して来たばかりなんですけど」

「そうか、それじゃいい店もよく知らないだろう。実はうちは八百屋をやっているんだがね」

 自分の店のチラシを出しながら営業を始めた権造をよそに、白鳥は右手を床についたままで精神を集中していた。右手に感覚が集中し、ほかの器官からの信号が排除されるにしたがって白鳥の頭の中にはCD屋の地下の様子が明瞭に浮かび上がった。

 地下ではのむのむのラベルのついたCDが棚の中にずらりと並び、その間を店員たちが忙しく動き回っている。白鳥が不思議に思ったのは、北面する壁が灰色の霞のようなもので覆われており、それに店員たちが出入りしていることだった。北の壁の向こうには部屋などない。

「なんだろう」

 白鳥が精神の集中をやめて立ち上がったのは、権造が持ってきた自分の店とその他商店街の各店のチラシを店員に押し付けたのとほとんど同じだった。

「それじゃ、佐倉駅前商店街をよろしく」

 権造は手をさっと上げると、出入り口で待っていた白鳥と肩を並べて店内から出た。

「どうだ、何か見つかったか」

「ええと、地下があるような気がしますね。あの建物」

「やはりな。で、階段はどこにありそうだ」

「さあ?」

 これまでも事件のほかのことで何度も同じように透視をしたことがあったが、白鳥は本当のことは誰にも言っていない。あくまで、勘の産物としてSPATSのメンバーにはぼかした情報だけを伝えている。一方で、権造の方も単なる勘とはいえ的中率の異様に高い白鳥の”虫の知らせ”を別に不審がることもなく大いに信頼している。

「あ、そうだ。やっぱり流通元はあそこみたいですね」

「何か手掛かりでもあったか」

「いえ、さっき権造さんが次の新譜のことを聞いていたでしょう。まだ、次の新譜の発売日は決まっていないんですよ」

「だが、販売店が速めに発売日を知っていたところで何も不審な点はないんじゃあないか。むしろ当たり前のことだと思うんだが」

 一般的に見れば当然の考えだが、白鳥はこの権造の言葉に首を振った。

「流通ルートをずっと逆にたどって言って最後にたどり着いたのがここだったんですよ。それで、ここまでのルートでは誰も次の新譜の発売日を知らなかったんです。そういう情報を、どう見てもアルバイトの店員が知っていたというのは」

「なるほど、おかしいな。しかし、よくそんなことまで調べ上げたな」

「竜翔さんの執念ですよ」

「恐ろしいもんだ」

 一方、二人がそう言っているちょうどその頃、突然の不幸に呼び出された幻海和尚は予想だにしていない事態に陥っていた。御経を唱え出した直後から、のむのむの大合唱の中に包み込まれてしまったのである。


「おかしいとは思っていたが、まさかこのようなことになろうとは・・」

 途中で経文を唱えるのを放棄する訳にも行かず、幻海和尚は必死にのむのむの大合唱に耐えていた。幻海和尚の後ろでは、うつろな目をした中年のおばさんたちが声を張り上げて”のむのむ”の御経バージョンらしきものを唱えている。

「南無妙法蓮・・・・・」

「のーむのーむのーむのーむのーむのーむのーむのーむのーむのーむのーむのーむのーむのーむのーむのーむのーむ」

 口では経文を唱えながらも次第に頭の中が白くなって行くのを感じながら、幻海和尚はなぜか無上の幸福を感じるようになっていた。


「ここらへん一帯、一通り聞き込みは終了やね」

 白鳥と権造が駅前の十字路に来て間もなく、二人の姿を認めた那奈が両手に一杯の荷物を抱えながら道路を渡ってきた。

「とりあえず共通しているのは、夜になると地下から怪しげな物音がする言うことやね」

「物音というと、人が歩き回るような」

「そんな生易しいものやないって。ここらへんCD屋を中心として半径100メートルくらいの範囲なんやけどね、重たいものを引きずるような音や、一昔前の怪獣映画みたいなでかい足音がしてたんやて」

 那奈の言葉に権造と白鳥の二人は首をかしげた。何か、話が全く別の方向に行ってしまっているようである。そして少し考えてから、権造はCDを調べた結果について那奈に何も話していないことを思い出した。

