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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

優先席

作者: howari
掲載日:2020/08/03

あなたを待っていた。


いつもの検診。

いつもこの駅から乗車する。


優先席に座ろうとすると…

見慣れない妊婦さん。


「こんにちは。何カ月ですか?」


とても優しい雰囲気の女の人だ。


「9カ月です。」と答えると、


私もです。とふふっと笑う。


すぐ意気投合し、降りる駅まで色々とおしゃべりをした。

産まれてくる赤ちゃんのこと、準備する物や、出産についてなど…。

知り合ったばかりだけど、同じ妊婦さんとの会話は楽しく、心強かった。


「ありがとうございました。ここで降ります。」


「こちらこそありがとう。またね。」


優しい笑顔の女の人。彼女がどこで降りたかはわからないが…

また会えたらいいな。



2週間後の検診。


いつもの駅から乗車すると…

また彼女が優先席に座っていた。


「また会いましたね。」


その笑顔で空気が安らぐ。


「はい。また今日検診なんです。」


彼女の優しい顔が次の瞬間に悲しく曇る。

「実は...夫が亡くなってしまって、1人で産んで育てなきゃいけないんです。」


「え?!」


「妊娠が分かってすぐ、交通事故にあって...」


...まさか、そんな事があったなんて...。

何て言ってあげたらいいのだろう?


「悲しかったですね。辛かったですね。1人で大変ですけど、大丈夫です。きっと大丈夫。」


こんな言葉で彼女を慰めてあげれるか、分からない。

一人で産んで育てるのがどれだけ大変か...想像もつかない。


「ありがとう。」

彼女は涙を滲ませながら笑った。



10ヶ月になり、検診が週に一回になった。


いつもの駅に降りると、ホームに吹き抜ける風が生温かい。何故か背筋がゾッとする...。


ホームに静かに電車が着く。


ドアが開くが、何故か足がすくむ....。

検診に行かなきゃと急いで足を入れる。


優先席にまた彼女が居る。


いつもの優しい笑顔が今日は何故か不気味だ...。


吸い込まれる様に彼女の隣へ座る。


「...やっと10ヶ月になりましたね...。」


「...」

声が...出ない...どうして?


「私は待っていたんです。あなたが10ヶ月になるのを。」


...どう...いう事?

体が金縛りの様になり動けない...。


「1人の悲しい女の話をしてあげます。」


「その女は夫を交通事故で亡くし、1人で赤ちゃんを産む事を決めました。ところが...10ヶ月になり、検診に向かっている電車の中で倒れてしまいます。」


これは...まさか...この人の話?   


「お腹を強く打ち...赤ちゃんは産まれることはありませんでした。そして...その女はこの駅から線路に飛び降り、命を経った...。」


そんな...今目の前にいるのは...幽霊?


電車が急停車し...

車内にどんよりした不気味な空気が流れる...。


身体がガタガタ震える...

足元には生温かい赤い液体が広がっていく...。


彼女は血塗れで呟いた...。


「あなたの赤ちゃんを...ちょうだい。」










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