後編 どこかで始まるプロローグ?
ふぃ~。混んでますね~。入れて良かったぁ。ここのお店、安くて美味いって評判だからずっと来てみたくって!
おねぇさーん! これとこれとこれとこれ! 大盛りで! うん? 全部食べるよ!! 無駄にしないってば。もしごはん一粒でも残したら出禁にしてもいいから。はい、じゃあお願いしまーす!
こほん。自己紹介がまだでした。
どーもどーも! わたくし、学園中の男を魅了する愛らしい美少女ことソフィ・カロンでございます!
あ、知ってると。デスヨネッ。まぁあなたに呼ばれて来たわけですし。ふふっ、わたしの連絡先よく分かりましたねぇ。苦労したんじゃないですか?
魔法のおかげだろって? せっかちなひとですねぇ。早速本題ですか。
それですけどね。わたしただの平民ですよ? 魅了魔法なんて精神に作用するような大それたもの使えない使えない!
あいつらは偉っそうに魅了が解けたから~とか言ってたけど、元からそんなん無いですから。わたしの演技にまんまと引っかかったチョロ男だっただけ。他の奴らもね。
わたしこの国の人間じゃないんでどうでもいいですけど、こんなのが国の未来を背負うのかよって笑っちゃいました。まぁ~ハニトラには弱すぎるけど、頭が悪いわけじゃあないし、代わりに婚約者様達が超有能だから何とかなるかな~。上手く彼らを転がせるといいですね~。
あ、おねぇさんありがとう。早いね! うあ~美味しそ~~! 最近無駄に凝った高級料理ばっか食べてたから染みるぅ。こういうのだよ~。庶民はこういうのが毎日食べたいやつだよ~! はー。この丸ごとチキンうっま! ほら、お兄さんも食べてください。皮がパリパリで美味しいですよ。
自分で言うのもなんですけど、超絶美少女でしょわたし。だからそれを活かして“当て馬業”ってのを仕事にしてるんですけど、これマジ儲かるんですよね。恋だの愛だのは障害があった方が燃え上がるでしょう?
ええ、顧客は貴族だけですね基本的に。平民ターゲットにしても大して面白くないし、搾り取れるお金は雀の涙だし。どちらにせよ需要があるのは貴族の方ですからね。運命とか真実の愛とか、政略結婚が多い貴族ほど密かに憧れてるもんです。
手間とリスクがありすぎる? その通りですが……え? その美貌なら当て馬なんてアホなことやってないで、普通に玉の輿狙えるだろって? いやん。お褒めの言葉ありがとうございます!
うふふ、でもわたし所詮は平民なんで。いや、ぶっちゃけ頑張れば玉の輿狙えなくもないけど、自分自身が貴族って柄じゃないんですよね。
わぁ、ピラフとチャーハンおいし~! どっちも食べれるなんて幸せ~! おねぇさーん! これ超美味しいよ! 奥にいる親父さんに言っといて! うん! ほんと美味しい!
何で当て馬なんてやってるかって? そりゃ、一重に面白いからですよ!
わたしアレなんですよね、悪役令嬢のハピエン厨ってやつ。特にざまぁされる悪役令嬢がヒロインにざまぁ返しして婚約者を取り戻すのが一番好きなの。何十、いや、何百冊ラノベを読み漁ったことか。ゲームにも手を出したかったけどお金がなぁ……おっとすみません、こっちの話。
ま、時々本気で断罪されて殺されそうになるときもあるけど、何とか生き残ってます。えへ!
ちょっと、何ですかその顔は。他人のハッピーエンドのために命賭ける変態? 酷いですぅ。随分な言われよう! しょーがないじゃないですかぁ~。好きなんだもーん。
えっ、何で。何で次はそんなに怖い顔してんですか。もっと自分を大切にしろ? やーん、何それ見当違い~。自分が一番可愛いからこんな拗れまくった手段で愛のキューピットやってんですよぉ。何なら世界一自分を大切にしてますぅ~。
依頼者を幸せに出来るし、自分の性癖も満たせるし、お金もガッポリもらえるし、一石三鳥ってやつです!