「ええと、竜翔さん。昨日買ってたCDのことなんですけど」

「ん、なんや?おやっさんまで変な顔して。まさか、割れてもうたとか」

「いや、ええと」

 何と言って説明したらいいか白鳥が振り返って権造を見たが、権造もどう言い出せばいいのか見当もつかず、首を振って白鳥にげたを預けた。

「その・・・。八尾さんにさっき聞いたんですけど、ドクターが調べたときに」

「壊してもうたんやな!?ドクター、よりによってなんつーことを」

 勘違いで那奈が盛り上がろうとしたとき、3人のポケットがそろって呼び出しを告げた。地域防衛隊総本部からの呼び出しである。直後に基地から大松の声で連絡が入った。

『全員空中基地に転送します』

「こらぁ、ドクター!!うちのCDを・・・」

『転送』

 大松の声ではあるが実はSPATS空中基地のコンピューターの音声に過ぎない連絡メッセージは、無情に那奈の台詞を無視すると、3人を基地内に転送した。

 SPATSの空中基地は佐倉市上空に浮かぶ巨大な飛行船の中にある。佐倉市の上空に常に専位するこの飛行船は、通常は周囲を包む霧によって外見上雲にしか見えない。しかも、動きながら上空8千メートルという高空を飛んでいるため、市民にの中にそこがSPATSの秘密基地だと知るものはほとんどいない。

 転送され、ブルーに銀のストライプを基調としたSPATSのクルースーツに身を包んだ5人は会議室に集まった。もっともそこでひともんちゃくがあったのだが。

「ドクター!うちのCDを一体何したん」

「なっなんだいきなり。CDがなんだって」

「とぼけるんやないわい。昨日預けといたCDや。まさか再起不能やないやろな」

 激しい剣幕の那奈と、一緒に着いた権造と白鳥の顔を交互に見比べながら大松は懐から一枚のCDを取り出した。

「オリジナルはこれな。コピーはまだ性能に難があるから待っていてくれ」

「は?CDが壊れたんじゃぁ」

「だから、何の話だ一体」

 しきりに那奈が首をかしげ、自分のCDと白鳥たちの顔を見比べていると、最後の一人、幻海和尚が会議室に入ってきた。その両手には紙袋に一杯入ったCDがつるされていた。

「ドクター、このCDのバックアップをとっておいてはくれんか」

「はぁ?和尚まで一体何を」

 そう言いながらほかの4人が見た紙袋の中には、『のむのむ経大全集』とパッケージに書かれた通し番号のCDがつまっていた。

「わしは今日やっと悟りを開いた。今までいかにウソまやかしの世界に生きてきたかがよおくわかったわい」

 しばし唖然とした一同だったが、すぐに我に返ると那奈がまず反応した。

「さすが和尚。やっと”のむのむ”の素晴らしさに気が付いてくれはったんか」

「うむ、遅ればせながらな。やっとわしもその魅力に気が付いたということじゃ。昨日は済まなかったの」

「ええって。まぁ、ゆっくりと語り合おな」

 一方、取り残された観のある3人は顔を見合わせてこの異常事態について話し合っていた。

「これは、やられたか」

「みたいですねぇ。どうしましょうか」

 しかし、権造と白鳥の言葉に大松は不適な笑みを浮かべると、一つの器械を取り出した。

「実は、CD音楽の影響を中和する装置を開発しておきました」

「さすがと言うか、何というか」

「暇ですねぇ」

 あまりにも正直すぎる白鳥の感想を無視して、大松は語り合う二人の間に割って入った。

「ちょっと失礼。和尚。ちょっとそのCDの中身を確かめたいんで、ここに入れてもらえますか」

「うむ、ここでいいかの」

「はい。で、このイヤホーンを耳にはめてください」

「うむ」

 幻海が耳にしっかりとイヤホーンをはめたのを確認すると、大松はおもむろに中和装置のスイッチを入れた。しばらくは、恍惚とした表情の幻海がいるだけだったが、突然、和尚の額に青筋が立った。

