遭遇、クインペリー
この日、なんとか目標通りスライムを24体倒すことができた。
なんだけど……。
「ふはぁ~ホント疲れたぁ……」
1日中スライムを探し回っていたせいか、ダンジョンを出る頃にはすっかり辺りは暮れかかってしまっていた。
おかけでノエルには何かあったんじゃないかって、かなり心配かけてしまったし。
「……てか、よく家までたどり着けたよね。自分で自分を褒めたいくらいだよ」
途中、お腹が空き過ぎて、目が回って倒れそうだった。
空腹が原因でダンジョンで力尽きたなんて、そんな情けないことにならなくてよかった。
今はさっきパンを1つ食べたから、お腹は少し満たされている。
「とりあえず、今夜もステータスを確認しておこうかな」
ベッドに寝転がりながら、ビーナスのしずくに触れて水晶ディスプレイを立ち上げる。
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[ナード]
LP17
HP50/50
MP0/16
攻1
防1(+5)
魔攻1
魔防1
素早さ1
幸運1
ユニークスキル:
<アブソープション【スロットα】>
<バフトリガー【OFF】>
属性魔法:
無属性魔法:
攻撃系スキル:
補助系スキル:《分析》
武器:
防具:毛皮の服
アイテム:
貴重品:ビーナスのしずく×1
所持金:6,300アロー
所属パーティー:叛逆の渡り鳥
討伐数:E級魔獣32体
状態:
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「討伐数もだいぶ増えてきたな」
[冒険者の鉄則 その5]
倒した魔獣の数を自身の実績とすべし。
冒険者が倒した魔獣は、ステータス画面にカウントされるようになる。
魔獣を討伐するメリットは自分の実績となる点で、これでパーティーに声をかける際もアピールがしやすくなったりする。
それに、討伐した魔獣の数によっては、冒険者ギルドから謝礼金が送られることもあるみたいだ。
今なら冒険者ギルドに顔を出せば、参加できるパーティーも見つかるかもしれない。
「……いや。甘く考えちゃダメだよね」
LPを増やすことができて浮かれてしまっているけど、僕のステータスは相変わらず最低レベルのままだ。
ダンジョンには、とんでもなく強い魔獣が潜んでいることを僕は知っている。
これまでは戦闘に参加してこなかったからなんとかなっていたけど、<アイテムプール>がない以上、荷物持ちとして参加するわけにもいかない。
当然、戦闘に参加させられるわけで、僕なんか瞬殺されちゃうに違いない。
<アブソープション>がなければ、スライムすらまともに倒せないんだから。
まずは堅実にLPを積み重ねる必要があった。
「そろそろ、スライム以外の魔獣を<アブソープション>で倒せるか、確認する必要があるかも」
この先は何が起こるか分からないし。
ひとまず、今あるLPはこのまま取っておくことにしよう。
◇
「あれ……おかしいな。ここにもいない」
【グラキエス氷窟】攻略5日目。
これまで探索してきたフロアで、スライムを見つけることができない。
これまでこんなことなかったのに……。
「スライムが減ってる?」
ふとその時。
学校で習った授業のことを思い出した。
「もしかして……。LPを吸い上げて0になったから、スライムは復活しないとか?」
基本的にHPが0になった魔獣は時間が経つと蘇生して、再びダンジョンに現れるようになる。
でも、<アブソープション>はLPを吸い上げるスキルだ。
ライフポイントを吸い上げられて0になったスライムは、蘇生することなくこの世界から姿を消した、ってことなのかもしれない。
「やっぱり、とんでもないスキルだよこれ」
改めて<アブソープション>のチート性にビビってしまう。
やたら他の人に言うべきじゃないよね。
どこかの国へ売り飛ばされて、そこで研究の対象にでもされたらたまったもんじゃないし。
◇
それから下のフロアへ降りつつ、なんとかスライムを探し回って倒した。
(1時間近く歩き回ったのに、6体しか見つけられなかったな)
これまでの階層にいたスライムは、ほとんど狩っちゃったのかもしれない。
あとは、さらに下へ降りるしかない。
でも、なんか降りるに従って、だんだんとダンジョンの雰囲気も変わってきているような気がする。冷気が一段と深まっている感じって言うのかな。
「っと、あれ? なんかアイテムが落ちてるぞ?」
密集して立った氷柱の影に、水晶ジェムが落ちているのを確認する。
このダンジョンに入って、初めて見つけたアイテムだ。
「幸運が1なのによく発見できたなぁ。珍しいこともあるもんだ」
正直、水晶ジェムはパン1つ分くらいの価値しかないから、特に珍しい物でもないんだけど、魔法を詠唱する際の必須アイテムだったりする。
「でもそっか。今の僕なら、魔法を習得することもできるんだっけ」
これまではスライムを狩るため、MPを上げることだけに意識が行っていたけど、当然、LPを消費して魔法やスキルを覚えることも可能だ。
このアイテムもいつかは役に立つことがあるかもしれない。
ショルダーバッグに水晶ジェムをしまいつつ、先へ進むと……。
(っ!)
これまでに見たことのない魔獣の姿が目に飛び込んでくる。
真っ白な羽を持つ鳥類系の魔獣だ。
体はそこまで大きくない。多分、僕の半分くらい。
青色の長いくちばしが特徴的で、脚の先についた四つ爪を見て、ある魔獣の名前が頭に浮かんだ。
(クインペリーかな?)
スライム同様、E級ダンジョンでよく見かけることのできる下級魔獣。
そう学校の授業で習ったことを思い出す。
けど、実際にこうしてクインペリーの姿を見るのは初めてのことだった。
幸いにも、まだ相手は背中を向けていて、こちらの存在に気付いていない。
僕は両手を前にしながら、クインペリーとの距離を少しずつ詰めていく。
十分に届く距離までやって来て、僕は<アブソープション>を唱えた。
が。
「!?」
クインペリーの体は発光するも、そのまま手のひらへ吸い込まれることはなかった。
(な、なんでっ!?)
それでこっちの存在に気付いたのか、クインペリーは体を反転させると、大きな羽を広げながら突進してくる。
「ピゲェェッーー!」
「う、うわぁっ!?」
鋭いくちばしの攻撃を受けた僕は、慌てて階段まで逆戻りした。
「ピゲェェェッ!」
クインペリーは羽をバサバサと羽ばたかせながら、こちらを威嚇するように甲高い声を上げる。
でも、階段まで上がってくるようなことはなかった。ひょっとすると、登ることができないのかもしれない。
(ふぅ……危なかった)
けど、安心している余裕はない。
ここから先へ進むためには、クインペリーをどうにかしなくちゃ。
(でも、なんで<アブソープション>が効かなかったんだろう?)
とりあえず、水晶ディスプレイを表示させると、それをクインペリーへ向けて《分析》をタップしてみる。
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[クインペリー]
LP2
HP45/45
MP2/2
攻8
防8
魔攻3
魔防1
素早さ2
幸運6
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(あ、なるほど。LP2だから倒せなかったんだ)
一旦上層の階へ戻ると、改めて<アブソープション>の項目をタップしてみた。




