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【セシリアSIDE】アブソープションの性能

 ナードを置き去りにしたセシリアは、そのまま溶岩が一帯に転がる灼熱のダンジョンを進んでいた。

 

 やがて、しばらくすると……。


 ドドンッ、ドドンッ。


 赤い巨体を揺らしたデーモンバトラーが1体、通路の奥から姿を現す。


「!」


 少し油断した状態での遭遇だったため、セシリアは一瞬背筋を凍らせた。


 これまでに、デーモンバトラーとは何度か対峙をしてきた。

 そのたびに苦戦を強いられてきたので、その時の嫌な記憶が一気に甦ってくる。


 だが、すぐにセシリアは思い出す。

 自分は今、<バフトリガー>の恩恵を受けているのだ、と。


(おいでなさったわね……)


 【エクスハラティオ炎洞殿】を進む以上、デーモンバトラーは必ず倒さなければならない相手だ。

 以前のように、臆しているような余裕はない。

 今、自分はソロなのだということをセシリアは改めて認識する。


 すぐに水晶ディスプレイを立ち上げると、それをデーモンバトラーへ向けて《分析》をタップした。


-----------------


[デーモンバトラー]

LP50

HP1,520/1,520

MP100/100

攻520

防370

魔攻180

魔防200

素早さ150

幸運300

攻撃系スキル:

<爪術>-《ネメシスハンド》-《極・煉獄爪》

-《ツインアルティメットクロー》

状態: 物理攻撃・与ダメージ2倍


-----------------


 さすがA級魔獣だけのことはあると、セシリアは敵のステータスを見て改めて息を呑んだ。

 今までの状態だと、ソロではまったく歯が立たなかったに違いない。


 デーモンバトラーは、成人男性の2倍ほどある真っ赤な巨体が特徴的な魔獣で、外見は人の形に似ており、悪魔の顔と強靭な羽を持っている。

 下半身はずっしりとしており、それ単体が獰猛な獣のようでもある。


 いわゆる物理攻撃に特化した脳筋系の魔獣に分類され、<爪術>を使い分けて仕掛けてくるのが攻撃パターンだ。


 特に単体攻撃の《極・煉獄爪》は凶悪で、一発でも食らえば即死は免れないほどの破壊力がある。


 しかし、唯一弱点がある。

 それは、素早さがそこまで高くないという点であった。


(今の私ならコイツよりも早く攻撃ができる。前回のようにはいかないわよ)


 ドドンッ、ドドンッ…………ドドンッ!


 そこでデーモンバトラーはセシリアの存在に気付いたのか。


 耳が張り裂けるような鋭い雄叫びを上げながら、すぐに重心を低く構えて突進を仕掛けてくる。


「グゴオオオオオオオーーーッ!」


 その刹那。


 セシリアは間合いを取ると、魔法ポーチの中から水晶ジェムを取り出し、魔法発動(マジックアクション)を唱えた。

 

 右手の甲に小さく浮かび上がった魔法陣を掲げながら、風魔法の詠唱に入る。


「〝永久に吹き荒ぶ烈風よ 我が手に集いすべてを巻き上げ 暴虐なる無数の戦槌で切り刻め――」


 釜のような手を大きく振り上げ、デーモンバトラーが突進してくるも、セシリアの詠唱の方が数秒速かった。


「――《エターナルストーム》〟」


 バキバキバキバゴゴゴゴゴーーーーーンッ!!


 無数の刃が大気を揺るがし、軌道を激しく捻じ曲げながら、デーモンバトラーの巨体を木っ端みじんに粉砕する。


「グゴオオオォォォッ!?」


 すべて一瞬のうちの出来事で、瞬殺だった。


「やったわ!」




 息絶えたデーモンバトラーの巨大な体躯を見上げながら、セシリアは先程確認した<アブソープション>の性能を思い出す。


「そうね。HPを0にしたってことは、LPを吸い上げることができるんだわ」


 同時にスロットを選択して、切り替えが可能だということにも気付く。

 すぐにスロットβを選んで、本当にLPが吸収できるのかを確認してみることに。


「とりあえず、やってみるしかないわね」


 セシリアはまだ、LPが増えるということに対して懐疑的であった。

 実際に自分の目で確かめない限り、信じることができない性格なのだ。


「こんな感じかしら?」


 おそるおそるデーモンバトラーの前に両手をかざす。

 そして、慎重に<アブソープション>を唱えた。


 すると。


「!?」


 デーモンバトラーの巨体は光を帯び始め、やがてセシリアの手のひらへと吸い込まれていく。


「……っ、これでよかったの?」


 再度自分のステータスを確認すると、そこには信じられない内容が表示されていた。


「LP80!?」


 先程、すべての風魔法を習得したため、セシリアのLPは30となっていた。

 それが今、ステータス画面にはLP80と表示されている。ということは、つまり……。


「本当にLPを吸収できたんだわ……!」


 世界の掟が塗り替わった瞬間を目の当たりにしたようで、セシリアは大きな感動を覚える。


「このまま魔獣を狩り続ければ、LPも増えてもっと強くなって……。すごいわよ! <アブソープション>!」


 こんなとんでもないチートスキルをナードは持っていたんだ、とセシリアは思った。


「あのクズ、このダンジョンに入ってから<アブソープション>なんて一度も使わなかったのに。どうせ、私に使い方がバレるのが嫌で、控えてたんだわ」


 姑息な手段を取っていたナードに苛立ちを覚えつつも、ある種の全能感がセシリアを支配する。


 たしかにこんなスキルがあれば、魔王に戦いを挑むことだってできたかもしれない。

 勇者フェイトの気持ちが少しだけセシリアには理解できた。


「この調子でボス魔獣も倒すわよ」


 興奮は最高潮へと達し、セシリアはさらにダンジョンを進んで行く。

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― 新着の感想 ―
[一言] う~ん、絶対セシリアの思惑はうまくいってないはずなんだけどな うまくいったように見えるけど、絶対になにかあるでしょ 先生、なかなかひっぱるね つうか後6話じゃ絶対魔王アビス復活→倒すとこまで…
[一言] 主人公の人の好さにがっかり
[一言] 話がほとんど進んでないので、もう少し流れを早くしてくれると、読んでて面白いです。 今回のは、能力奪ってから、敵をたった一体、しかも一撃で、擬音表現も無いため、面白みが薄かった。 印象に残っ…
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