「なんじゃ、これは!!」

「成功ですな」

 中和装置の成果に満足しながら、大松は続いて那奈に向かった。那奈は、と言うと、豹変した幻海和尚を見て何が何やら分からない様子である。

「何がなんなんや、いったい」

「そうそう、那奈ちゃん。コピーしたCDなんだが、試しに聞いて見てくれないか」

 そう、言い終わるより早く、大松はほうけている那奈の頭にヘルメットのような、プラグが周囲にびっしりと生えた装置を素早くかぶせた。

「な、ちょっ。うなっ」

「こら、暴れるな。和尚、見てないで手伝って」

「お、おお」

 二人掛かりで那奈を押さえ付けたところに権造と白鳥も加わって、4人がかりで小さな那奈一人を押さえ込む。大袈裟なようだが、白鳥と大松が跳ね飛ばされたところを見ると、意外とそうでもないのかも知れなかった。

「・・・・・・・・・・ありゃ?」

 かたずを呑んで見守る4人の間で、那奈が目をしばたたかせた。そして、しばらく周りを見回すと、重大なことに気が付いたらしくいきなり立ち上がった。そして、慌てて大松から返してもらったCDを会議室内のプレイヤーに取り付けると、再生ボタンを押した。

『のむのむのむのむのむのむのむのむのむのむのむ・・・・・』

「な・・・・。何でこんなもんに4ケタも・・・」

 再び惚けてしまった那奈の背後で、壁面の一角を占める巨大なモニターの横にある着信ランプがついた。

「は。でも、コピーCDでもうければそれくらいの損失は」

「静かにしろ、司令だ」

 モニターの正面にある自分の席に着いた幻海和尚が、大松に声をかけようとした那奈をたしなめた。それからすぐに、モニターが一人の精悍な男を映し出した。

 世界中の地域防衛隊を束ねる総司令官大国田観造である。

 ただ、精悍さ、周囲を圧する迫力という点で大国田を凌ぐ幻海という人物がここにはいたりする。

「早速だが始めよう。現在世界各地で出現を確認されている怪獣たちの殆どが地底人によるものであることは知っていると思う。本部ではこれまでの怪獣の出現パターン、関与した地球人協力者たちに対する尋問、捕らえた地底人の検査から情報を収集してきた。

「そして昨今特殊な波動を出すCDの存在が確認され、それの流通ルートを割り出す作業も続けてきた。その結果、地底人たちの前線基地が君たちの下にあるであろう事が確信できるに至った。

「君たちの任務は地底人たちの前線基地を発見し、以後の怪獣による侵略に対して先手を打つことである。地底人たちの侵略準備はもはやほぼ完了していると思われ、一刻の猶予もならない。SPATS、出動せよ」

『はっ!!』

 5人がいっせいに立ち上がり敬礼する。が、

「ちょおっと待ったぁ!」

 一人那奈がこの高揚に水を差した。

「お言葉やけど総司令。うちらの仕事は怪獣退治であって隠れている地底人たちに対する捜査ではないはず。だいいち、そんな装備は全く持ち合わせてへんやないですか」

 これに大松が口を挟もうとしたが、那奈はその隙を与えずにまくし立て続けた。大松の隣となる位置にいた権造が思いっきり大松の尻をつねり上げたので、大松の口は大きく開いた以上のことをできなくなっている。

