E級ダンジョンへ向けて出発
城下町の道具屋でポーションを1つ購入してから出発することにする。
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◆ポーション
・効果= HPを50回復する
・買値500アロー/売値150アロー
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本当はもっと買っておきたいところなんだけど、所持金は1万アローを切っている。
とりあえず、最低限のラインでやりくりする必要があった。
広場を抜けて大通りを進んで行くと、城壁越しに大きな結界が見えてきた。
この結界は、魔獣の侵攻を防ぐ目的で張られている。
大昔は外にも魔獣が溢れていて、この結界が国を守る役割を果たしていたみたいだ。
また、人間には効果はなくて、国を出入りする際は結界を通っても特に影響はない。
結界は、大魔獣を倒すことで手に入る魔光石を使うことで強化できるんだけど、今は大魔獣も魔獣もダンジョンの中にしか現れない。
伝承では、今からおよそ1,000年前、勇者フェイトが魔王アビス率いる魔王軍との戦いに勝利して、魔獣をすべてダンジョンの中に閉じ込めたっていう風に言われている。
だから、結界は今ではほとんど必要のないものになっていて、世界にはもう結界を張っていない国もあるみたいなんだけど、シルワは結界の強化にとても積極的だ。
魔獣の襲撃によって一度国が壊滅の危機に陥ったっていう歴史があるから、再び大地に魔獣が現れて侵攻されることのないように結界の強化に積極的なんだって、学校の授業で習ったっけ。
結界は時とともに弱まるものなんだけど、魔光石によって強度を強めることができるから、シルワでは冒険者の育成にとても力を入れている。
そのため、シルワはほかの国からは冒険者の国って言われているらしい。
ちなみに冒険者っていうのは、この魔光石を採取する人たちのことで、国王はその対価として、冒険者ギルドの換金所を通じて報酬を支払っている。
大魔獣――通称ボス魔獣は、ダンジョンの中にしか現れないから、冒険者がダンジョンに入るのはこのためだったりする。
また、魔光石にもそれぞれ価値があって、クリアしたダンジョンの魔光石によって換金額は変わる。
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・A級魔光石=1億アロー
・B級魔光石=1,000万アロー
・C級魔光石=100万アロー
・D級魔光石=10万アロー
・E級魔光石=1万アロー
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シルワの冒険者ギルドだとこんな風に設定されているんだけど、国によってはもっと高く設定されているところもあるみたい。
それに、他の国からやって来た一流冒険者の証所持のゲスト冒険者は、さらに+αでお金が貰えたりする。わざわざ他所からやって来て魔光石を採取してもらっているのだから、国はお金で気持ちを返すわけだ。
だから、どの国でも、一流冒険者の証を目指す冒険者は多いって聞く。
10代のうちに、莫大な富を築いてしまう冒険者は、大抵は一流冒険者の証を所有しているって言われているし。
……って、そんなことを考えているうちに、城門が見えてきた。
大きな門の手前で2人の警護兵に呼び止められる。
「冒険者の方ですか? クエストへ行かれるようでしたら、許可証をお見せください」
「あ、はいっ」
言われた通り、許可証のメダルを取り出して2人の警護兵に見せる。
これもタイクーンの役目だったりするから、僕としては初めての経験だ。
「ナード・ヴィスコンティさん……ですね。確認しました。【グラキエス氷窟】ですと、日帰りのクエストとなりますがよろしいですか?」
「はい。大丈夫です」
「では、本日20時までにお戻りください。それ以降は城門が閉まってしまいますので、十分にご注意ください。もちろんお分かりだと思いますが、その時間までにお戻りになりませんと、国外逃亡を図った重罪人として、指名手配させていただきますのでご了承ください」
「わ、分かりましたっ……」
一礼してから城門と結界を潜り抜ける。
毎度のことだけど、緊張感あるよなぁ……。
本来なら、国を出るには一流冒険者の証が必要だ。
クエストの許可証は一時的な効力しかなく、指定された日にちまでに城内へ戻る必要がある。
門限は絶対だ。1秒たりとも遅れることは許されない。
この辺りは、冒険者なら冒険者育成学校で徹底的に指導されてきたはず。
なんでこんなにも厳しいのかというと、冒険者は国にとってとても貴重な存在だからだ。
なるべく、自国が管轄するダンジョンで魔光石を採取してもらうために、一流冒険者の証が無ければ国外へ出られないって、人材の流出を防ごうとしているくらいだし。
だから、クエストに出発するなら、なるべく朝は早い方がいいって言われている。
〝帰りの時間も計算して出発するのが冒険者の基本〟っていうのがメリアドール先生の教えだったな。
「えっと。まずは大きな樹木を目印にまっすぐ進んで……」
冒険者ギルドで受け取った地図を片手に、大きく開けたシルワ平原を進んでいく。
【グラキエス氷窟】は、城下町からそこまで離れていなくて徒歩圏内だった。
ダンジョンの中には、泊まりがけで行かなくちゃいけない場所もあるから、これは地味に嬉しかったりする。
「大体、歩いて30分って話だったよね」
しばらくそのまま歩いていると、小さな湖のほとりに洞窟が見えてくる。
その入口には、この場所がシルワ王国管轄のダンジョンであることを示す旗が立てられていた。
「あれか」
これまで何度もダンジョンに入ってきたわけだけど、今回からはソロだ。
戦わないわけにはいかないし、これからは自分1人だけの力で進んでいかなくちゃいけない。
そう思うと、お腹が急に痛くなってきた。
「うぅ~。緊張してきたぁ……」
【グラキエス氷窟】の入口で一度立ち止まると、ビーナスのしずくに触れて自分のステータスを確認する。
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[ナード]
LP1
HP50/50
MP1/1
攻1
防1(+5)
魔攻1
魔防1
素早さ1
幸運1
ユニークスキル:
<アイテムプール>
<バフトリガー【OFF】>
属性魔法:
無属性魔法:
攻撃系スキル:
補助系スキル:
武器:
防具:毛皮の服
アイテム:ポーション×1
貴重品:ビーナスのしずく×1
所持金:9,100アロー
所属パーティー:叛逆の渡り鳥
討伐数:
状態:
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一応、防具は装備してるけど、これでスライムの攻撃を防ぎきれるかは未知数だ。
武器も持っていないから、たぶん魔獣に攻撃を当てることもできない。
「いや、今日は試しに入るだけ……。危なくなったらすぐに逃げればいいんだから」
できればアイテムとかを拾って帰りたいけど、贅沢は言っていられない。
僕が死んでしまったら、それこそ本末転倒だ。
ノエルを守れるのは僕しかいないわけだし。自分の命を最優先にしなくちゃ。
気を引き締めると、【グラキエス氷窟】の中へと足を踏み入れた。