成人の儀式と最低なステータス
僕と妹のノエルはヴィスコンティ孤児院で生まれ育った。
ノエルは昔から体が弱くて、陽の光を浴びると発作を起こしてしまう病気にかかっている。
だから、冒険者育成学校にも通えなくて、ずっと孤児院の中で過ごすしかなかった。
大司祭様もノエルの病気については分からないみたいで、プチャマチャ大陸にあるグレー・ノヴァ公国まで行って、魔法大公の神聖治癒を受けない限り、完治はしないだろうって言っていた。
そのためには、費用として1億アローが必要だ。
それに、このシルワ王国を出ていくためには、A級ダンジョンをクリアした者全員が貰える一流冒険者の証がいる。
ノエルの病を治すためには、僕が立派な冒険者になって、それを手に入れるしかなかった。
だから、6歳になって南シルワ冒険者育成学校に通うようになると、必死で学校の授業を受けて、冒険者としての知識を貪欲に学んでいった。
そんな中、学校で初めてできた友達がセシリアだった。
はっきりとものが言えて、行動力のあるセシリアは学校でも一目置かれる存在だった。
容姿端麗で学問にも精通していて、リーダーシップのあったセシリアは男女問わず人気者。
毎回、僕をいじめてくるダコタを追い払ってくれるのは、いつもセシリアだった。
そんなセシリアを頼もしく感じる一方で、僕はひそかに恋心を抱いていた。
そう――初恋だったんだ。
セシリアは、冒険者として莫大な財を築いた貴族の生まれで、セシリアの両親はA級ダンジョンをクリアした数少ない冒険者として有名だった。
だから、セシリアは冒険者になることへの憧れが人一倍強かった。
「私、絶対にすごいステータスを手に入れてみせるから」
「うん。僕もセシリアと同じくらい強いステータスを手に入れるよ。それで、無事に冒険者になったら……その、一緒にパーティーを組んでくれないかな?」
「もちろんよ。フフッ、その日が楽しみね」
「やったぁ! ありがとう、セシリアっ!」
僕らは将来一緒のパーティーを組むことを誓った。
その後も、ダコタはセシリアのいないタイミングを狙って僕をいじめ続けたけど、僕はずっとガマンした。
だって、冒険者になれば強いステータスが手に入る。
そうすれば、ダコタだって自分の力で追い返すことができるんだって、そう信じていた。
◇
冒険者育成学校の義務教育を終えて、15歳となって卒業を迎えた者は、成人の儀式で大司祭様からステータスを言い渡される。だから、皆はその日を楽しみにして学校生活を送ることになる。
わけだけど……。
その成人の儀式は、僕にとって忘れられない出来事となった。
その日、僕ら卒業生は、シルワ城に隣接するように建てられた大聖堂に集められていた。
名前を読み上げられた生徒が、順番に祭壇へと上がっていく。
「セシリア・カーター」
「はい」
「前へどうぞ」
そして、いよいよセシリアの順番が回ってきた。
セシリアが祭壇へ上がると、頭の禿げ上がった老年の男性――大司祭様が笑顔で出迎える。
大司祭様は、大きな杖を振りかざしながらこう唱えた。
「全知全能にして我らがエデンの父よ。かの者は冒険者育成学校の全課程を無事に修了した。その証として神託を与えたまえ。神の御業をかの者へ示したまえ」
大司祭様がそう口にすると、祭壇の中央に設置された巨大水晶板が輝きをもって光始める。
やがて、セシリアのステータスが皆の前に表示された。
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[セシリア]
LP500
HP300/300
MP200/200
攻100
防100
魔攻100
魔防100
素早さ100
幸運100
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「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっ~~~!!」」
そのステータスが水晶板に表示された瞬間、大聖堂はドッと沸き起こった。
「すっげー! なにこのステータス!?」
「LP500は羨ましすぎる……! 魔法もスキルも習得し放題じゃん!」
「やっぱり優秀な親を持つと、ステータスも遺伝するのね」
「さすがセシリアさん! 我が南シルワ冒険者育成学校の誇りです!」
わいわいガヤガヤと、セシリアのステータスを見て大聖堂はお祭り状態だ。
それは、大司祭様によるユニークスキルの宣言によりさらにヒートアップする。
「あなたのユニークスキルは<豪傑>です」
「「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ~~~っ!!!」」
<豪傑>は、A級ダンジョン踏破の冒険者が所持していたとされるレアスキル。
ダンジョンに入った際に、あらゆるパラメーターがアップする。
大聖堂では、20年ぶりにA級ダンジョンをクリアする者が現れるんじゃないかって声で持ち切りだった。
正直言って、僕もかなり興奮していた。
だって、セシリアのステータスは、一般的なステータスを軽く凌駕していたから。
ちなみに、500人中497人が受け取ったのは、これと似たようなステータスだ。
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[一般ステータス]
LP100
HP100/100
MP50/50
攻10
防10
魔攻10
魔防10
素早さ10
幸運10
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数値が人よりも+1高いだけでマウントを取ることができるレベルなんだから、セシリアのステータスがいかにバグっているか分かると思う。
「やったね、セシリア! すごいステータスだよ!」
祭壇から戻ってきたセシリアに僕は声をかけた。
「ありがとう。私も正直驚いてるわ。まさかこんな高いステータスを授かることになるなんてね」
「僕も必ずセシリアみたいなステータスを貰ってくるよ」
「ええ、楽しみにしてるわ」
自分の順番を待っていると、再び大聖堂がドッと沸き起こる。
巨大水晶板にはダコタのステータスが表示されていた。
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[ダコタ]
LP300
HP200/200
MP100/100
攻50
防50
魔攻50
魔防50
素早さ50
幸運50
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「あなたのユニークスキルは<武器創造>です」
大司祭様のその一言に大聖堂は大盛り上がりだ。
「ダコタもすげぇぞ!」
「<武器創造>って、宮廷勤めの一級鍛冶屋が持ってるレアスキルでしょ?」
「いいなぁ~。人生安泰じゃないか!」
「セシリアさんとダコタ君の活躍に期待しましょう」
再びわいわいガヤガヤと周りが騒ぎ始める。
一方の僕はというと、ダコタのステータスを見て少し自信を失っていた。
「ダコタすごいわね。<武器創造>なんて。さすが一流の冒険者の家系だけあるわ」
「……」
「どうしたの、ナード?」
「う、ううん……」
大丈夫……。
僕は両親に会ったことはないけど、きっと世界中を股にかけた凄腕の冒険者に違いない。
冒険者としての生業が忙しくなって、やむなく僕とノエルをヴィスコンティ孤児院へ預けることになったんだ。
(僕だって、優秀な冒険者の家系に違いない。ノエルのためにも、絶対にすごいステータスを手に入れるんだ……)
緊張の中、それからさらに待っていると、自分の順番がようやく巡ってくる。
「ナード・ヴィスコンティ。前へどうぞ」
「は、はいッ……!」
「いよいよナードの番ね。楽しみにしてるわ」
「うんっ……」
セシリアに背中を押されて祭壇へと上がる。
(お願いします、エデンの神様……。僕に素晴らしいステータスを授けてください!)