「やはりここは超過勤務やから、特別手当でも出してもらわんことには納得いきません」

「いや、君たちにはその程度の能力はある。そういう人材を選んだのだから・・」

「いいえ、例え才能があっても、怪獣退治だけを考えて訓練してきたうちらに取っては未経験のことです。士気高揚のためにも、その程度の出費は認めてください」

 労働争議で争っているような気分に陥りながら、大国田は泰然たる表情のままで首を縦に振った。

「・・・・分かった、認めよう。くれぐれも、手遅れになることのないように頑張ってくれたまえ」

 それだけ言い残すと、それ以上の会話を避けるようにモニターの映像は消えた。大国田の映像がある間謹直な表情を崩さなかった那奈の顔に笑みが浮かぶ。

「ブイ」

「さすが、既に始めていることに対してまで特別手当をせしめるとは」

「いややわぁ。そんなに褒めんでも、うちはSPATSの会計担当として当然のことをしたまでやがな」

 すっかり元気を取り戻して柄にもなく照れている那奈を白鳥と大松が囃し立てている横で、幻海と権造が顔を寄せていた。

「確か那奈は4人姉妹でしたな」

「だったか」

「ひょっとして、似たもの姉妹じゃないんですかね」


華奈「くしゅん」

阿蛇「ん、風邪ですか」

華奈「違うと思うんだけど、・・・くしゅん」

阿蛇「2回ということは言われてるのは悪口ですな」

華奈「失礼ね。わたしは阿蛇さんと違って人に悪口を言われるようなことをしたことはないわよ」

阿蛇「寝言は寝てから言ってください」


「あんなのが4人もいたら日本の将来はどうなるのやら」

「誰があんなのやて?」

『いや、なにも』

 期せずして二人の台詞がはもってしまったのがすべてを物語っているだろう。それはともかく、5人は短い打ち合わせの後直ちに行動を開始した。目的地は駅前のCDショップである。


 さて、今回が実質的にSPATSの初仕事である以上、佐倉市民のSPATSに対する評価というものはまだ定まっていない。

 当然、

「ママ、SPATSだよ」

「あら、本当だ。いーい?この街はね、SPATSに怪獣たちから守られているのよ。みんなが楽しく平和に暮らせるのもSPATSのお陰。さ、手を合わせて」

 てなふうに道行く人々に拝まれるということはまだない。また、

「ママ、SPATSだよ」

「しっ。目を合わせるんじゃありません!」

 などということもない。すべてはこれからなのである。


 閑話休題


 地底戦車豪雷号と飛竜を合体させて地中に隠した5人は散開してCDショップを包囲できる形に展開した。

「閉まってますね」

「さっきまで開いていたのにな」

 ほぼ正面に位置するのは白鳥と権造の二人である。後の3人は、それぞれ左右に別れて店に出入りがないかを見張っている。

「人の気配がせんな」

「さすが和尚。その感覚はケダモノ並やな」

 那奈に茶々を入れられながらも幻海和尚は素早く判断を下した。

「裏口から中に入る」

 SPATSの5人は風のように店と店との間から裏口へと姿を消した。当然、目撃者はおらず、このあたり、地域防衛体本部での訓練は完璧である。

「ドクター、中に人はいるか」

「・・・・・扉の内側にはいませんね」

「多分大丈夫ですよ」

 大松の確信に満ちた表情と白鳥の勘に裏付けされて、幻海和尚は決断した。

「よし、突入じゃ」

 大松が手早く裏口のカギを開け、5人は建物の中に滑り込んだ。そして、パラライーザーを手にした那奈と権造が廊下の角まで走る。二人を護衛するように銃を構えていた幻海と白鳥も、人の気配がないことを確認すると、権造と那奈を左手に先行させ。タイミングを見計らって正面の扉をたたき破った。

「手を挙げろ・・・と」

 店内には正真正銘だれもおらず、幻海と白鳥の反対側からは権造と那奈が同時に飛び出してきていた。

「何や、もぬけの殻かいな」

「何の手掛かりもなしかの」

 ペンライトで店内をくまなく照らす那奈と幻海和尚がCDの棚を見ていると、突然カウンターに積み上げてあったCDの山が崩れ落ちた。

「わあっ。す、すみません。て、あれ?」

「すみませんやないわい。だれかに気付かれたらどないすんねん」

 那奈がCDの山を盛大に崩した白鳥に食ってかかったが、白鳥はその声を聞き流して床を探っていた。

「ドクター。ここ、何かありませんか」

「どれどれ・・・・お、蝶番があるな」

 白鳥が指したところをじっと見ていた大松の目に、床のタイルとタイルの継ぎ目に隠してある蝶番が見えた。同時に見つけた把手らしきものを大松がいじると、床板は音も立てずに起き上がり、そこには地下へと続く階段が現れた。

