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【セシリアSIDE】再会

「魔光石もある、聖者の法衣も用意した……これで完璧ね」


 セシリアは魔法ポーチの中を整理しながら、ある人物がやって来るのを待っていた。

 今日はセシリアにとって、とても大事な意味を持つ日である。


(だって、今日は私がA級ダンジョンをクリアして、一流冒険者の証(シーカーライセンス)を手に入れる日なんだから)


 セシリアが立っているのは、シルワ王国の旗が立つ【エクスハラティオ炎洞殿】の入口だった。

 以前に一度挑戦したことがあり、結局、10日以内に攻略することが叶わなかったダンジョンだ。


 しばらく木の幹に背中を預け、そのまま待っていると、遠くの方から人影が見えてくる。

 間違いない……アイツだ、とセシリアは思った。


 やがて、その者が近くまでやって来ると、セシリアは笑顔を見せて声をかけた。


「久しぶりね、ナード」


「……セシリア? なんでここに……」


「あなたがB級ダンジョンをクリアしたって噂で聞いてたし。シルワにあるA級ダンジョンはここしかないでしょ? だから、来るって思ったのよ」


「……」


「随分と強くなったみたいね。大司祭様から聞いたわ。あなた、LPを増やすユニークスキルを覚醒させたんですって?」


「……はぁ、さすがにバレてるよね」


「ギルドでもあなたの話で持ちきりよ? LPを増やすスキルなんて前代未聞だわ。みんなあなたの動向が気になってるのよ」


「デュカとケルヴィンにも言われたよ。この前、偶然ギルドで会ったんだ。僕がすごい有名人になってるって」


「デュカとケルヴィン……?」


 その時、セシリアの視線は、ナードが装備している武器と防具に向く。


「……え、ちょっと待って。それ、ウロボロスアクスと上帝の盾……。どうしたの?」


「ああ、その前にちょっと色々あってね。譲ってもらったんだ」


「……」


(あのデュカとケルヴィンが? これって、親から引き継いだ大事な装備でしょ?)


 セシリアは、なんでもなさそうに語るナードを見ながら思った。

 譲ってもらったなんて嘘だ、と。


(絶対に2人から無理やり奪ったんだわ)


 あれだけ大々的にパーティーから追放したのだ。ナードが恨みを抱えていたとしても、まったく不思議なことではない。


 グッと拳を握り締めつつも、セシリアは笑顔を作ってナードに接する。


「そうだったのね。実は2人とはちょっと前にパーティーを解消したのよ。ほら、あの2人って途中から私たちのパーティーに参加してきたでしょ? だから、やっぱり馬が合わなくてね」


「そっか」


「ダコタとも組むのをやめたわ」


「へぇ……」


「だから、今はソロで冒険者(シーカー)やってるんだけど……」


 そこでセシリアは短く息を吸い込んだ。


「……実は、もう一度ナードとパーティーを組みたいって思っていて。ここであなたを待っていたのは、そのためなの」


「……」


「もちろん、こんなことを言う資格が自分にないって分かってるわ。私はあなたに、とても酷いことを言ってしまった。それに、パーティーから追い出すような真似もしてしまって……。本当にごめんなさい。でもあの時は、タイクーンとしてパーティーをまとめるのに、ああ言うしかなかったの。けど、3人と別れて分かったわ。私は、やっぱりナードと組みたいんだって。ほら、学生時代からずっと一緒にパーティーを組むって約束してたでしょ?」


 自分でそう口にしながら、セシリアは吐き気のする思いでいた。

 昔からずっとこうして感情を押し殺してナードと接してきたのだ。


 こうして持ち上げながら会話するだけでも、反吐が出る思いであった。


(でも、ここはガマンよ。これもすべてこのクズからユニークスキルを奪うためなんだから)


 奪い取ってしまったら、いたぶるなり斬り殺すなりこちらの自由だ。

 だから、それまではセシリアは我慢する必要があった。


 相手に誠意が伝わるように、深々と頭を下げながらセシリアはお願いする。


「謝って済む問題じゃないっていうのは分かってるわ。でも、私はナードともう一度パーティーを組みたい。心は完全に入れ替えたの。指南役じゃなくて、今度は本当に信頼できる仲間の1人として一緒にダンジョンに入りたい。もちろん、これからはナードがタイクーンで、取り分は多くて構わないから。だから、どうかお願いします……!」