チョロい男ならまた繰り返すんじゃないかって? ははぁ良いところに気づきましたね! そこんとこは事前に依頼主に念押ししてありますよ。契約書にも『アフターケアは契約範囲外です』って明記してます。
命懸けでお膳立てしたんですから、さすがにあとは自分の力で頑張ってくんないとね。依頼主様のお手並み拝見ってやつですよ。
えっ、嘘。見てくださいこのステーキ! 分厚ッ!! これでこの値段!? 採算取れてるんですかね!? ふわぁうま~い! 肉汁がいっぱい出てくる~!! お兄さん全然食べてませんね。ほら、これ一口あげます。あーん。
そだ。これ渡しときますねぇ。わたしの正式な名刺です。なんてったってジャクリーヌ様からの紹介ですし、無下にはしませ……びっくりした顔してる! そんなに!? わたし普段は顧客の依頼内容ペラペラ喋らないですよ。ジャクリーヌ様から事の顛末聞いたからわたしを呼び出したんでしょう?
知ってますよぉさすがにぃ。信用に関わる問題なんだから、この辺はきっちりしてますよ。じゃないと仕事にできないですもん。守秘義務守秘義務!
あー……こんなに人が集まってる場所で喋り出したくせに、ですか。なるほど、そういやそちらの国ではあまり魔法はメジャーじゃないんでしたね。
ご安心ください! 防音魔法かけてますから、これまでの会話は一切周りに漏らしてません!
平民だから魔法は使えないんじゃなかったのかって? そんなこと言いました? あぁ、魅了魔法は使えませんよ。魅了魔法はね!
うひゃあ! 怒んないでくださいよ~。してやったりの顔がムカツク? えへへ。性分ですんで、勘弁してくだせぇ旦那! かっこいい顔が台無し……でもないな。かっこいいなその顔も。
え? えぇ。かっこいいです。すんごく。自分の顔面偏差値自覚してドヤ顔でわたしを口説いてきたこの国の王子やら貴族の男達やらの百倍はかっこいいです。控えめに言って。
やだー照れてる? お兄さんたら可愛ーい! いやぁ、お兄さんに口説かれるなら大歓迎ですね~。ん? 気軽に男にそんなことを言うなって? 言わないですよ? 仕事と本気で思ったとき以外には。
だから自分を大切に? いや何でまたそれ繰り返すんですか。さっきも言ったでしょう? 自分が一番なんだって。
この名刺は気に入ったひとにしか渡さないし、内容によっては受けずにつっぱねますよ。相手が誰であろうとね。そこんとこは一応プライド的なものがあるんですよ、わたしにも。
つまり、お兄さんのことはまぁまぁ気に入ったんです!
……ほら、こんな上から目線の態度なのに苦笑で終わらせてくれる。うーん、困ったなぁ。まぁまぁどころか結構好きになってきましたお兄さんのこと。
うん、よし。大盤振る舞いだ! お兄さんからの依頼なら、そんなに好みの脚本じゃなくても融通しちゃいます! 演技力には自信がありますし、特殊な役柄もドンと来い!
そーですねぇ。人型でさえあれば人外系もいけると思いますよぉ。魔族とかの見た目はほぼ人族と変わらないし、獣人族もギリいけるかな~。爬虫類だと大変そうだけど何とか……あ、そんな予定はない。はい分かりました。
じゃあ~……『男の子』とか。どうです? “俺”って一人称が似合う感じが良いか、“僕”って一人称が似合う感じが良いか、はたまた“私”か。
お、また驚いてくれました? 全部声変えてみました。特技なんですよぉ自慢しちゃう! 骨格? それもね、企業秘密ですけどね、うまくやれますよぉ。
ん~そうですねぇ。お兄さんとこのお国柄、可愛い系で攻めてみるのもアリですかね。
いいえ? ジャクリーヌ様からは特に聞いてませんよ。自分で調べたことです。情報は武器ですからねぇ。手始めに、お兄さんのお名前言いましょうか? それとも肩書き? 家族構成? 現在の状況?
……んふふ。その顔を見るにわりと信用してくれたようですねぇ~。存分に悩んでくださいませ~。
あーっと、すみません! 次の依頼が入ってるんで今日はそろそろお暇しますね。
おねぇさんご馳走さまぁ。お勘定おねがーい! ねっ言ったでしょ。綺麗に食べ切るって。うんうん。また来る~。ねぇ、デザートは出さないの? 女性客が少ないから考えてなかった? えぇー残念。宣伝するから考えておいてよ~。あっお釣りいらないです。おねぇさんのおやつでも買って。
ではでは、お兄さん。腹括ったら教えてくださいね!
ご依頼お待ちしてま~す!