「よくこんなのに気が付いたな」

「CDが崩れたときに、何か空洞のようなものがあるような音がしましたから」

 小声で大松と白鳥がやり取りをしているのを聞いていた那奈は起き上がった厚さ1メートルはある床板を見ながらつぶやいた。

「たかがCDが落ちたくらいで反響するような床か?コレが」


 物音を立てないようにSPATSの5人は慎重に階段を下りて行った。先頭を幻海和尚、それに続いて権造、那奈、白鳥、大松の順である。

「おお、ずいぶんおるな」

「いっぱいやね。一気にいかんと逃げられるで」

 幻海和尚が階段の角から顔を出し、権造がそのうえに、那奈が下からやはり顔を出した。店員たちは3人に気が付く様子もなく、北側の壁の中に消えては出てきてCDの棚にケース入りのCDを補充している。

「よし、いくかの」

 幻海和尚がそう言った直後、大松が遠隔操作で豪雷号を南壁から地下室に突入させた。崩れ落ちる壁にうずめられた店員たちの体が縮み、地底人特有の頭でっかちのチビになっていく。

 そして、光線銃を構えて幻海和尚が地下室に駆け込んだ。

「SPATSじゃ、手を挙げろ!」

 言うなり威嚇射撃を発砲する。しかし、豪雷号にも驚かなかった何人かは警告を無視して北の壁に向かって走りだした。権造が階段から駆け出し、幻海和尚も一発威嚇射撃をして止まっている店員を牽制してから逃げようとした店員を追った。

 こうなると那奈が展開の邪魔になってくる。接近戦向けではない那奈は、室内に突っ込むよりも入り口から援護に徹したいのだが、後ろにはまだ白鳥と大松が控えているのである。ここで那奈は自分の体格を十二分に活用したある手を考えついた。

「ええで、白鳥はん、うちの頭の上を飛び越えてって!」


べんっ


 那奈がそう言い終えるよりも早く、戸口付近でしゃがみこんだ那奈の体を白鳥が思いっきり踏んずけた。白鳥は、そのまま室内に飛び込むと、逃げようとした一人にタックルを加える。

 床に派手にキスをした那奈がゆっくりと体を起こした。

「あたたたたた、なんつーことを・・」

「のけいっ、邪魔だ」


どべしっ


 その上を、大松が、光線銃を手に那奈を踏み潰した。大松は、間一髪壁に消えようとした男の足元を狙い、男の動きが止まったところを幻海和尚が蹴り倒した。

「む・・・・・」

 その間、床にへばりついたまま数瞬動かなかった那奈が、絞り出すような声とともに跳び起きる。

「胸がぺったんこになってもうたら、どないすんねん!!」

 その頃には、壁の向こうに逃げて行った1人を除いては男たちは押さえ込まれており、既に勝負はついていた。叫んだ那奈に皆の目が集中する。

「つぶれるほど胸があったんですねー」

 とは、余裕のできた白鳥のせりふである。しかし、事態が一段落ついたと思い、皆の気が緩んだところを狙うかのようにして巨大な咆哮が地下室を揺るがした。

「な、なんだ、いったい」

「いかん、皆撤退じゃ」

 幻海和尚の言葉を受けて、ほかの4人も素早く豪雷号に乗り込んだ。押さえ付けられていた店員たちは、慌てて壁に駆け込もうとする。しかし、そこに壁を埋め尽くすトカゲのような顔が現れて店員たちを飲み込んだ。

 トカゲというよりもむしろティラノザウルス・レックスと言った方がしっくりとくるそれは小さな手でクイクイと傾いたサングラスを直すと、再び咆哮を上げて立ち上がった。

 一方、SPATSの飛竜と豪雷号はCD屋から80メートルほど離れた工事現場に姿を現した。既にCD屋だったところは全高50メートルはあるサングラスをかけたティラノザウルスに踏み潰されており、そこにいた店員がどうなったかは火を見るより明らかであった。

 そして、飛竜から那奈が、豪雷号からは白鳥が飛び降りた。それぞれのパイロットは権造と幻海であり、那奈と白鳥は地上からの支援が任務である。大松は転送されて空中秘密基地へと向かった。