「……」


 暫しの沈黙の後。


「……分かったよ」


 ナードは静かにそう頷いた。

 それを聞いて、セシリアは口元をわずかに釣り上げる。


 そう――セシリアには、ナードがこの誘いを断らないという強い確信があったのだ。


(フフッ、やっぱりね。昔からそう。コイツは私に気があるから。私の頼みは絶対に断らない)


 セシリアは随分前からナードが自分に好意を抱いていることに気付いていた。

 当然、セシリアにはそんな気などこれっぽっちもない。


(人の顔色ばかり窺ってるような軟弱な男に、女が惹かれるわけがないのよ)


 セシリアは顔をパッと輝かせると、ナードの手を取って喜びを爆発させる。

 もちろん、すべて演技だ。


「ホントっ!? ありがとうナード! またあなたとパーティーが組めて嬉しいわ!」


「うん」


「それじゃ、さっそくだけど【エクスハラティオ炎洞殿】に入りましょう!」


「それはいいんだけど、本当に大丈夫? こう言っちゃなんだけど、A級ダンジョンはかなり危険だよ?」


「ええ、心配には及ばないわ。このダンジョンは、私も以前に入ったことがあるから。勝手なら分かってる。ナードのサポートとして、攻撃魔法で援護するから」


「攻撃魔法かぁ……。正直、あまりいらないかな。後方で時々回復アイテムを使ってくれたらそれでいいよ」


「……え? そ、そう? 分かったわ……ならそれで」


 それはあんたの仕事だったでしょ!?

 なんで私がそんな役割をしなくちゃいけないのよ!


 そう喉元まで出かかった言葉をセシリアは飲み込む。


(……ッ。こんなところでムキになっちゃダメ。ナードが隙を見せるチャンスを待つのよ……)


 腹の奥にどす黒い感情を抱えつつ、セシリアはナードと共にダンジョンの中へと入って行く。




 ◇




 【エクスハラティオ炎洞殿】は、シルワ王国が管理下に置く唯一のA級ダンジョンである。

 その難易度は最高クラスと言われており、ここ20年くらいはクリアした者は現れていない。


 すべての冒険者の中で、A級ダンジョンをクリアできる者はごく少数と言われている。

 その数、全体の0.01%。

 そもそもLP制限で入れる者自体が少なく、挑戦者が極端に少ないダンジョンなのである。


 【エクスハラティオ炎洞殿】の構造は、地下低層型に分類され、そこまでダンジョンは深くない。

 その代わりに、内部の環境は厳しく、溶岩が転がる灼熱の中を進む必要がある。


 だが、このダンジョンに入るような冒険者なら、当然《環境適応(コンバート)》のスキルは習得しているはずで、セシリアもナードも、特に環境に苦労することなくダンジョンを進んで行く。


「斧術中級技――《無双炎車輪(むそうえんしゃりん)》!」


 ドドドドドドガギーーーーンッ!!


 ナードはウロボロスアクスを駆使して、A級魔獣を次々と殲滅していく。

 それも、そのほとんどが瞬殺だった。


(もう疑いようがないわね)


 前回、あれほど自分たちが苦戦して倒してきたA級魔獣を軽々と討伐していくさまを見て、セシリアは確信する。

 やはり、ナードはLPを増やすスキルを覚醒させたのだ、と。


「セシリア。ちょっとダメージ食らっちゃったから回復アイテムお願い。それと、ドロップしたアイテムはちゃんと拾ってね。さっき見逃してる物があったから」


「ご、ごめんなさいっ……。今使うわ……!」


 立場はこれまでと違って、完全に逆転してしまっていた。


(くっ……。なんで私がこんな役を……)


 正直言って、この屈辱的な状況は耐えられないという思いだったが、とりかえの杖が使えるチャンスは1度しかない。

 今のナードに正面からとりかえの杖を使っても、奪われるのがオチだ。


(大丈夫……チャンスは絶対に来るわ。その時まではガマンしなくちゃ)


 ナードが所持するユニークスキルがどれほど強力なのかはよく分かった。

 あとは、それを奪い取るだけ。


 セシリアには、ある考えがあった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 復讐するために勧誘を受けたのかな ダコタ相手とは違って、こちらには積極的に復讐する気なのね まあ、パーティ外されたときはそれほどとは思わなかったけど、 その後の話でこいつが大分悪人であ…
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