初恋の相手に追放される
「ナード。お前の取り分はなしだ」
「えっ」
「アイテムを出し入れするしか能がないお前に渡す報酬はねーって言ってんだよ」
バンッ!
酒場のテーブルが激しく音を立てる。
ちょっと待って……。取り分はなしってどういうこと?
化け物みたいな体格のダコタが、銀色の短髪を立てながらギロッと僕を睨みつける。
いつもの癖で、つい足がすくんでしまう。
「俺らがバーストヴァンパイア倒すのに、どれだけ苦労したと思ってんだ」
「で、でも……。僕もアイテムを使ったりして、少しは貢献を……」
「んなもん、まったく役に立ってねーんだよクソが!」
「うっ!?」
「てめー途中でダブルポーションとマジックポッド間違えて使いやがっただろ!」
「ごめんっ……。あの時は焦っちゃって……」
「アイテムもろくに使えねーようなクズは、俺らのパーティーに必要ねぇんだよ! 分かったらとっとと出て行け! てめーは追放だ!」
「つ、追放っ!? ちょ、ちょっと待ってよ……。急に出て行けなんて言われても、僕はノエルのために生活費を稼がなくちゃいけなくて……」
「ノエルノエルって、いつもうるせーんだよ!」
「ヒッ!?」
勢いよく胸倉をつかまれ、そのまま簡単に持ち上げられてしまう。
背の小さい僕じゃ、いくらダコタに歯向かったところで敵わない。
「この寄生虫が!」
「うぐっ!?」
ガシャンッ!
そのまま投げ飛ばされて、テーブルの角に頭をぶつけてしまう。
「オレもダコタの提案には賛成だ。取り分はオレたちで分けさせてもらうぞ」
そう言って加わってきたのはデュカ。
太った腹を擦りながら、自慢のモヒカンで威圧感を放ち、睨みつけてくる。
「そうですね。戦闘でまったく役に立たない悪魔の子のあなたが、なぜこのパーティーにいるのか最初から疑問でした。当然の結果ですね」
続けて話に入ってきたのはケルヴィンだ。
トレードマークのバンダナを巻きながら、鋭い視線を僕に向けている。
「多数決で決まりだな。ククッ、ようやくてめーを追い出すことができて清々するぜ」
「っ……」
ダメだ。
このままだと本当にパーティーを追い出されちゃう……。
何か、何か手は……。
その時。
輝く真っ赤なストレートヘアを翻しながら、酒場に入ってくる美しい女の子がいた。
(セシリア……!)
僕たちのパーティー【鉄血の戦姫】のリーダーであるセシリアが、換金を終えて戻ってくる。
助かった、セシリアなら僕に加勢してくれるはず!
「なにやってるの? あなたたち」
「いや、こいつが……」
「セシリア! ダコタが僕のことをパーティーから追い出すって言うんだ! セシリアからも何か言ってあげてよ!」
僕はすがりつくようにセシリアに目を向けた。
もともと【鉄血の戦姫】は、僕とセシリアの2人で組んでいたパーティーだ。
そこへ後からダコタたちが加わってきて、それから色々とおかしくなってしまった。
(出て行くのは、むしろダコタの方で……)
「ダコタの言ってることは正しいわ」
「え」
「あなたは用済み」
「は……? いや、待ってよ。冗談だよね、セシリア……?」
「冗談なんかじゃないわよ、ナード。ずっと足手まといだと思ってたわ」
「!?」
な、何を言ってるんだ、セシリアは……。
ずっと足手まといだと思ってた?
「パーティーを組んでそろそろ半年経つから、ちょうどいい頃合いね。この際だから言っちゃうけど、あなたをパーティーに入れてあげてたのはすべて金のためよ」
「お、お金っ?」
「あなたは知らなかったでしょうけど、かわいそうな孤児の役立たずにはね。指南役を付ける決まりになってるの。国王もバカなこと考えるわよね。孤児なんかを冒険者に育てたところでゴミを量産するだけなのに」
「なっ……」
「指南役になると、毎月多額の助成金が貰えるのよ。だから、私はあなたをパーティーに入れてあげてたの。でも、それも学校を卒業してから半年の間まで。もうあなたをパーティーに入れておくメリットは何もないわ。むしろデメリットでしかない。それと、これまで私が好意を持ってあなたみたいなでき損ないのクズと一緒にいたと思う? 学校であなたといてあげてたのだって、すべて金のためだから。冒険者たる者、常に金銭を稼ぐことだけを考えなさいって、お父様とお母様の言いつけだったのよ」
あぁ……。
目の前が真っ暗になっていく。
これまでセシリアに抱いてきた淡い恋心が、粉々に打ち砕かれていくようだった。
「あなたのパーティー脱退の申請なら私の方でしておくから。だから、早く私たちの前から消えてくれないかしら?」
「……ッ。僕、一生懸命みんなのために役に立つから! この通りですっ! 今、パーティーを辞めさせられちゃうと、ノエルのためにお金を稼ぐことができなくなって……。だから、お願いします! 追い出さないでください……!」
床に額を思いっきりぶつけながらそう叫んだ。
不甲斐なさに悔しさで涙が溢れてくる。けど、今パーティーを抜けるわけにはいかない。
それは、稼ぎがなくなることを意味しているから。
そんな僕を見下ろしながら、セシリアは一言こう口にする。
「ぶっちゃけ言っちゃうけど、あなたの妹がどうなろうが知ったことじゃないわ」
「う、嘘だよね? セシリア……」
「嘘なわけないでしょ? あんなブス、早く死ねばいいのよ」
「!!?」
「これまで私が何度あの死にぞこないの見舞いに行ったと思ってるの? ねぇ、どれだけ負担だったか分かってないでしょ? したくもない笑顔振りまいて、友達ごっこのフリまでして」
「ぁぁ……」
「あなた、まだ私にしがみ付こうとするなんて……人として終わってるわよ? 恥を知りなさい」
「フッハハハッ! こりゃ傑作だなナードよぉ!? 頼みのセシリアに断られた気分はどうだ!」
「くっ……」
「分かったら、目障りだから今すぐ出て行って」
「セ……セシリアッ!」
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
「っ!?」
「哀れだなナードぉ! もうてめーと会うこともねぇぜ! 孤児は孤児らしく、貧乏に野垂れ死ぬんだな! ヒャハハッ!」
そう言ってダコタがセシリアの腰に腕を回す。
それを見た瞬間、僕の中ですべてが崩れ去った。
騙されていたんだ……!
奥歯をグッと噛み締めながら、僕は4人の背中を見送ることしかできなかった。