「んじゃ、頑張ってな」

「ちゃんと支援しろよ」

 そう言い残すと、飛竜と豪雷号は怪獣へ向けて飛び立っていった。

「それじゃ、私は駅前に行きます」

「うちは商店街で避難誘導や」

 そう言いながらパラライザーをしまい込む那奈を見て、白鳥は眉をしかめた。

「怪獣に対抗しようという気はないんですね」

「あんたはか弱い女の子に何を期待しとるんや」

 あえて那奈の台詞に対し、白鳥はつっこまないことにした。何も言わずに駅前に向けて駆け出した白鳥に何か言おうとした那奈だったが、現在の状況に気が付いて我に返ると、怪獣の周辺にいる街の人達に向かって避難誘導を開始した。


「思ったよりでかいですな」

「それでこそやり甲斐があるというものじゃ。行くぞ、合体じゃ」

「おう!」

 地中とは逆に、飛竜が豪雷号を追い越して急上昇する。垂直になった飛竜の噴射が止み、噴射口に豪雷号のドリルがドッキングする。

 豪雷号と飛竜をつなぐように、厚さ10メートルのコンクリートをチーズのように切り裂く超硬性の羽が現れた。

「せれやぁっ!」

 5千メートルの高空で反転すると、幻海は一気に飛竜を降下させる。刃が太陽に輝き、地底獣に突進する。

『ぐがっ』

 これに一瞬顔を背けた地底獣が手近なビルのアンテナを引きちぎると、飛竜に向けて投げ付けた。これを紙一重で交わした飛竜の羽根が地底獣の腕の肉をえぐる。

『うぎゃおおおおおおぅぅ』

「わ、わ、なにやっとるんや」

 痛手を負い、暴れまわる地底獣は近くのビルを手当たり次第に殴りつける。小なりとはいえビルの破片はサッカーボール大はある。それが避難中の市民の足元に転がってくるのだ。

「当たったら死ぬやん。もうちょっと考えてやなぁ」

 それに答えるかのように、小さなかけらがコーンと那奈の頭を打った。


 一方、大松は上空で最初の一撃から地底獣に対する最良手を既に確認していた。それまで八千メートルの高空で雲の中に隠れていた空中基地の白鳳が降下を開始した。飛行船に似合わない急角度で船首を地底獣に向けて速度を次第に速めていく。

「照射」

 声と同時に白鳳の船首から凝集された光の束が放たれた。レーザー砲と言っても違和感がないほどに凝集された光の束がぴたりと地底獣のサングラスをかけた顔を照射した。

『ぐぎゃっぐぎゃっぐぎゃっ』

「ようし、とどめだ」

 飛竜と豪雷号が分離し、高空で左右に別れる。地底獣は両手で顔を覆い、首を振っていて両者が見えている様子はない。2機は大きく上空で距離を開くと、美しい弧を描いて互いに逆方向から地底獣に切りかかった。

「クローバーリーフ・アタック!」

 2機が青空に描いた弧が地底獣で交差しようとしたその瞬間、地底獣の口がかっと開いた。

「おわっ」

 権造が操縦桿を一気に引き、豪雷号が急上昇する。地底獣の青く輝く光を辛うじて避けた豪雷号を、さらに地底獣の口が追った。

 その地底獣の横顔を、一条の光が焼いた。ビルの上から熱戦銃を撃った白鳥に地底獣の目がぎろりと向かう。

「まずい、白鳥君離れるんだ」

 充電を完了した凝集光を再び地底獣に放った大松だったが、それよりわずかに早く地底獣の輝く光がビルを白鳥ごと飲み込んだ。光の中で灰と化し崩れていく駅前ビル。

「おのれえっ」

 幻海の飛竜が地底獣の口を切り裂く。が、鋭い嗅ぎ爪が飛竜を弾き飛ばした。凝集光で皮膚を焼かれ、煙を上げた地底獣は、近場にあった救急車を踏み潰すと再び咆哮を高らかに上げた。

「くそー。ありゃ、なんやあれ」

 地底獣を見上げていた那奈がその視線の先に妙なものを確認した。空中に浮かぶ巨大な球体。最初小さく見えていたそれは、近づくにつれて地底獣並の大きさがあることが分かった。透明な真ん丸のそれは、ふよふよと漂いながら地底獣の真上まで移動する。