大司祭様の前まで来ると、頭を下げるようにと言われる。
言われた通りにして、ステータス授与の時を待つ。
「全知全能にして我らがエデンの父よ。かの者は冒険者育成学校の全課程を無事に修了した。その証として神託を与えたまえ。神の御業をかの者へ示したまえ」
これまでと同じように大司祭様が杖を振りかざしながらそう口にすると、祭壇の巨大水晶板が輝き始める。
そして、僕のステータスが水晶板に表示された。
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[ナード]
LP1
HP50/50
MP1/1
攻1
防1
魔攻1
魔防1
素早さ1
幸運1
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その瞬間、大聖堂はシーンとした静寂に包まれる。
僕も息を吸うのも忘れてしまうくらい、何も言えなくなってしまっていた。
「あれ、ヤバくね……?」
「LP1とか初めて見たな。こんなことってあるんだ」
「親がろくでもないヤツなんだろうなぁ……。可哀そうに」
同情的な声が聞こえたかと思うと、それからちらほらと失笑が聞こえ始める。
それは、やがて大きな笑い声へと変わっていった。
「アハハッ! なんだよあれ、10年間学校で学んできた意味ねー」
「ただ飯食らいの孤児はバチが当たって当然だよなぁ~!」
「LP1とか何もできねーじゃん。悪魔の子だろ、あいつ」
「あのステータスは末代までの恥。死んだ方がマシだわ」
その嘲笑を聞いたところで、ハッと我に返った。
HP以外は1のオンパレード。これは一体なんの冗談……?
「大司祭様っ! 本当にこれが僕のステータスなんですか!?」
「はい。残念ですが、紛れもなくあなたのステータスです」
「そ、そんな……」
こんなステータスじゃ冒険者としてやっていけない。頭は真っ白になって、今にも卒倒しそうだった。
あとはユニークスキルに望みを賭けるしかない!
僕は大司祭様の続きの言葉を待った。
が。
「あなたのユニークスキルは……――!?」
大司祭様はそこまで口にして言い淀んでしまう。
口元に手を当てて、目をぱちくりとさせていた。
やがて、小さく首を横に振ると、表情を戻してこう続ける。
「えー、おほん……。あなたのユニークスキルは<アイテムプール>です」
「<アイテムプール>?」
「はい。亜空間にアイテムを収納したり、取り出したりすることができます」
「え? それって魔法ポーチと同じなんじゃ……」
「性能としてはまったく同じですね」
ハズレスキルだ、という声がどこかで上がった。
ちょっと待ってよ……。それが僕のユニークスキル?
魔法ポーチなんて、冒険者になれば、冒険者ギルドで無料で貰える物なのに……。
愕然としたまま祭壇を降りてセシリアのもとへ戻る。
正直、どんな表情でセシリアに顔を向ければいいか分からなかった。
「ごめん……セシリア。僕、最低なステータス受け取っちゃったよ……」
「気にしないでナード。約束は変わらないわ。私がパーティー組んであげるから。あなたは私のアイテムの管理でもしてくれたらそれでいいの」
「で、でも……。それじゃ、申し訳ないよ……」
「いいのよ。最初からまったく期待なんてしてなかったし」
「え?」
「いえ。こっちの話よ」
「う、うん……」
僕が落ち込んでいると、下品な笑い声を上げて近づいて来る者がいた。
「よぉナードっ! そのステータスッ! 寄生虫のてめーにはお似合いだぜぇ? ヒャッハハッ!」
「ダ、ダコタ……」
「てめーは最後まで俺を笑わせてくれたぜ! せいぜいセシリアの足を引っ張らないようにするんだなッ!」
肩をドンッとぶつけて、ダコタは笑いながら去っていく。
結局、僕はダコタを見返すことができないのか……。自分がちっぽけで情けない存在に思えてくる。
「他人と比べても意味ないわ。ナードはこのステータスで一生生きていくわけだから」
「そ、そうだね……」
「私がそばにいてあげるから。がんばりましょう」
「うん……ありがとうセシリア。僕、精一杯頑張るよ」
あの時は、セシリアのその言葉が胸の支えだったけど……。
でも結局、あの言葉も全部嘘だったんだ。