異世界への扉は開かれた
「…時間通りだな。」
「11時00分00秒。1秒たりとも狂いはございません。」
まさか本当に来るとは思いも寄らなかった。あれは幻想だと思っていた。でも今は受け入れるしかない。このあり得ない出来事を。
だって眼前にいるのだ!あのあり得ないくらい美人の黒髪美少女が!
「で、なんだ…俺をこのまま異世界へ連れて行く気か?」
「行くつもりがないのでしたら力ずくでも。」
「いや、行くつもりはあった。」
俺は何だかんだこの生活に満足していたつもりだった。毎日なんとなく大学に通い、なんとなく講義を受けて、なんとなくバイトをしたりして充実していたと思っていた。でも一方でどこか退屈さも感じていた。俺は刺激を求めていた。このまま大学を卒業して、社会に出ても社会人として死ぬまで働くというのはどーにも嫌だった。それならいっそのこと異世界に行って楽しく人生を満喫するのもありなんじゃないか?抽選だろうがなんだろうがこのワンチャン逃しちゃいけないんじゃないか?そう思い始めていた。
でも一つだけ気がかりなことがあった。
蓮奈のことだ。蓮奈はずっと今まで一緒に過ごしてきた仲だ。
だから蓮奈を置いて異世界に行くというのは...
「お好きなのですね」唐突に美少女が喋った。
人の頭の中を読むんじゃない ほんとに嫌な奴だ。 美少女じゃなかったら本気で説教したいくらいだ。
でもいざ顔を見てしまうと美しすぎて直視できなくなる。そんな情けない自分が嫌いだ。
しばらく黙っていると、美少女が口を開いた。
「では蓮奈様もご一緒に異世界にこられてはいかがでしょうか。」
「え?」
「ただそれを蓮奈様が了承されるかはわかりませんが。」
「・・・・」
「どうでしょうか。」
「わかった。 俺が蓮奈を説得する。 その代わりお前も俺についてきてくれないか? 蓮奈に信じてもらえるように。」
「わかりました。」
俺は急いで家を飛び出して蓮奈の所に向かった。蓮奈は今一人暮らしでアパートに住んでいる。俺は蓮奈の部屋の前まで行きチャイムを鳴らした。
「はーい。」ガチャ
出てきた蓮奈はもう寝るつもりだったのか寝間着姿だった。寝間着でも可愛いなあおい。
「シュウ!どうしたの?こんな遅い時間に?」
「蓮奈 話があるんだ。」
「話って?」
その時俺の後ろから美少女がひょっこり顔を覗かせた。
「話って...え?えーー!!! な、何? 彼女ができた報告でもしに来たわけ?」
「ち、違うんだ! こいつはただの異世界に誘ってくれる門番で...」
「い、意味わかんない!また異世界の話して!」
「信じてくれ!これは本当のことなんだ! 俺達異世界に行けるんだよ!」
「信じろって...何を信じればいいのよ?」
「見てろよ 今から凄いことが起こるから!」
「はあ...」蓮奈は呆れた顔をしている。まあしょうがないよな でもこの後凄いことが起こるはずさ! ・・多分
「さあ!美少女さん!異世界に行ける準備を整えてくれ!」
「わかりました。この部屋で行ってもよろしいのですか?」
「大丈夫!いいよな 蓮奈?」
「別にいいけど・・・変なことしたらただじゃおかないわよ?」
「ではお邪魔します。」 というと美少女は土足のまま部屋に上がり込んだ。
「ちょっと!!靴はいたままなんですけど?! 信じらんない!」蓮奈の悲鳴が上がる。
「ま、まあ...そこはご愛嬌ということで...この人外人さんだから...」
「めっちゃ日本語喋ってたけど?! もー! シュウもこの人も一体全体どうなってんのよおお!」
まずい。異世界に行く前に蓮奈の気が狂いそうだ。
俺は美少女に近づき、声を掛けた。
「な、なあ...急いでもらえないか?早くしないと異世界に行く前に蓮奈がどうにかなってしまいそうだ・・・。」
「すぐに終わります。」美少女はそういうと魔法陣を描き始め、何か一言呟いた。
「ワルステラ・ゲート」
次の瞬間辺り一面が眩い光に覆われ、黒い鋼鉄の門が目の前に出現した。何もかもを飲み込んでしまうような圧倒的な威圧感だった。
俺と蓮奈はあまりの出来事に言葉が出なかった。
暫くして、蓮奈が震える声でポツリと一言呟いた。
「夢・・・?」
でもこれは夢じゃない。現実の出来事だった。俺達の前には確かに門が実在した。頬なら千切れるほど引っ張った。痛かった。めちゃくちゃ痛かった。
「すげええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
俺は声を荒げた。
「ちょ・・・ちょっとシュウ! うるさいじゃない!」蓮奈は耳を塞いでいた。
でもそれくらいの興奮感が俺を包んでいた。未知の体験がもう目の前まで迫ってきている。
「準備ができたら私に声をおかけください。」