「和尚、何ですかありゃ」

「わしに聞くな」

 突然現れた不可解な球体にどう対応するべきか決めかねている2機が空中で怪獣2体の上を旋回する。その下で、透明な球体はそれまで保っていた形を突然崩し始めた。

「め、面妖な。・・・はっ、そうや、町の人をまた逃がさんと」

 あわてて形を変えた球体から避難した人達を移動させ始めた那奈をよそに丸太ん棒のような形に変わったそれは、呆然と見上げる地底獣の横っ面を張り飛ばした。

『ぐぎゃあっ』

 たたらを踏んで何とか踏ん張った地底獣の横っ面を今度は逆方向から透明な丸太が張り飛ばす。地底獣は今度は踏ん張り切れず、頭からビルの中に突っ込んだ。

「とりあえず、敵ではないようですが」

「敵の敵が味方とは限らんが、チャンスじゃな」

 飛竜と豪雷号は再び空中で合体すると、急降下して地底獣を狙う。ビルから辛うじて体を抜き出した地底獣の左手を飛竜の羽根が切り落とす。そこを三度張り飛ばそうとした透明の物体を地底獣はがっきと受け止めた。そして、そのまま体をひねるとビルにたたきつける。

 しかし、透明なそれは体を長く伸ばすと地底獣の体に巻き付いた。蛇のような力が地底獣を締め付け、ミシミシという音がその皮膚から響き、体の中から空気を絞り出された地底獣の声にならない咆哮が風のように流れる。そして、地底獣を巻止めたまま、透明な物は空中に浮かび上がり、そして地面に地底獣を叩きつけた。

 それを見計らって、合体した飛竜が地底獣の体に突っ込んだ

『ぎゃあああああああああっ!』

 佐倉市街を揺るがす絶叫。

 巨大な風穴を胸に空けた地底獣の体が傾いたかと思うと、命を失った体は佐倉駅前にどうと倒れた。その向こうに豪雷号と飛竜が飛び去って行くのが見える。

「やった、やった。あれ?」

 近くにいた人の手を取り合えず取って跳びはねて踊ろうとした那奈の目に鋭利な刃物ですっぱりと切り取られたかのような佐倉駅の駅舎が、ゆっくりと倒れて行くのが目に入った。

 飛竜の鋭利な羽根できれいに切り取られた駅舎は、轟音とともに地底獣の上に倒れると、地底獣の爆発に巻き込まれて、粉々にその姿を消していった。



エピローグ

「な・ん・と・か黒字かな〜」

 そう那奈は駅前で電卓をたたきながらつぶやいた。怪獣を倒したのはいいが、駅舎を壊してしまった責任。これはSPATSへと修理費としてきちんと請求される。本部からの援助金を含めればなんとか黒字決算であるが、最後のアレがなければ今少し謝礼は多かったはずである。

「不可抗力なのになぁ。やぱし、早いとこ評価を高めて佐倉の顔になるようじゃなきゃ駄目やな」

 ぶつくさ言いながら収支台帳に記録していた那奈の背後から遠慮がちに声がかかった。

「あのー、竜翔さん」

「うわっ。な、なんや白鳥はんやないか。仕事もせんと、今までどこに姿をくらましとったん」

「いえ、仕事ならきちんとこなしてましたけど」

「寝言は寝たときに言うてくれな。それより」

 それまで収支台帳から目を離そうともしなかった那奈が顔を上げた。

「あれやあれ。あの透明なみょーなやつ。あれのことなんやけどな」

「はぁ、あのゼリーみたいな。なんだったんでしょうね」

 この辺り、なぜか白鳥の台詞には白々しさが交じるのだが。那奈はそのようなことは全く気にならないようで、すぐに眉間にしわを寄せて考え込んだ。

「何かはどうでもええ。要はあの名前をどうするかや」

「は?」

「名前や名前。ゼリーちゃんじゃべたべたやし、かといってマルちゃんじゃ格好悪いし。なんせ、グッズの売れ行きに影響するよってね、慎重に名前はきめんと」

「グッズですか。・・・・・ええっと、それなら、ジェリーっていうのはどうでしょう」

 この、白鳥の言葉にポンと那奈が手をたたいて顔を上げた。

「あ、それいい。ジェリーちゃん人形か。よし、う・れ・る・ぞーっ」

「はぁ」

「あ、安心し。きちんと白鳥はんにも名付け親のロイヤリティーはあげるよってな」

「はあぁぁ」

 気の乗らない様子で生返事をした白鳥だったが、突然その体を背後から羽交い締めにされた。

「白鳥!生きていたか!!」

 ひしっと抱き締められた白鳥の体が中に浮かび、地底獣のように体中の空気を絞り出された白鳥のうめき声が権造の腕の中から聞こえた。

「し、死ぬ」

「わぁ。白鳥はんとおやっさんてそんな関係やったんか」

 冗談めかして言った那奈の台詞を、幻海が厳格な表情で後をついだ。

「これから長い付き合いじゃ、仲間を思う気持ちに貴さこそあれ避ける理由はないじゃろう」

 そう、彼らの戦いはまだ始まったばかりなのである。地底獣の侵略から佐倉の平和を守れるのは君たちだけなのだ。ゆけ、SPATS、僕らは君たちのことをいつでも応援している。

佐倉公文書第2554381号



「でもやっぱり、男同士が抱き合うというのには抵抗があるな」

「えんがちょ」

SPATS PRESENTS

あとがきにかえて

幻海「うむ、ここまで読んでくれた衆には礼を言わねばなるまい。よくぞここまで読み進んでくれた」

那奈「ひょっとしたら、後ろから読んでいる人もいるかもしれんで」

白鳥「世の中にはひねた人が多いですからねぇ」

那奈「それはともかく、ここでも後書きはこの方式かいな」

大松「これが作者としては最も楽ですからね。今頃朝風呂にでも入っているころでしょう」

白鳥「いいなぁ、楽そうで」

権造「若いくせに何を言っとるか。びしっとせんか、びしっと」

幻海「まったくじゃな。そんなことでは先が思いやられるわい」

大松「では、本題に移りましょう。当作品は、だいぶ昔のTRPGの、地域防衛隊RPGという物を元にしてかかれています。作者がGMを担当した訳ではないので、厳密には作者というのは語弊がありますね」

那奈「盗作品?」

白鳥「言い得て妙ですねぇ」

権造「で、怪獣物のわりには作者の属性が出て前ふりがやたらと長いという訳だな」

幻海「この後書きのスペースもほとんどないそうじゃからの」

那奈「ええと、あと、500字やね」

白鳥「大丈夫ですよ、書くことなんてないんですから」

那奈「したら、黙っとき」

大松「まぁ、原作者ではないし、キャラクターも作者作成は那奈ちゃんだけなので、実際のプレイとはだいぶん掛け離れたところが多々あります。ま、そこは同じだったらかえっておもしろくないですから」

権造「大松、妙に紳士ぶっているが、買収でもされたか」

白鳥「あ、なんか針が首に刺さってますよ」

那奈「抜いちゃえ抜いちゃえーっ」

大松「ち、ちょっと待った。それを抜かれると」

幻海「もう抜いてしまったぞ」

大松「あちゃぁ、これじゃ進行状況が分からないじゃないですか。あれ作者からの通信アンテナなんですよ?これじゃ段取りが・・・」

幻海「そのようなものは勘でなんとかせい」

大松「私は和尚や権造さんとは違うんですよ」

権造「ほう、俺がまるで人間やめているような言い方だが」

幻海「まてい、権造。人間やめているというのはどういうことじゃ」

那奈「残り100字」

白鳥「よく分かりますね」

那奈「そりゃ、作者の分身やからな」

大松「大体、和尚も権造さんも勘に頼り過ぎなんです。私の計画どおりに動いていれば白鳥君があんな危ない目に会わなくってもよかったんです」

権造「お、そういえば、白鳥は何であそこから生還できたんだ」

白鳥「ギク」

幻海「そういえばそうじゃな。どうやったんじゃ」

白鳥「そ、それは」

那奈「というところでオーバー。ではまた会うことがあったら幸いや。またね〜」

権造「こらーっ」

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